プロローグ。
アンプに繋がれたヘッドホンから流れる、ベースの低く渋い音が俺のテンションを上げ、演奏が終わると、俺はその場で立ち上がる。
いないはずなのになぜか俺の耳に響く観客の拍手と、虎夜最高! 虎夜様ーという声援にしっかりと手を振って応える。
「ありがとーう! お前ら! 最高だ!」
俺がいない観客に手を振っていると、ドアが蹴り破る勢いで開かれ、妹の羽実ちゃんが、黒髪のショートボブの左右をピンで止め、ピンクのパジャマ姿で不機嫌そうに俺のことを睨みつける。
「おにいうるさい! 頭がおかしいのは知ってるから、おかしいなりに静かにして」
家族序列最下位の俺が、妹の勉強の邪魔をしてはいけない。
「ご、ごめん、うるさかったよな。静かにするから」
羽実ちゃんは俺を睨みつけながらドアを閉める。
羽実ちゃんの足跡が隣の部屋に入ったのを確認してから、演奏セットを片付け、壁にかかっている、まだ一度しか着ていない制服を眺める。
夜なのに俺のテンションが高いのは仕方ない。なぜなら明日は入学式。しかも俺が通う高校の男女比は、男三、女七。先生は圧倒的に女性が多い。これはもう、そういうことだろ。
それに俺は高校デビューをする。
そのためにギターとベースとドラムまで習ったし、髪の毛も赤に染めて、ピアスも開けて、さらに身体も多少だけど鍛えた。
「俺は絶対、デビューを成功させる!」
「おにいうるさい!」