9話「滅んだようです」
「――ということで、ルカロイド王家は滅んだようです」
オルフォと婚約し結婚式の準備も着々と進んでいたある日のこと、一人の侍女よりそう報告を受けた。
「ほ、滅……!?」
「はい。ですから皆死することとなったのです。何でも、王子の婚約者の女性を怒らせてしまったようで」
アッシュはまたやらかしたのか。
「そうでしたか……」
恐らくまたアンターニアが揉め事の引き金を引いたのだろう。
きっとそうだ。
こう言うと失礼かもしれないが、そうとしか思えない。
「アンターニア王女が余計なことをなさったのでしょうね」
「……あ、やはり貴女もそう思われますか?」
「ええ、そう思います。エーリア様の時のこともありますので」
侍女と意見が合ったのが何だか嬉しくて。
「実は私もそう思っていたところなんです!」
思わず高めの声を発してしまった。
「そうでしたか」
返ってきたのはさらりとした言葉だけだったが。
「それではこれにて、失礼いたします」
「おしらせありがとうございました」
侍女は去っていった。
アンターニアのみならず、アッシュのみならず、王家が丸ごと滅ぶとは驚きだ。まさかそこまでの急展開があの国に襲いかかっていたなんて。
しかし可哀想だとは思わない――否、思えない、のだ。
むしろ、やっつけてくれてありがとう、くらいに思ってしまう。
私はあの人たちに散々嫌な思いをさせられた。けれども仕返しなんてできるはずもなくて、そのまま関係が終わってしまった。何か少しでも言ってやるくらいの復讐すら私にはできなかったのだ。
だからこそ、他の誰かが復讐してくれて嬉しい。
それが正直なところの感想である。
◆
今日はストラビオスに来ている。
結婚式に関する相談があるためだ。
「エーリカさんよく来てくださいましたね」
見慣れた彼の顔は今日も凛々しく、しかし対面した時に見せる笑みはとても優しげ。
目もとからさりげなく漂う色気も味わい深い。
「オルフォさん、またお会いできて嬉しいです!」
「こちらこそ」
彼に会うといつだって心が晴れやかになる。
不思議なことだなぁ、と、いつも思っている。
「本日はよろしくお願いします」
「それもこちらこそですよ。少々忙しくなりそうですが、よろしくお願いします」
さて、今日も頑張るか! なんて心の中で言ってみて、私なりに気合いを入れる。
「ではどうぞこちらへ」
「はい!」
「決定しなくてはならないことが大量にありますので」
「そうですねー、ちょっと大変そう……」
「力を合わせ乗り切るのが理想的ですね」
「もちろんです! 無能ですけど無能なりに頑張ります!」
「はは……敢えて言うんですね、無能って」
苦笑されてしまった。
でも事実だ。
私は王女ゆえ守られた環境で育てられてきたので比較的無能である。
「ですが、気合いはあります!」
「その調子ですよ」
「はい! ――って、あっ」
喋りながら歩いていたら、何もないところで急につまづく。
「危ないですよ!」
「あ……た、助かりました」
危うく転びそうになってしまった、が、オルフォが素早く支えてくれたので実際には転倒には至らなかった。
「気をつけてくださいね」
「は、はい……情けなく申し訳ありません……」