1話「婚約者の妹に嫌われています」
私は小国エミニカの王女エーリア・エミニカ。
齢十八で東隣に位置する国ルカロイドの王子アッシュ・ルカロイドと婚約した。
我が国の平穏のための婚約だった。
でも私はそれでいいと思っていた。
だってそれが民のためであり王女としての役目だから。
これが私の運命なのだ。
そう信じていた。
そうやって武力とは異なる形で国を守る、それこそが王女の役割であり我が運命なのだと。
しかしルカロイドの城では私はあまり好かれていなくて。
「あ~ら田舎者のお嬢さんじゃなぁ~い、今日もだっさぁ~い」
私を虐めてきている女性の筆頭はアッシュ・ルカロイドの実妹であるアンターニア・ルカロイドだ。
長い金髪は豪快に巻いてロール、まるでお人形であるかのような目や長い睫毛が際立った華やかな顔立ちで、装い、まとうドレスもいつも煌びやかなもの――そんな彼女は目立ちたがり屋で自分勝手な女性だ。
彼女はやたらと絡んでくるので鬱陶しい。
「あ、こんにちは。アンターニアさん」
私は彼女に遭遇するといつも軽くだけ挨拶する。
なぜなら、前にすっと離れた際にとんでもない大声で怒られてしまったからだ。
嫌いなのなら寄ってこないでほしい、それが本心だが。
しかしそんなことを口にする権利は私にはなくて。
「はぁ? 何よそれ、面白くないわねぇ。あのさぁ、あんた、さっさと城から出ていってくんなぁ~い?」
「すみませんがそれは、できません」
「どうしてよ?」
「婚約があるからです」
だから結局いつもアンターニアの思い通りになってしまう。
いつかこれから解放される日は来るのだろうか……。
「はぁ~あ~、またまたそういうの、感じ悪いのよねぇ。お兄様という後ろ盾がいるからって威張っちゃってさぁ~。生意気なのよ」
「申し訳ありません」
「悪かった自覚があるのならぁ、ここで縄跳び百回しなさいよ」
「え……」
「ほら、これ縄。早く! これを使っていいからぁ~、今すぐここで縄跳びをしなさい」
「何ですかそれは」
「黙れ!! いい? あたしはこの国の王女、逆らうことは許されないのよ」
こうして今日もやりたくないことを強制される。
毎日こんな感じだ。
絡まれて嫌なことを言われ本意でないことをさせられて。
これは新手の拷問か?
そんな風に思ってしまうような毎日である。
「あっはっはは! 見てあれ! 急に縄跳びしていらっしゃるわ!」
「恐ろしい女ね、気がどうにかなってしまっているのかしら」
「城内で縄跳びしている人間なんて……ああ、何だか恐ろしくなってきたわ……とても正気とは思えない」
今日もまた、けらけらと笑われる。
ここでの私はいつだってピエロみたいなものだ。
◆
そんなある日の昼に開催されたお茶会にて、私は突如告げられる。
「エーリア・エミニカ、お前との婚約は破棄とする!!」
アッシュはいつになく険しい顔でそんなことを発した。
「え……あ、あの、一体どういうことで……」
「お前は我が妹を侮辱したそうだな? 許されることではないぞ!」
貴方は一体何を言っているの?
「すみませんが心当たりがありません」
「アンターニアは傷ついたのだ! 侮辱されて、な!」