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8 お城と魔法のある町

 城を取り囲むように水路が敷かれているのは防衛のためなのか。

 ヨーロッパの城のトンガリ屋根の見張り塔が付属している城を想像していたが、こちらの城は一見シンプルで、大きなお屋敷みたいな見た目だった。入れないから中の様子はわからない。


 そんなお城を取り囲むように町が広がっている。

 町の入り口から真っ直ぐ王城にむかう道が敷かれ、その大通りを幹として葉脈のように道が町の細部へと広がる。


「ここが、ケレートの城下町かあ」

「はい。国の中で一番発展している都市ですよ」


 中央広場という記念碑の建てられた場所までやってきて、置かれたベンチに腰を下ろして休憩をする。町の入り口から王城へ続く道のちょうど真ん中辺りの広場である。

 露店がいくつか出ていて、人通りも多い場所だ。


 この町、人が多くてとにかく広い。

 そりゃ日本の東京に比べたら人の数も広さも段違いに少ないけど、電車もないし大きなビルなんかもないのだ、比較しにくいけど十分大都市といえるであろう。


 都市全体は城壁で囲われ、地面はレンガが敷き詰められている。町に入るまでは街道であっても砂利道だったのに。

 異国情緒漂う――いや異世界情緒漂う? 映える! って感じ。

 神殿から徒歩でほぼ一日ぐらいだからそんなに離れてないはずなのに、神殿の近くと城下町では田舎と都会ぐらいの違いがあった。


「もうすぐ日が暮れます。泊まるところを確保して今日は休みましょう」

 そんなまだまだ元気いっぱいなケティに提案されて頷いて答えた。




 神殿からの支援金は潤沢ということもあり、苦労もなく宿は決まった。

 部屋の中にベッドが2つ置いてあるツインルームを二人で使う。

 この宿の外観はレンガ造りなのに内装は木目調というあべこべで、これも魔法なのか? と勝手に思った。

 多分不可解なものは全部魔法ということにしておけば問題ないだろう。


「こちらのスイッチを押すと明かりが点きます」

「なんでだろう、説明されなくても知ってたかも」

 つやつやした石のプレートが壁に貼り付けてあって、触れると室内灯が点灯するらしい。スイッチっていってるし、タッチパネル式なだけで元いた世界と同じだ。


「明るくなれ、と言うと、明るくなります」

 ほう、音声認識とはスマート家電だね。スマホは介していないけど。

「じゃあ暗くなれって言うと?」

 私が口を挟むと、光度が下がって薄暗くなった。なるほど。


「どのぐらいの明るさかを念じればもっと細かく調整できますよ」

「念じる?」

 心の中の機微を声音から読み取るってこと? すごい技術進歩だ!


「こちらのシャワーもこのスイッチを押すと水が出ます」

 シャワールームにも室内灯と同じような石のプレートがあった。こっちもタッチパネルだ。

「明かりと同じように、熱くなれと言えば水温が上がって、ぬるくなれと言えば水温が下がります」

「すごい! 便利! もちろん念じれば微調整可だよね」

「そうです! お好みの温度に調整できます」

「これも、魔法?」

「はい、魔法です」


 魔法ってすごい!


 ちなみにトイレは洋式トイレだった。バストイレ別。バスというか、シャワールームで湯舟はなし。

 お風呂に入りたければ公衆浴場があるらしい。銭湯? 温泉? それともスパ? 機会があれば行ってみたい。


 さっそくシャワーを先に使わせてもらった。

 スイッチに触れればお湯がノズルから降り注ぐ。もうちょっと温度低めで、と念じながら「ぬるくして」と言えば希望どおりの温度に変わった。すごい。家のお風呂に不満はないけど、ここまでアクセシビリティに優れてない。この技術力素晴らしい。


 この感動を伝えたいと、素早く服を着てシャワールームから出るとケティに詰め寄った。


「ケティ、魔法ってすごいね! 感動した!」

「は、はい……」

 私の勢いに面食らったのか、ケティは若干引き気味だ。

 シャワーひとつでこんなに感動するなんて自分でもちょろい人間だなと思うけどさ。


「あ、ユエ、髪を乾かしましょう。冷えないうちに」

 ケティは気を取り直したのかそういって、ベッドの横に置かれているサイドボードからドライヤーみたいな形状のものを取り出した。見た目はドライヤーだが、コードがない。まあコンセントがないんだからあっても意味ないんだろうけど。


「いきますよ」

 私をベッドに座らせると、ケティはそんな私の背後に回り込み、ドライヤーを構えた。

 カチっと音がして、風が髪に巻き付くように吹き抜ける。ほんの10秒ほどの時間で、風が吹き抜けた後は完全に髪が乾いていた。


「すごい! これ、もって帰りたい!」

 髪の毛を乾かすのはかなりの手間だ。こんな夢のアイテム、喉から手が出そうなほど欲しい。

 大興奮の私の様子にさすがのケティも苦笑いである。


「こういう魔法の道具ってどんな人が作ってるの?」

 ケティからドライヤーを受け取って、観察しながら疑問に思ったことをケティに聞いてみる。

「魔道具共同開発機関です」


 はい?

 人の名前が出てくるかと思いきや組織だったとは意外だ。


「ケレート王家直属の、開発から販売まで手掛ける大きな組織ですよ」

「そうなんだ」

 公共事業ってことかな。確かにこの技術力はすごい。

 研究開発費はものすごくお金がかかると聞いたことがある。それを国が投資することでスムーズに開発が進んでるってことかな。一発当てれば利益は大きそうだし。

 

「ケレートは魔道具技術を誇る国家なんです」

「なるほど」


 この世界はふたつの国がそれぞれ領地を治めていると、ここに来るまでの道すがらケティに教えてもらっていた。

 ひとつが私が今いる国『ケレート』。神と救世主を崇める神殿を有する国。

 しかし神殿は国とは独立した組織なんだそうだ。神と救世主がどちらの国に属してはいけないみたいな話だったかな。そのため、王家をはじめとした国の機関は救世主の巡礼には不干渉なんだそう。


 そして、もう一方の国は『クラン』。こっちは名前だけしか教えてもらってない。

 2つしか国がないってだいぶ小さな世界なんだな、っていうのが正直な感想。

 地理とか歴史とか社会の勉強が楽そうだなとは思った。


 見た目がドライヤーにしか見えない魔道具をひっくり返したり、隙間を覗き込んだりしてひとしきり眺めて、そういえば電源は? と思い当たる。


「これって魔力で動くの? 永遠に使えるの?」

「魔力をこめることによって動くんです」


 魔力をこめる、充電的な?


「魔力をこめるって誰にでもできるの?」

「魔力を持っていないとできませんし、かなり魔力量が多くないと無理ですね」

「……私には無理か」

「ユエは魔力がないですからね」


 そう、これは結構ショックだったのだが、私には魔力がない。まさかの皆無である。

 魔法をぶっ放すとか、剣に魔法をこめるとか、そういうカッコいいことはできないのだ。

『魔力がないのは珍しいことじゃないんですよ。現に私の父と兄も魔力を持っていませんから』 とケティはさらっと言っていたが、神官長様もケティも魔法を使えていたのにそんなことあるんだって不思議に思った、

 お父さんはともかくとしてお兄さんに魔力がないのは、神官長様の魔力は遺伝しなかったのか。

 お父さんが魔力なしだからお兄さんにそれが遺伝したのか。はたまた魔力に遺伝要因はないのか。

 

「魔力をこめる専門職があるんです。かなりの好待遇だと聞いたことがあります」

「そうだよね」

 これだけ便利な道具を動かすのに必須の仕事だから、待遇が良くて当たり前だよね。

 魔力、いいな。ないものねだりだとはわかっている。



◆◇



 おいしかったー。

 街の小さな食堂で夕食を済ませて宿に戻る帰り道。

 予想以上の美味しさにケティも私もにこにこ笑顔で足取りも軽かった。

 こちらの世界も米を食べる文化があり、醤油や味噌といった発酵食品も存在していたのは食べることに困らなそうでありがたい。


 食堂では麺を食べてみた。給食で出たソフト麺に似た麺にトマトの酸味が全面に押し出されたソースを絡めて炒めてあるもの。トマトの強いうどんで作ったナポリタンみたいで私は好きな味だった。

 ケティは同じソースをからめた米を衣を付けて揚げてあるのを、これはライスコロッケまんまだったけど、頼んでいて、美味しそうに食べていた。


 香草のことは忘却の彼方に葬り去った。バイバイ。


 夜の闇に包み込まれそうになっている街の中には蛍のような光の球が複数ふわふわ漂っている。そういえば神殿の麓の村でもこれを見たんだった。

「あのふわふわ浮いてるのって灯りなの?」

 本日何度目かわからない質問をケティにぶつけると、ケティは嫌そうな素振りを一切見せずにすぐに答えてくれる。


「魔力のかけらです。原因はわからないんですけど、わずかに魔力が湧き出している場所がありまして。そういった場所に湧き出した魔力がああやって空中に漂っているんです。ちなみにあれを体内に取り込むとほんのちょっぴり魔力が回復します」

「魔力!」


 ここにも魔力か。

 つまりはマイナスイオンが可視化したようなものという認識でいいのかな。ほらマイナスイオンも魔力回復しそうな雰囲気あるし。


 すごいな、楽しいな、異世界。

 初めて知ることがいっぱい。知らないことはもっといっぱいある。

 不思議ばかり神秘ばかり、すごくわくわくする。


「ユエ、明日はポータルを使ってみようと思うんですけど」


 ケティもなんだかちょっと興奮しているのか声が弾んでいる。


「ポータル?」


 何それ、と首をかしげるが、ケティは人差し指を自分の唇に当てて、


「明日のお楽しみです」


 といたずらっ子のように笑った。

 笑ったケティがあまりにかわいくて、仕方ない。黙って明日を楽しみにしてあげることにした。



 あー、明日の朝が楽しみ!

 こんな気持ち本当に久しぶりで。

 ケティに競争だー!と持ち掛けて、顔を見合わせ合い、同時にうなずく。

 宿までの道のりを、二人で競って駆け抜けていった。




◆◇




 興奮してはいたが疲れていたようで、ケティとあれこれしゃべっている間に寝落ちして、気づけば朝。

 手早く支度を済ませて、朝食にと購入しておいたドライフルーツ入りのパンを食べて、歯磨き(私が知ってる物と同じ形だった)等も済ませた。

 

「ここがポータル?」

「いえ。ポータル利用に際し、ここで先に申請書を書かなければいけないのでお待ちください」


 と、言ってケティは受付と思われるカウンターテーブルへと向かって行った。

 

 昨日遠くから眺めていた王城の隣にある大きな建物の中である。

 外観は石造りで内部も石造りのそこは、中に入ると多くの人でごった返していた。年齢も服装も多様である。

 役所みたいなものかな。

 文字は読めないが、天井に何か書かれた看板のようなものが吊されている箇所がいくつかあって、「手続きが」とか「書類が」などという声が飛び交っている。

 カウンターテーブルの向こう側には同じ服装の人たちが忙しそうに歩き回ってる様子がうかがえた。

 

「お待たせしました」


 辺りの様子を観察しているとケティが一枚用紙を片手に戻ってきた。何が書いてあるか相変わらずわからないが、申請書類なのだろう。


「利用者と日付と時間を記入しなければならないんです」

「大がかりだね」

「悪用されたら大変なことになりますので」


 ケティはそう言いながらも近くにあった机に持っていた書類を置き、備え付けの万年筆のようなペンでさらさらと記入していく。書くところはそんなに多くなかったのかすぐにペンを元の位置に戻して顔をあげた。


「あとは提出して、手続き完了です」


 そう言って受付カウンターに向かっていくケティの後ろ姿をただ見守った。

 待ち時間長くなるかな。と、すぐにケティが戻ってきた。


「早かったね」

「神殿の許可証があるのでこちらの手続きは簡単なんです」


 神殿の許可ごあっても書類は提出しなきゃいけないのか。徹底してセキュリティなのか、お役所体質故か。


 「行きましょう!」


 張り切っているケティに促される形で私たちは入ってきたのと違う出口へと向かった。

 

 


 ポータル設置場所というそこには、地面から二段高い小さいステージみたいな場所に青白い光を放つスポットライトのようなボタン?が置かれていた。

 

 兵士のような二人組に厳重に守られた扉を抜けた先は屋外で、目の前にあったそんな光景をまじまじと眺めてしまった。

 ひょっとしてポータルって、ゲームでよくあるワープ装置というやつじゃない!?

 ケティは扉の前の兵士に見せていた許可証を中にいた係員らしき人にも見せて何やら確認をしている。

 

「最終確認完了です。あとは魔力の充填作業が終了次第の出発になるそうです」

「ポータルってあれのこと?」


 光を放つ装置を指さすとケティは一度首を縦に振る。今までケティと確認をしていた係員?さんは、そんな私たちに関心を見せず、ポータルとやらの傍まで歩いていってなにやら見回っていた。

 

「もしかして、ポータルってワープ装置のこと?」

「ご存知だったんですか!?」

「ううん、見た目から言ってそうなのかなって」

「ユエの世界にもあるんですか?」

「ないよ。ないけど、その物語とかによく出てくるから、同じなのかなって」


 当たってたのか。それ以外の物には見えないわけだけど。

 ケティはかなり興奮しているから利用ははじめてなのかもしれない。

 私もワープ装置を利用すると言われ興奮しないわけではないが、それ以上に懸念材料が多い。


「ポータルってどういう仕組み?」

「世界中のポータル同士をつないで移動させる手段です」


 ケティの説明は簡潔だ。


「例えば、生体エネルギーを光の粒子状に分解して目的地に運び、目的地で再構成するとか」

「???」

「実は高速移動してるだけで、途中に障害物があるとぶつかって体がバラバラになるとか」

「なんですかそれ。怖いです」

「虫が入り込んで転移したら、虫と融合しちゃうとか」

「……!!」


 想像したのかケティは息をのんで涙目になった。

 まあ最後のは大昔のホラー映画だ。怖いよりグロい。

 あ、もうひとつ、転移するはずが過去に飛んでしまうっていうのもあるか。

 色々危険が伴う、それがワープ装置である。

 

「ユエ、あの、ポータルとポータル間の道を作って、利用者の周りを保護する障壁で包み込んで、高速移動するというイメージなので、分解とかはありません」


 ご安心くださいね、とケティに諭されて、なるほど納得した。事前の説明って大事だ。少しだけ不安が消えてわくわく感が湧き上がってくる。


「あ、充填作業終わったみたいですよ」


 ただ確認をしていただけかと思ったら魔力を込めていたんだ。係員さん?がこちらに向かってくるのをもっとしっかり見ておけばよかったと後悔した。

 充填作業にもちょっと興味はあったのだ。方法とか、コストとか。


「行きましょう!」


 ステージにあがるステップをケティと並んで登る。


「これ踏めばいいの?」

「はい! いきますよ、せーの!」


 青白い光めがけて、ケティと同時に足を一歩踏み出した。


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