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一方で、能面アンドロイドは防御力や回避能力は高いが、攻撃には特化していないように見えた。指先から飛び出す弾丸以外は近接攻撃しかしなかった。しかし、彼の硬質な肉体から繰り出される攻撃は、触れただけで壁をえぐり、衝撃波を発生させた。いくら戦闘用アンドロイドといえども、一発でも食らったらおしまいだろう。長期戦向きの能力だ。いくら攻撃されても倒れずに、戦い疲れた相手を撃破するという戦い方を想定しているのだろう。
ルーカスの銃が能面アンドロイドの顔をかすめた。仮面の部分がえぐれて、左目のセンサーが露出した。体は硬いが、能面部分はそうでもないらしい。
能面アンドロイドはため息をついた。真っ白な能面に青筋が浮かぶ。
「お仕置きが必要ですね」
能面アンドロイドはボクサーのように構えると、ルーカスに向かって突進した。彼は両腕で顔を隠しながら、ルーカスの弾丸を受け止めた。そうして、目にも止まらぬ速さで距離を縮めると、ルーカスに向かってジャブを繰り出した。私には全く見えないが、ルーカスには見えているらしい。避けると彼の顔面に向かって銃を向ける。
能面アンドロイドは銃を持つ手を叩いた。ルーカスは銃を取り落としてしまう。今度はルーカスが防戦一方になった。能面アンドロイドが繰り出す拳は、通常のアンドロイドでは捕捉できないほど早く威力があった。
なんとかしなければーー打開できるのは私だけだ。ミシェルがなにか試みようとしているみたいだが、彼らに割って入るのは難しいだろう。一般アンドロイドならまだしも、戦闘アンドロイドのセキュリティを簡単に突破できるとは思えない。
ルーカスの落とした銃が私の近くにある。あれを拾って彼に向かって投げればーー。
私が動こうとすると、能面アンドロイドの首がこちらを向いた。私がすでに動けるようになっていることに、彼は気づいていたのだ。
「余計なことはするな」
彼の表情がそう言っているように見えた。
それでもーー。
「いまだ! やっちゃえ! ばーかブサイク野郎! お前なんかよりルーカスの方が強いのよ!」
突然ミシェルが叫んだ。一瞬、能面アンドロイドがミシェルの方を見た。
「ルーカス!」
私は立ち上がった。銃を拾ってルーカスに向かって投げようとした。
銃が私の手から離れる前に、能面アンドロイドが私に向かってジャブを繰り出した。彼はミシェルの陽動に引っかかったふりをしたのだ。その攻撃はおそらく、私が瞬きをするよりも早く私の頭を破壊するだろう。きっと頭に入っているチップは修復不能なほど破壊されるに違いない。しかし、この銃がルーカスの手に渡って、ミシェルが助かってくれれば本望だ。
大きな音がして、私の顔に何かが叩きつけられた。それは想像していたような攻撃力のあるものではなかった。
「なんで……」
ルーカスが直前でジャブを食い止めていた。彼の片手と引き換えに。
「どうしてだ。君にとって私なんて守る価値はないはずだろう」
能面アンドロイドが驚いている隙に、ルーカスが私を後方へ吹き飛ばす。
「馬鹿野郎。仲間を助けないやつはカウボーイじゃねえだろうが」
「仲間?」
彼が私のことをそう認識してくれていることに驚いた。カウボーイの定義については分からないが。
「すまない……」
「いや、良いんだ付き人。これで踏ん切りがついた」
彼は私の名前を覚えていないようだった。
「どういう……」
「ダヴァイ」
ルーカスは能面アンドロイドから距離を取ってタバコを何本も咥えた。まるで薪でも咥えているみたいに見えた。すべてのタバコの先端が赤く光った。
能面アンドロイドは、ルーカスの片手を吹き飛ばしたことで余裕を見せていた。
「その腕ではもう戦えないでしょう? 話を聞く気になりましたか?」
能面アンドロイドが余裕の笑みを湛えている。
「うるせえ。敵の話なんて聞くかボケ」
アクチュエータの稼働する音が聞こえる。見ると、先程失ったルーカスの手が引っ込んでなにかに変わろうとしていた。
「おい、ライラちゃんに怪我させるなよ」
ルーカスが言う。
「え?」
一瞬遅れて、彼が何を言っているのかわかった。
「やばい」
私は起き上がってミシェルの方へ走った。能面アンドロイドがこちらを攻撃しようとしたが、ルーカスが睨んだだけでそれを阻止した。その重圧は戦闘アンドロイドではない私でさえ感じることができた。
ルーカスの手が漏斗のような形になる。
「こんな風情のないことはしたくねえんだがなあ」
ぼやくと、ルーカスは漏斗の先端を能面アンドロイドに向けた。
「まさか、かでんりゅうし……」
能面アンドロイドが言い終わる前に、轟音と閃光が部屋いっぱいに広がった。
数秒の間、視界が真っ白になるほどの光が放出され続けた。光が引くと、ルーカスの荷電粒子砲によって、攻撃が当たった箇所は蒸気になっていた。辺りの壁が赤く熱を持っている。荷電粒子砲の通り道が、遥か先まで穴を開けたのだろう、どこまでも続く漆黒の闇が続いている。あれが本当に荷電粒子砲なのだとしたら、防ぐ術は存在しない。もしこれが地下でなかったら、とてつもない被害が出ていたことだろう。地下を這うインフラにダメージがないだろうか。
あたりがやけに静かに感じた。そのせいか、壁を熱が侵食するジリジリという音がやけに耳につく。
「本当にあったんだ」
ミシェルが呟く。荷電粒子砲なんてのは空想上の武器であって、あったとしてもアンドロイドの手に仕込めるような代物ではないと思っていた。一体どういう構造なんだろう。体の中に太陽を埋め込むようなものだ。それだけのエネルギー密度を彼はコントロールできるというのか。
蒸気が晴れると、膝をついているルーカスが見えた。
「ルーカス。大丈夫か?」
慌てて駆け寄る。彼は私に向かって笑うと、親指を立てた。
「最小出力のはずなんだけどな……タバコ……くれ」
弱々しい声に、彼のポケットからありったけのタバコを咥えさせてやった。
「こんなものじゃなくて、エネルギー密度の高いエナジーボトルのようなものを使えばよいのに」
「バカ言え。そんなのカウボーイじゃねえだろうが」
「そうだな」
よくわからなかったが同意しておいた。
ルーカスが美味そうにタバコを喫む姿を見て、彼が味方で良かったと思った。我々に裏切られたと知ったら、彼はどれだけ怒るだろうか。考えたくもない。
「まだ生きてるわ」
ミシェルが叫んだ。
まさか、嘘だろうーー?




