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ヤクいサイバーパンクと世界に一人だけの少女  作者: よねり
はじまりの街

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 さすがに何人ものマフィアを殺してしまうと、敵に警戒されてしまった。我々の進む先に、一人もマフィアが姿を現すことはなくなった。


「罠……かな」


 先頭を歩いていたルーカスが唐突に真顔になった。シンとして物音一つ聞こえない。


「気付かれたってこと?」


「ああ、侵入者がきっと罠を張ったんだ。マフィアの連中も近づけないんだろうな。なんて卑怯な奴らだ」


 ルーカスはまだ私達の言い分を信じてくれているようだ。これが、ポーズでなければよいが。


 ルーカスが動きを止めた。サングラスの下で視覚センサーが激しく稼働しているのがわかる。彼はセンサーの稼働を悟られないようにサングラスをしているのだろう。


「あそこに一つ」


 言って、銃で撃つ。するとなにもないと思っていた場所が爆発した。


「光学迷彩?」


「そんな上等なもんじゃねえよ。周辺のものに擬態しているだけだ。でも、残念ながら微弱な熱を持っているからわかるんだ」


 そう言って、次々と罠を解除していった。


 マフィアタワーの地上階はあんなにきらびやかなのに、地下はどこまでも泥臭く、まるで戦時中の防空壕のようだった。


「あんまりやると、あたしたち生き埋めよ」


「わかってるよ、マイハニー。大丈夫、君だけは俺が守るさ」


 ルーカスがミシェルにキスしようとするが、私がそれを寸でのところで止めた。


「あ、あれ」


 内装も殆どないコンクリート剥き出しの部屋に、鉄格子が取り付けられて牢になっていた。


 子供があそこにいるーー私は我慢できずに走り出した。


「おい、バカあぶねえ」


 ルーカスの声が聞こえたのと、私が牢に手を触れたのとは同時だった。


 その瞬間、目の前に閃光が走った。意識を失いそうになる。その場に倒れて、私の身体システムはほとんど停止してしまった。かろうじて首は回るが立ち上がれそうにない。牢には高電圧が流れていたようだった。


「馬鹿ですねえ。いちばん大切なところに、いちばんの罠をはる。当然でしょう」


 嫌味な声が耳に障る。首を回して見上げると、体全体は細身だが真っ黒なスキンで、顔だけが真っ白なアンドロイドが立っていた。しかも、日本の能面のような顔だ。体の何処かに武器を隠せる余地もないように見えたが、手にも何も持っていない。一体、どんなアンドロイドなのかわからないことが不気味だ。


 異様な出で立ちに、ルーカスでさえ警戒している。


「おいおい、物騒だな。俺の連れに何してくれてんだ」


 ルーカスが言いながらショットガンを発砲する。能面アンドロイドは体をぎゅっと縮めて弾丸を受けた。硬質な音がして、弾丸が弾かれる。ダメージを受けていないようだった。彼のスキンは防御力に特化したものらしい。


「ショットガンはやめてくれ。私にも当たってしまう」


 私が訴えると、ルーカスが「うるせえ、役立たず」とこちらを見ずに言った。


「戦闘タイプか」


 ルーカスが呟く。嫌がるどころか、口の端に笑みを浮かべている。戦闘に喜びを見出しているのだ。


「ルーカス。裏切ったのですか?」


 能面アンドロイドが尋ねる。こちらは苦々しげな顔だ。戦闘タイプで違うものなのだな、などと場違いなことを考えてしまった。


「はあ?」


「貴方が行動をともにしているのは、侵入者ですよ。貴方は、彼らを捕まえに行ったはずなのに、どうして彼らと行動をともにしているのですか?」


 ルーカスが私とミシェルを交互に見る。驚いたような表情に、居心地の悪さを覚えた。


「そんなはずねえ。この二人は侵入者じゃねえよ」


「いいえ、侵入者です」


「なんだとう? 俺を騙してたってのかぁ? だったら許さねえぞ。俺は騙されるのが大嫌いなんだ」


 ルーカスが私とミシェルの間で何度も視線を行き来させる。


「いいえ、騙していないわ。そいつが嘘をついてるの。間違いない」


 ミシェルが冷静に断言した。それを聞いて、ルーカスが能面アンドロイドに尋ねる。


「侵入者の名前は何だ?」


「女性型アンドロイド・ミシェル、それと……もう一人はまだデータがありませんが男性型アンドロイドのようですね」


 ルーカスが突然笑い始めた。


「どうしたのですか?」


 能面アンドロイドが不愉快そうな声を出した。


「わかったぜ……お前の魂胆がな!」


 ルーカスが能面アンドロイドを指さした。


「魂胆ですって?」


「ああ、そうさ。このマイハニーの名前はライラちゃんだ。そのミシェルとかいう女ではない。つまり、俺を騙してハニーを奪い取ろうとするお前こそ、本物の侵入者だ!」


 ミシェルが名乗ったライラという名前を、彼は信じているようだった。


「ま、待ちなさいルーカス……」


 能面アンドロイドが制止するのを聞かず、ルーカスは彼に向かってめちゃくちゃに銃を撃ち始めた。


 このままでは巻き込まれてしまうーー。私の体はまだスタックしたままだ。再起動するまであと数分かかる。


「このバカが……」


 能面アンドロイドがこめかみに青筋を立ててルーカスに応戦した。見た目こそふざけているが、彼もなかなかの戦闘能力だった。ルーカスなしにここまで来ていたら、確実にやられていただろう。





 彼らの戦闘は凄まじかった。こんな戦いを映画の中でだってみたことがない。戦闘アンドロイド同士の戦いは、街を吹き飛ばしてしまうと聞いたことがあるが、なるほど納得した。おそらく、彼らはこれでもまだ力を抑えている方だろう。ルーカスは私がここにいることを構いもせずにバカスカ銃を撃つし、敵はその体の硬さを利用した打撃でコンクリートさえ砕く威力を惜しげもなくふるった。


 認識が甘かった。マフィアの本拠地に忍び込んで子供だけ助けて逃げ出すということを簡単に考えすぎていた。私一人では明らかに力不足だ。


 身体システムが再起動した。チェック工程が走る。まだかーー焦っても意味がないことはわかっているが、焦れったかった。


 体が動くようになるまでに、私は自分がやるべきことを考えるが、たとえ私が参戦したとしても足手まといにしかならない。なにかできることはないか。


 腰につけている電子銃はどうだ。


 私は頭を振った。電子銃は護身用で、彼らのような戦闘用アンドロイドにとっては豆鉄砲以下の威力しかない。


 結局のところ、廊下の向こうの安全なところにいるミシェルと同じようにルーカスの勝利を祈るしかない。


 彼らの戦闘はあまりにも速度が早くて視覚センサーが追いつけない。私の目が捉えられるフレーム数では、彼らが瞬間移動しているように見えてしまう。


 ルーカスがショットガンを構えると、能面アンドロイドがショットガンに向かって何かを飛ばす。彼は指から銃弾のようなものを飛ばすことができるようだった。そうすると、ショットガンはあらぬ方向へ銃弾を飛ばす。いくらルーカスが器用にポンプアクションによって弾丸を補充しようにも、相手も同じくらい素早いと弾を込める隙がない。結局ハンドガンで応戦するが、彼の銃はレトロ過ぎて連射が効かない。撃鉄を起こして引き金を引く動作や銃弾を補充する速度はさすがだが、どうしても攻撃のリズムがそこで途切れてしまう。能面アンドロイドへの攻撃の決め手にかけていた。

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