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ヤクいサイバーパンクと世界に一人だけの少女  作者: よねり
はじまりの街

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 フロアから脱出するには、ルーカスが開けた穴から上のフロアへ行けばよかった。しかも間抜けなことに、ルーカスはこのビルの地下の構造を詳細に私達に教えてくれた。


「牢はこの上のフロアにあるのを見たぜ」


 ルーカスが天井を指差す。


「誰か捕まってんのか?」


 私とミシェルは顔を見合わせた。


「そうなの。仲間がね。ちょっとマフィアの怒りを買っちゃったみたいで」


「ふうん。マフィアに目ぇつけられるなんて、難儀なこったな」


 ルーカスは興味なさそうに呟いた。


「頼りになるのね、ルーカス」


 ミシェルがルーカスの背中に飛び乗る。ルーカスが途端に元気になって、彼女を背負った。彼女を持たなくて良いのは楽だが、胸を押し付けられて鼻の下を伸ばしているルーカスを見ているともやもやした気持ちになった。


「ハニーの名前はなんていうんだい?」


 ルーカスが尋ねる。一瞬、空気が張り詰めたような気がした。


「ライラよ」


「ライラちゃんかぁ。可愛い名前だな」


「私は……」


「付き人の名前は聞いてねえよ」


 ルーカスが私を睨みつける。


「彼はドゥッセル。私の付き人よ」


 ドゥッセル。ドイツ語で間抜けという意味だ。ミシェルがこちらを振り返ってニヤリと笑う。


 道中、ルーカスは自身の戦歴を繰り返し話していた。話だけ聞いていると、たしかにミシェルが言った通り彼はアンドロイド最強だろう。本当かどうかはわからないが、彼一人で町一つを消し飛ばすだけの戦力があるらしい。


「この手はいろんな武器に換装できるんだ。スナイパーライフルだって、ガトリングガンだって、RPGにだってなるぜ」


「荷電粒子砲は?」


 私が尋ねると、彼は露骨に嫌そうな顔で私を睨みつけた。


「はあ〜? てめえは何もわかっちゃいねえな。あんなもん、ロマンのかけらもねえだろうが」


 荷電粒子砲というのは、高速の荷電粒子を撃ち出すSF的な兵器である。電子や陽子などを小型の加速器で亜光速まで加速することで桁外れのエネルギーを打ち出すことができる。もし、腕に装備することができるなら、町の一つや二つは簡単に消滅させられるだろう。そんな小型化が可能ならば。


「だいたいなあ、男と男の戦いに、そんなもんは必要ねえんだよ……」


 彼のガンマン理論は長々と続いた。ルーカスに見つからないように、ミシェルがうんざりした顔で舌を出していた。


「……ていうわけだ。わかったか? まあ、荷電粒子砲は装備してはあるんだがよ」


「あるの!?」


 ミシェルが驚いた様子で叫んだ。あまりの声量にルーカスは驚いた。


「あ、ああ。そりゃあ、まあ、仕事で必要だったからよお。渋々だが」


「実用化されていたんだ……」


 ミシェルが深刻な顔でひとりごちた。


「そんなにまずいのか」


「まずいなんてもんじゃないわよ。バカね」


 ミシェルが私を睨みつける。それを見て、ルーカスが腹を抱えて笑った。


「バカだってよ〜。バーカバーカ」


 ルーカスがあまりにも笑うものだから、ミシェルがルーカスの背中から落ちそうになって、慌てて私が受け止めた。結局戻ってきたことにホッとした。


「おい、俺のライラちゃんに気安く触るんじゃねえぞ。特におっぱいはだめだ」


 ルーカスが私の額に人差し指を突き刺すようにして言った。彼の顔が視界いっぱいに見えて不気味だ。


「はいはい。私は付き人だからね」


「よくわかってんじゃねえか」


 ルーカスがクルリと振り返って、後ろ手に指をちょいちょいと曲げた。ミシェルを背負いたいというジェスチャーだろうか。


「落とさないでよね」


 ミシェルが言って飛びつく。声色とは裏腹に、めんどくさそうな顔をしていた。




 途中、何度かマフィアの部下と遭遇した。その度に戦闘は苛烈だった。いや、苛烈だったのは見た目だけだ。内容は一方的な虐殺だ。彼は流れるようにショットガンのポンプアクションを片手で操作して弾を装填し、常にどちらかの手は銃の引き金を引いていた。


「あれ、侵入者じゃない?」


 ミシェルが言うと、マフィアの部下が何か言う前にルーカスが始末した。彼は少しの躊躇もなくアンドロイドを殺す。味方であるうちは心強いが、彼が敵に回ったらと考えたら恐ろしい。気付かれないうちに、彼のシステムを破壊すべきかもしれない。そうミシェルに進言したが、彼女は拒否した。ルーカスのシステムは、ミシェルの能力をもってしても、気付かれずにシステムを書き換えることは不可能らしい。強いのはフィジカルだけかと思ったが、当然クラッキング対策も完璧らしい。それなのに、どうして知能をもっと高くしなかったのだろうか。


 このフロアはジャミングもスイッチングノイズもないので、ミシェルの索敵能力が完璧に作動した。一言でも喋られてしまっては、我々の正体がバレてしまう。しかし、ミシェルとルーカスのコンビならその心配もない。私が作った電子ドラッグをミシェルが付近の監視AIに打ち込むことで、監視もままならないはずだ。今頃、マフィアたちは慌てているに違いない。


 私達は良いチームなんじゃないかと思い始めてきた。向かうところ敵なしのような気がしている。


 ルーカスは絶えず電子タバコを咥えていた。煙を吐き出すときに「ダヴァイ」というのだが、それがどういう意味なのかはわからない。


「それは普通の電子タバコなの?」


 ミシェルが尋ねる。


「いや、これは俺用に特別に作ってもらってる。このカラダは強いかわりに燃費がわりいのよ」


 不味そうに煙を吐き出して「ダヴァイ」と呟く。


「ルーカスはロシアモデルなのか?」


 私が尋ねると、ルーカスはジロリとサングラスの下で私を睨みつけた。良いチームだと思っていたのは私だけのようだ。


「俺はカウボーイだぜ? チャキチャキの合衆国モデルよ」


 不機嫌そうに答えた。


「カウボーイとアメリカに関係はないだろう。そもそもカウボーイっていうのは……」


「おいおい、嘘だろうお坊ちゃん」


 ルーカスは私の言葉を遮って大げさに頭を抱えた。


「荒野のガンマン、見たことねえのか?」


「いや、ないね」


 答えると、ルーカスは信じられないという様子で天を仰いだ。


「てめえ、人生の99%を損しているぜ」


「そんな……私の人生は無意味だったのか……」


 私が打ちひしがれたような顔をすると、ルーカスは私の肩にポンと手をおいた。


「今からでも遅くねえよ、取り戻していこうぜ。てめえの人生をよ」


 そう言って、ルーカスは人間時代の西部劇映画のタイトルを次々と上げていった。一つも私のメモリには残らなかった。

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