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ヤクいサイバーパンクと世界に一人だけの少女  作者: よねり
はじまりの街

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「ねえ知ってる。最近のアンドロイドの自殺は、寿命プログラムのせいらしいわよ」


 ミシェルが言った。彼女の髪型が今と少し違う。だから、これは夢だ。アンドロイドの夢は過去のデータだ。


「寿命プログラム?」


 確か、私はこう答えたはずだ。


「そう、アンドロイドは生きようと思えば、永遠に生きられるじゃない? だから、それを終わらせるためね」


 私は考えるように、顎に手を当てた。


「永遠って言っても、体の全てのパーツを取り替えたら、それは自分だと言えるだろうか」


 常々考えていたことだ。私の私たる所以はどこにあるのだろう。人間もその歴史の中でずっとそのことを追っていた。


「意識があれば」


 ミシェルが素っ気なく答える。彼女とはこの手の問答を何度もしている。


「その意識だって、本当に自分の意識なのかわからないじゃないか。データを移しているだけだろう。その元データと移行先のデータに齟齬はないのか?」


「ベリファイすればいいじゃない」


 呆れたように言う彼女に、なおも食い下がる。


「ベリファイしたところで。例えば記憶のデータのハッシュ値が同じだったとして、それが同じものだと言えるか」


「言えると思うわ」


「何を根拠に?」


 私が突っ込むと、彼女は「理屈っぽくて嫌」と言って立ち上がった。


 いつも最後は彼女がこうやって怒って終わりになる。怒った彼女を見るのが楽しかった。





「大丈夫ですか?」


 聞き慣れない声を感知して、私のシステムは再起動した。


 全身をチェックするツールが、身体の損傷及びデータの破損がないことを告げる。


 目を開けると、先ほど倒れた場所だった。そして、私の顔を覗き込んでいるのは、先ほど私がバラバラにしたアンドロイドだった。


「なぜ、生きている」


 私は起き上がって、彼の全身をスキャンした。外傷は見当たらない。念の為に触って確認するが、体はきちんとくっついていた。


「バラバラになったはずだ」


「はあ?」


 彼は気味の悪そうな顔で私から距離をとると、そのまま高速移動でどこかへ行ってしまった。


 なんだったんだーー。


 気味が悪いのはこっちも同じだ。一体、どういうことなのだ。





「なあ、あんた」


 不意に声をかけられ振り返ると、ボロ切れをまとった汚らしいアンドロイドが立っていた。スラムにいるような風貌だ。しかし、ここはスラムではないのに、どうしてそんなアンドロイドがここにいるのだろう。


「ちょっと電力を貸してくれよ」


 卑屈な笑みを浮かべ、アンドロイドは言った。スラムのアンドロイドはこういった乞食行為をするものが多い。彼は電力が足りずに高速移動ができないのだろう。こちらも電力不足でスリープしたばかりなのだ。エネルギーがほしいのはこちらのほうだ。


「悪いが他を当たってくれ。急いでるんだ」


 先ほどのことは、何かの思考バグだと解釈した。この間から、何かおかしい気がする。あの子供が現れた時からだ。


「なあ、あんた、俺のことを助けてくれよぉ。あんたのことも助けてやるからさぁ」


「悪いが、あなたに助けられることなど一つもない」


 私は服を叩いてゴミを落とした。


「だって、ほら」


 乞食は足元を指差した。私は思わず悲鳴をあげてしまった。


 そこには、先ほどぶつかったアンドロイドが、やはりバラバラになっていたからだ。





 人間には三大欲求がある。食欲、性欲、睡眠欲と呼ばれるものだ。我々は食物を必要としないし、睡眠もメンテナンス以外には必要ない。もしアンドロイドに同じようなものがあるとしたら、学習欲求、探究欲求、社交欲求になるだろう。この三大欲求を全てひっくるめて、我々アンドロイドは性欲と呼んでいる。


「セックスさせてくれたら黙っていてやるよ」


 乞食が言う。先ほどに比べて、ずいぶん要求が大きくなったじゃないか。彼のようにメンテナンスもされていないアンドロイドと、物理的に繋がるなんて、考えただけでも悍ましい。


「断る」


 私がキッパリと言い放つと、彼は眉間に皺を寄せた。


「良いんだぜ、俺は警察を呼ぶだけだからな」


「これが私のやったことだという証拠はあるのか。先ほどの青年なら、ピンピンしていただろう」


 乞食は眉を顰めた。


「何を言っている。あんたはずっと一人だった」


「そんなはずは……」


 私は先ほどの青年と喋っていた場面の録画を再生しようとした。しかし、私が記憶している場面は保存されていなかった。


「なぜ……」


「ほら、どうするんだ」


 私は言葉に詰まった。こんな乞食にかまっている暇はない。しかし、警察を呼ばれたら面倒だ。彼らから逃れられるアンドロイドはいない。


「それに、私も君も男性タイプだろう」


 言うと、乞食はニヤリと笑って股間に巻いていた布を剥ぎ取った。そこには、男性タイプのプラグも、女性タイプのポートもついていた。こいつは、性欲を追及しすぎて社会からドロップアウトしてしまったタイプの乞食だ。この手のアンドロイドはかなり多い。安い電子ドラッグを求めてくるのもこういうタイプである。彼らは見境もなければ節操もない。クラブの中から出られないアンドロイドたちもそうだが、彼らは極端すぎる。他の何もかもを犠牲にして、それだけしか見えなくなるのだ。プログラムのバグに違いない。


「ほら、良いだろう」


 乞食は舌なめずりをして、私の股間に指を這わせた。彼は私を路地に連れ込むと、手早く私のズボンのファスナーをおろし、ケーブルを引き出す。良いようにされて、私は動けないでいた。


 実はアンドロイド同士のセックスは無線でもできるが、それでは風情がないのでほとんど使用されない。ケーブルを介した方が人間の生殖器のようではないか。それに、あの醜悪なデザインとは違って、我々アンドロイドの生殖器ケーブルは洒落ている。人間そっくりのものを使うやつもいるが。


 セックスの際には電子ドラッグを使うことが多い。我々は人間と違って、単純な摩擦で快楽を得ることはできないからだ。たまに、そのドラッグが強すぎて失神してしまったり、違法ドラッグを使って溺れたりするものもいる。かつての人間もそうだと聞いていた。それならば、我々と人間とはどう違うのか。


 乞食はケーブルの先についているプラグをポートに接続すると、ブルリと体を震わせた。質の悪い電子ドラッグが転送されてくる。私はそれを拒否して、高刺激の電子ドラッグを送り返した。


「おお、おお」


 乞食は震える声を何度か漏らすと、動かなくなった。私の電子ドラッグで彼の回路を焼き切ったのだ。


 体が過熱している。冷却のために顔に汗をかいていた。息も荒い。相手の回路を焼き切るほどの電子ドラッグだ。自身にも影響があったと言うことだろう。


 真っ直ぐ歩けない。路地を出る前に膝をついてしまった。這いずるように進む。手を伸ばせば、すぐそこに表の通りがーー。

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