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全員集合

「ニールを呼ぼう」

「そうね、あの子が最適だと思う」


 ゼインが借りた宿のベッド。

 私たちは再び目と皮膚の色が変化しだした人間の男に、考えられる限りの魔法を施していた。

 私たちの頭には同じ事が浮かんでいる。

 時間が無い。

 このままだと彼は……魔物になる。


「でもあんた大丈夫なの?ニールと二人同時にネオ・アーデン離れられないんでしょ?」

「緊急事態だ。それに、それは人間のルールだ」

 人間のルール……。

 そっか、今日のあんたは魔法使いだったわね。

 ベッドの反対側で時計を操作しだすゼインをチラッと見る。

「ニールか?緊急事態だ。すぐにシェラザードへ来い。…は?今なんて…」

 ゼインの声に若干の戸惑いが感じられる。

「ニールなんて言ってんの?」

「5秒で行く……」


 ゼインが言いかけた時、ベッドが寄せてある壁から、ニョキッと顔が飛び出した。

「「!?」」

「あ、やほー……。面白い事態になってる…ね?」

 壁から首だけ出してベッドをチラッと見るニール。

「ニール、お前、何でここに……」

「説明はあとね。とりあえずショーン引っ張って来る」

「ショーン?」

 消えたニールは、今度はショーンと一緒に壁から飛び出して来た。

「呼ばれて飛び出て……うわー決算書類!!」

「うぷっ…僕は雑誌の原稿です……」


 意味不明な二人にさすがのゼインも戸惑いが隠せない。

「ど、どうしたのだ2人とも。気分が悪いのか?まさか重篤な…」

 そう言いかけたゼインの端末が震える。

「こ、今度はなんだ!?」

 焦りながら時計と話し出すゼイン。

「…何だと!?…ああ、ああ、それで?……あんの馬鹿魔女が……!!」

 ゼインの言う馬鹿魔女は、私かアレクシアだ。

 いやいや私は馬鹿じゃないから……

「ゼイン!!全員集めて!緊急集合!!」

 私の声にハッと我にかえり、時計の向こうに指示を飛ばすゼイン。

 ゼインが時計から顔を上げた瞬間、彼らは現れた。

 ギリアムと、アレクシアと……見知らぬ男が。



「ディアナ様〜!わたくしシエラの遺物を発見しましたの!きっと素晴らしいドレスが……」

 腰に纏わりつくアレクシアを引き離しながら私は檄を飛ばす。

「ニール!その子を全力浄化!ええと…とりあえず状態異常治癒!」

「や、やってみる!」

「ゼイン補佐!」

「わかってる!」

「ギリアム、結界!部屋に防音と侵入阻害!」

「うす!」

「ショーン、漏れ出た魔力を浄化しなさい!」

「は、はい!!」

 やれるだけの事はやる。駄目だったら……いや、それは考えない。

 やるのみ!


 檄を飛ばしながらも、一応私は気づいていた。トリオの魔力があまりにも少ない事に。

 ギリアムに至ってはほとんど魔力が無い。

 結界はどうやって……いや、後だ。

 ギュウギュウ抱きつくアレクシアを引き剥がし、肩を掴んで正面に見据える。

「アレクシア、あんた人形使ったのね?」

 問えばアレクシアが唇を尖らせる。

「……この者達が仕事仕事とつまらぬことを言うのです」

 やっぱりか……。


「小言はあとよ。アレクシア、よくやった。よく3人を連れて来てくれた。でもお願い、ネオ・アーデンに戻って人形を止めて来て。魔力が抜け切れないなら寝かせてくれてもいい。緊急事態なの」

 紫色のアレクシアの瞳をジッと見る。

「…お願いよ。私たち…友だちでしょう?」

 アレクシアの瞳が大きく開く。

「と……とも……とも…だち……」

「そうよ、あんたは私のたった一人の友だちよ。お願い、あの子たちにこっちに集中してもらいたいの」

 アレクシアの紫色の瞳に涙が盛り上がる。

「もちろん、もちろんですわ!!わたくしディアナ様の友だちですもの!!あの3ムシの魔力ごときっちり回収して参りますわ!!」

 喜色満面で転移するアレクシアを貼り付けた笑顔で見送ると、私は大急ぎでベッドに駆け寄った。



 ニールが男の心臓を抑え、聖魔法で体を巡る血液を清めている。

 魔に魅入られるのも、魔障を受けるのも、行き着く先は同じだ。

 自我の崩壊と肉体の破壊と再生。そう…魔物化。 


「どう!?まだ駄目ね……」

 ニールの右隣に立ち、ベッドの上の男の瞳を見る。

「ディアナ、この男の時間の流れを遅くしたらどうだ。魔力の巡りを抑えられないか」

 ゼインが言う。

 ……人体への時間魔法はかなりリスクがある。

 あるけど…魔物になるよりいいに決まっている。

「いい考えだと思う。時間魔法、私がやるわ。そしてニール、こっち向いて」

「うん…え、何で?」

 ニールが目だけこちらを向く。

「おそらく魔力が足りなくなる。私の魔力分けるから」

「えっ!?だ、だめ!!」

 頭をぶんぶん振って拒否する。

「は!?なんでよ!ふざけてる場合じゃないでしょ!ただでさえ聖魔法は負担が大きいのに!」

「ふざけてない!人生かかってる!えーと、ゼイン!何か言って!」

 何とか言ってみなさいよ!と睨みつけるようにゼインを見れば、眉間に皺を寄せ深刻な顔をしていた。

「…ディアナ、やめておいた方がいい。お前には言いにくいが、お前の魔力を聖魔法が拒んだら困るだろう?」

 そうだった…。

 なんて事だ。なんて役に立たない魔力なんだ……。


「ディアナ、大丈夫だ。何も心配いらない」

 ゼインが私を見て首を振る。

 大丈夫……?

「ギリアム、ショーン、こちらへ」

「うす!」「はい!」

 ギリアムとショーンを呼んだあと、ゼインは時計を外しだした。

 その様子を見て、二人もゼインに続く。

「ニール、お前の魔力ほどの効果は出ないが無いよりはマシだ。使え」

「サンキュ!」

 ゼインがニールの腕に時計を巻く。

「俺のは魔力ですら無いかもっす」

「オッケー、逆にいいかも」

 ギリアムもニールの腕に時計を巻く。

「僕のは多分弱っちいです」

「あはは!伸び盛りでしょ」

 ショーンもニールの腕に時計を巻き、そして4人が私を見る。

「姉さん、ほら早く時間魔法見せて下さい」

「ディアナさんの魔法っていいですよね。何かキレイな粒子みたいなのが出てて」


 なんでかな…。なんでこんなに胸が熱いんだろう。

 あんたたち、本当に尊いわ。

「ば、ばっかねぇ。時間魔法は見えないのよ!」

 私は誰に言われた訳ではないが、なんとなく丁寧に呪文を詠唱してみたりした。

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