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何のための魔法

『ようやった、青ムシ』

「はあ、いえ……」



 ゼインがディアナちゃんを追いかけてからもうすぐ半日。

 橙色に染まろうとしているネオ・アーデンの空を窓から見上げながら、溜息と一緒に端末の通信を切る。


「ニールさん、クラーレット所長なんて言ってたっすか?」

 モニターに映る夥しい文字列を目で追いながら、ギリアムが僕に問いかける。

「よくやったって、それだけ。まぁ…その内現れるでしょ」

「そっすね。…自由というかなんというか……」

「ほんとだよね」

 クラーレットさんを見ていると、最初に会った頃のゼインを思い出す。

 強い魔力と、確固たる信念。

 ついでにめちゃくちゃ自分勝手で我儘で……。


「ふぅ……。ヤバいっすね。マジでヤバい」

「ギリアムの語彙力が?」

 ガーディアンの社員全員の内偵を頼まれたギリアムは、ゼインの行動履歴とその時間の社員の行動履歴を突合している。

 目頭を押さえているところを見るにつけ、相当しんどい作業だという事は分かる。

 変わってあげてもいいけどさ、そのぐらいの事務量こなせないとガーディアンの社長業務まらないし。

 僕が全力回避するためにはギリアムに頑張ってもらわないと。

 

「あー……姉さんに画面から文字取り出す呪文習っておくんだった……」

 ギリアムの呟きに薄笑いを返せば、今度はショーンが60階エスカレーターを駆け上がって来た。

「ニールさん!大変です!」

「どうした?」

「例の噂の出どころなんですけど、見て下さいよこれ!」

 そう言ってショーンが僕のデスクに置いたのは、昔懐かしい現像された本物の写真。

「ゼインと……ディアナちゃん?」

 

 僕の呟きにギリアムも側に寄って来る。

 写真はどう見ても隠し撮り。

 後ろ姿ではあるが、ゼインは間違いなくゼイン。後ろ姿の女性は……我らが魔女様である。

「…なるほど。確かにこの写真だとリリアナさんと噂になっても仕方ないね」

「僕らだったらディアナさんを見間違えたりしないのに!」

 まさにショーンの言う通り。

 写真の中には見慣れた茶色い髪のディアナちゃんが写ってる。

 緩やかに波打つ髪の感じが驚くほどに例の御令嬢に似ているが、その髪から零れるように煌めく銀色の魔力を見間違う訳がない。


「あ、俺分かったっす」

 ギリアムが言う。

「分かったって何が?」

「この場所、旧市街っすよ。ほら、ゼインさんが魔力使い過ぎた時にフラッと行く…」

「ああ!そうだね、ミンカの通りだ」

「僕も分かりました!ニールさん、ディアナさんは歩くのが大っ嫌いです!お使いだって相当文句を言ってました!」

「…ああ、そういうことか。ギリアム、運転手だ!運転手の履歴を洗って!」

「うす!」

 ったくもう、二人で出かけるなら言っといてくれればいいのに。


 そうこうしているうちにゼインから突然代理を任された〝分身〟から海外工場の視察結果が届く。

 …ちなみに分身が何人いるのかは僕にも秘密だ。

「概ね良好…ね。了解っと」

 ゼインは分かってんのかなー。

 あいつどんどん魔法使いらしくなってるって。

 前はどんな事があっても魔法を使うのは後回し。最初は人間の考えうる技術で解決を図ってた。特に会社関係はそう。

 こんなに自由に、そして大胆に魔法を使うヤツじゃなかったんだけど。

 …それで僕たちを守ってくれてたんだよね。


 ふと左手の手首を見る。

 ……それは僕も一緒か。

 あの時壊れた端末。

 ゼインは『ただの友人に戻ればいい』と言って、端末を外したままにする事を勧めて来た。

 でも僕は結局、端末の改良を頼んだんだ。

 …聖魔法の呪文を入れて欲しいって。

 不思議だよね。会社経営のパートナーとしてより、魔法使いとしてゼインの役に立ちたいって思う日が来るなんてさ。



「なんだ、3ムシ揃い踏みか」

 …来た来た来た来た。

「お早いお越しですね、クラーレットさん。着せ替えは済んだんですか?」

 笑顔を貼り付けながら(いにしえ)の魔女を出迎える。

「ふん、私が青ムシに心配されるような魔法しか使えぬと思うておるのか。たわけが」

「…ですよねー」

 この人もディアナちゃん級の魔女だってことは言われなくてもわかる。

 ディアナちゃんより大分性格がややこしいけど。

 

 もし、仮にだけど、あの日この60階に現れたのがこの人だったら、ゼインはこの人の弟子になりたいって思ったのかな。

 …僕らはそれを受け入れられたのかな。

「ディアナ様は戻らぬか」

「ええ、ゼインが迎えに行ってますけど、まだですね」

 分かりやすく苦虫を噛み潰したような顔をするアレクシア・クラーレット。

 …きっと無理だっただろうな。だってギリアムもショーンも目を合わそうとしないし。


「青ムシ、あのドレスはカダビー商会のオークションに出品されたものだったな」

「……そうですけど」

「出品者は」

「え、ええと…」

 言いながらデスクの上の資料をめくる。

「マカール・グラーニン…ですね」

「国は」

「えっと………」

 うわ、嫌な予感がする。

 すっごく嫌な予感が……。

「……シェラザード」

 魔女の口端が弧を描く。

「青ムシ、案内しろ」

 やっぱり!!

「駄目です。ゼインが海外にいる時は僕は動けません!」

「……ほう?おぬしは私よりもゼインとかいう虫ケラの言葉の方を優先すると…?」

 当たり前だろ!あーヤバいヤバい!めっちゃ髪の毛逆立ってる!


「おぬしは何のために魔法が使えるのだ」

 ……え?

「…何のための魔法なのだと聞いておる」

 え、え?

「…まぁよい。ならば赤ムシとまめムシに……」

「だ、だ、駄目ですって!みんな仕事が……」

 完全に色が変わる魔女の瞳。

「…仕事………。なるほど、ならばおぬしらのつまらぬ生き様ごと壊してくれよう……」


 あー…ゼイン、ディアナちゃん、二人の邪魔して悪いんだけど、今度から出かける時は一人ずつでお願い……。

 願いも虚しく、今日僕ら3人は真っ二つになった。

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