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魔女の買い物

チンッ

 …ああ来た。また来た。今日も来た。


「ディアナ様〜!おはようございます。今日はお休みと伺いましたので遊びに来ましたわ」

 …よく言うわ。

 仕事だろうが何だろうが毎日来るくせに。

 それもこれも全ては馬鹿弟子ゼインのせいである。


 そう、私の予想通りアレクシアは毎日のようにガーディアン・ビルにやって来る。

 どうやって、などと聞く気も無いが、律儀に例のエレベーターでやって来る。

「あんたねぇ、ちゃんと仕事してんの?毎日毎日フラフラしてていいわけ?」

「あら、私の仕事はディアナ様のトータルコーディネーターですわ。オスロニア代表までのロードマップは完璧でございます」

「…ロード……あっそ」

 ゼインがアレクシアに何を言い含めているのかよく分からんが、とにかく上手いこと手玉に取られている。


 私は次の仕事が決まるまでは待機ということになり、夜は会社で雑用をしているのだが、次の旅の行き先についてはまだ決めかねていた。

 なぜならば、隣の女が煩い。

 ゼインが寄越した旅先候補を見ながらペチャクチャ喋る。

「私はシェラザードがいいと思いますわ」

「何でよ」

「ディアナ様のことですから、シェラザードには行かれたことが無いのでしょう?」

「ああ……まぁね」

「それに、ガーディアンの敵でしょう?」

「は?敵?」

「私、ガーディアンなどどうでもよいのです。ですがディアナ様がお住まいになっている以上、ガーディアンの敵は私にとっても敵。ついでにオスロニアを植民地にしようとしたのもシェラザードですわ」

 ペチャクチャ喋るだけならいいのだが、この女は事情通なのが厄介だ。

 私の事情にも、それ以外の事情にも。


 それにしてもシェラザードか……。

 最近どこかで名前を聞いた気がするのだが。

 旅行の行程表…明らかにこれは馬鹿弟子が作った調査指示書…を見ながら考え込んでいると、エスカレーターが動き出す音が聞こえた。

 

「あ、ディアナさんおはようございます。あっ!…クラーレットさん、ようこそ……」

 現れたのは可愛い子。

「おはよう、ショーン」

「……まめムシ」

 隣の魔女が急速にスンッとする。

 …あー…面倒くさい。

 アレクシアがガーディアン・ビルにやって来た初日を思い出す。

 あんなに多重結界張ったの久しぶりだっつーの。

 偉いわねえ、ショーンは。面倒くさい魔女相手に物腰丁寧に…。

 まぁでもゼインとニールの世渡りスキルをガッツリ仕込まれるっぽいからねぇ。中身はとんだ悪男(わるお)かも。

 クリクリとした瞳のショーンを眺めていると、何かの記憶が脳をかすめる。

 はて、ショーン……。

 悪男の片鱗を見せたショーン……。

 


「ショーン、ちょっと時間ある?教えて欲しい事があるんだけど」

「僕ですか?」

 何かしらの重そうなファイルを抱えるショーンに呼びかける。

「……ヒソ…ディアナ様…なぜまめムシを呼ぶのです」

「お黙り」

 ショーンがアレクシアのトゲトゲした視線に恐縮しながら私のデスクにやって来る。

「何かありましたか?」

「ああ、ねぇショーン。確かあんたとサラスワで最初に会った時、一緒にニュース見たわよね。その時シェラザードって国出て来なかった?」

 ショーンが眉を上げる。

「あ、もしかして気づかれたんです?本当にシェラザードには困っちゃいますよね。でも大丈夫ですよ。もうサラスワには手を出さないでしょうから」

「…ふーん?」


 話は見えて来ないが、なぜか悪巧みをする弟子とニールの顔が浮かんだので、おそらくそういう事だろう。

「シェラザードか……。ちょっと行ってみようかしらねぇ」

「あら、それならばお買い物に行きませんと」

「買い物?何でよ」

「シェラザードは極寒の国ですわ。あの虫ケラが言うのです。旅先でディアナ様に何かあったらどうするのか、と。私が縫った服は虫ケラがいる時だけしか着せてはならな………なぜわたしが虫ケラの戯れ言に従う必要があるのだ……!」

 アレクシアの髪が逆立つ。

「ちょーっと待って、ね?アレクシア!…コソ…ショーン!退避!」

「は、はい!」

 あー面倒くさい!!はー面倒くさい!!

「行くわよアレクシア!買い物よ!!」

 パッと髪を元に戻し、にっこりと微笑む魔女。

 次はどこに厄介払いしようか、本気で考え込む私だった。




「あんたはその服どうやって選んでんの?」

 ちゃんとエレベーターでビルの外に出た私は、アレクシアの案内でどこそこの百貨店とやらに向かっている。

 アレクシアはいかんせん服に煩いようだ。

 たいてい何かしらの黒い服に赤い靴というスタンダード魔女ルックの私と違い、今は紺色の袖の無いクシュクシュしたワンピースに細いベルトをしている。

「もちろん通販ですわ。私と似たような色味のモデルが着ている服を参考にするのです」

「あんたと?紫の目なんてそうそういないでしょ」

「あら、私はご覧の通り普段は黒目………あの虫ケラ……私と似たような………」

「はいはいはいはい!ふーん。つうはん……」

「ディアナ様は確かに黒を纏うに相応しい魔女でいらっしゃいますけれど、今は人間の姿でしょう?私が着せ替えて差し上げますわ!」

「……好きにして。お金はあんた持ちね」

「もちろんでございますわ!!」



 女の買い物は長い。

 そういう話は小耳に挟んだ事はある。それをよもや体感することになろうとは思いもしなかった。

「……あんた…何着服買うのよ!何年分の服なのよ!!ここどこよ!今何時よ!?」

「あら、オスロニアの国民分買うのですわ。まだまだ足りませんわねぇ……」

「………………は?」

 オスロニアの国民………?

「ちなみに何人いる設定なの……?」

 アレクシアが首を傾げて思い出す仕草をする。

「ええと、最近奴隷人形が増えましたでしょ?ですので…6万とんで48人…ですわね」

「………………。」

「ディアナ様?」

「…………どぅアホかーーーっっっ!!!」

 

 ゼイン、トリオよーく覚えてなさいよ。

 あんたら私がいかにも非常識みたいな扱いするけどね、魔女は非常識なのよ!!

 私はまだマシでしょ!?

 

 とりあえず声に出せない叫びを魔法に変え、アレクシアを失神させて引きずって帰った。

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