成果報告
「は…なしてくださ……」
「ぐ…ちょ、かんべん……」
「よくやった!お前たちよくやった!!」
「「ぐえ〜〜っっ!!」」
ぎゅーぎゅーしている。
ゼインがギリアムとショーンをぎゅーぎゅーしている。
「見たぞ、ショーン。本物よりも遥かに素晴らしい精霊だった」
おいこら、馬鹿弟子。どういう意味だ。
「ギリアム、雨を降らせるなんて大したものだ。どこか調子の悪いところは無いか?頭は?手は?髪がまた伸びたな」
おかん、とかいう生き物か。
オスロニアから戻ったゼインと私は、ちょうど同じ頃にサラスワから戻ったギリアムとショーン達と一緒に、悪巧みを終えた顔をしたニールに60階に迎え入れられた。
ゼインもなかなか頑張ったが、ギリアムとショーンはもっと頑張っていた。
そして3人が頑張るハメになったのは、どうやら偉大な私のおかげである。
…うむ。いい修行になってよかったな、お前たち。
ぎゅーぎゅーの3人を尻目に、ニールが私の側にやってくる。
「ディアナちゃん、お疲れ様!今回はお手柄だったね!いやー、ディアナちゃんのおかげでうちの会社もしばらく安泰だよ。うんうん」
「え、私なんかした?……いや、修行をつけてあげたわけだけど……」
まぁ本当はけっこう迷惑をかけたんだと思う。
認めんが。
「え、ゼインが報告したでしょ?」
「小難しい話なら、してたとしても聞いてない」
「…ああ…そう」
ニールがゼインのデスク辺りで団子になっている3人の方を振り返る。
「全員集合!成果報告!」
ニールの発声に全員がハッとした顔をして、そそくさと会議用テーブルへと移動した。
なるほど、ニールは裏ボスだったか…。
私は関係ないだろうと思ったが、ニールの迫力に負けて人数分のいつもの飲み物を空中で回転させながら持って行った。
腹立つことにゼインは魔力が減っているからか『甘い飲み物を出せ』と言ってきたので、熱っついコーヒーにガッチガチに固まったアイスクリームを入れてやった。
そしたらショーンが『ディアナさんオシャレ女子ですね!』と訳のわからんことを言っていた。
魔力を凝縮した嫌がらせのつもりだったのだが。
「はい、それじゃあ始めるよ!まずはサラスワの案件から。ギリアムお願い」
ニールの進行で〝成果報告〟とやらが始まる。
「うす。シャラマ島での基地建設は滞りなく進行中。それに合わせてロケットの組み立ても始まりました。海水の濾過装置はサラスワ全土で稼働開始。今後は現地の人間の教育に移るっす」
「おっけー。社長から何か質問ある?」
「そうだな…。サラスワへは今後社員の常駐が必要になる。本社でも社内教育体制の強化を」
「了解っす」
……何とも呪文より難解である。
「んじゃ次、ショーン」
呼ばれたショーンが器用にタブレットを操作して、天井から出て来た大きな布型テレビに内容を映し出す。
「はい!前回社長の指示でサラスワの地質図を作成しました。こちらをご覧下さい。ディアナさんが以前水源を探した記憶通り、サラスワ全土はかつてたくさんの川が流れていた事がわかりました。数か所でボーリング調査を行いましたが、ほぼ間違いなく、サラスワは……川砂の宝庫です!!」
え…あんた学校作ってたんじゃないの?私が昼寝してる間せっせと学校作ってたわよね?川砂って何…
「そうか!やはり砂の中には黄金の砂が埋まっていたか!よくやった。プロジェクト化を急げ」
「はい!」
黄金の砂……?
ははあ、分かった。砂漠で砂時計でも作るんだな。
知ってる知ってる、人間の格言でしょ?『時は金なり』だったっけ。
しっかりと会議に耳を傾ける私の隣で、ニールの肩が小刻みに揺れているような気がした私は、チラッと横目で彼を盗み見る。
だが彼はいつものように微笑みを貼り付けて、ショーンに向けてこう言った。
「難しい国でよく頑張ったね。ショーンはもう十分に一人でやっていける。ね、社長?」
ニールの言葉にゼインが深く頷く。
「もちろんだ。今後は単独任務もどんどん任せる。取り急ぎ新しい人工島の開発事業などどうだ?」
話はサッパリ理解できないが、パッと輝いたショーンの顔に、就職活動は当分先かしらねぇ…などと他人事のように考えていたら、ニールの声が耳に届いた。
「…おーい、次ディアナちゃんだよ」
……は?
「はい、頑張って!オスロニアの件、みんなに報告してね」
「私が?え、ゼインがやれば…」
「後半はね。前半はディアナちゃんしか知らないでしょ?」
なんと。これがゼイン相手なら文句の一つでも言う所なのに、ニールのニコニコとした有無を言わさない感じは何なのか……。
「ちゃんと喋るの苦手なんだけど……」
「頑張って?」
くっそー…あの目!!卑怯なのよ!!
何でも見透かしたようにさー!!
「…コホン。ええと、オスロニアは私も知らなかった国で、元々氷の大地で……した。600年前に天敵の魔女にそこに種を蒔きに行けと言った…ようだが、全く記憶にございません」
……めちゃくちゃ恥ずかしい。
4人が4人とも幼子を見るような顔を……!!
「魔女の名前はアレクシア・クラーレットで、早い話が変態である。ええと…オスロニアに一人で暮らしてて、農業をしながら、本物の女の人形と、機械の男の人形と…羊と牛と…豚とかと国を創ったようだ…です」
「ええっ!?魔女が見つかったんですか!?」
「どんな人物っすか!?姉さん級の魔女っすよね!?」
ショーンとギリアムが椅子をひっくり返して立ち上がる。
「あー…ええと、ゼインが戦った…のです」
二人がバッとゼインの方を見る。
「そうだな、どんな…言葉に表すのが非常に難しいのだが……とりあえず名前は呼ばないように」
「…なんすか、それ」
「名前読んだら……どうなっちゃうんですか?」
「………虫ケラになる」
「「えっっ!!?」」
驚く二人がさらに驚いたのは、私の次の報告だった。
「オスロニア、くれるというから貰ってきたでござる」
「「…………えーーーーーっっっ!?」」




