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トリオ

「僕らは若い頃……あ、ショーンは赤ちゃんの頃だけど、けっこう肩身狭くてね」

 

 ニールは語る。

 彼らがどうやってゼインと出会ったのかを。


「僕、目がすごく良くて」

 そう言って隣の席で私に下瞼を指で抑えて見せる彼の瞳は、まるで世界の向こう側まで映せるんじゃないかというほど透き通った青色だった。


「いつも他人には見えないものが映ってた。だから子どもの頃から気味悪がられてね〜。あんまり他人と関わらないようにしてたわけ。んで、自分がおかしい事にはっきり気づいたのは40歳の時。故郷の知り合いに会う事があったんだけど……」

 ニールの話の続きは何となく予想できた。

 彼の外見はどう見積もっても20代後半である。

「……自分だけ時が止まっちゃったのかな、って思ったよね。死ぬような目に遭えば歯車が回り出すのかなって。フラフラと世界中の戦場で傭兵まがいの事してたわけ。ま、その時に例のカレに見つかったのさ」

 ニールが肩を竦めて見せる。


「なるほどなるほど。金色の目をピカッと光らせる例の真っ黒な……」

「あはは!そうそう!すっごい顔で睨んできて、『今までどこにいた!家族はどうした!』って超怖くて」

「俺もっすね」

 ギリアムが話に入って来る。

「俺はニールさんと違って、耳が超いい。けっこう遠くまで聞こえる。でも別に聞きたい話ばっかじゃねーから誰も信用できなくて海賊になった」

 か……海賊!?

 目の前に座るギリアムをジ〜ッと見つめる。

 やや褐色気味の肌に赤い髪……。シャツから覗く胸元は、おそらくイカした筋肉をしているに違いない。

「私、海賊にお目に掛かったのは初めてだわ。ぜひサインを……」

 シュルッと指を振り紙とペンを出せば、ギリアムが両手を振る。

「いやいや若い頃っすよ。何すかサインって。しかも社長に見つかって討伐されたんすから、大したモンじゃなかったっす」

 ゼインがギリアムを討伐……。

 暇人か。


「僕はお2人とは違って、その、赤ん坊だったから披露できるような話は無いんですけど……」

 ショーンがギリアムの隣で私を伺うような目つきを見せる。

「ショーンは明らかに魔法使いの赤ん坊だったよ。泣いたら地震が起きて、家中のものがひっくり返ってた。孤児院にいるところを社長が引き取ったんだ」

 ニールが言う。

「…ほほう。つまりゼインは子持ち、とな」

 なるほど。あんな男に育てられたらオドオドした性格にもなるわな。

「ディアナちゃん、子持ちの男に耐性ある?」

 ニールがよく分からないことを言う。

「どういう意味?」

「ああ見えてゼイン…ええと、社長、ショーンを溺愛してるから温かい目が必要というか……。とにかく、僕ら3人は彼に保護されて、彼の仕事を手伝ってる」


 そうだ、仕事だ。

 茶を飲みに来た訳ではなかった。

「ねぇ、この会社って何やってんの?私何したらいいわけ?」

 私の質問に3人の顔がハッとする。

「よくぞ聞いてくれました!ギリアム模型!ショーン説明!」

「え、あ、はいっ!」「うっス」

 ニールの掛け声で2人が動き出す。


 ギリアムが机の下から取り出したのは、私が空から見たこのビルそっくりの模型。

 ご丁寧に窓に〝セントラル・ガーディアン・ビルディング〟の文字まで入っている。

「ええと、僕から説明します。このガーディアン・ビルは地上59階、地下5階建て…とされています。一般的には」

 なるほど。60階そのものが秘密だったか。

「2階から10階までは流通部門、11階から25階までは工作機械事業部門のオフィスで、最近はこういう精密機械も……要は何でも作ってます。ここが主力事業です」

「ふむ…」

 ショーンが腕時計を見せながら説明してくれるが、サッパリわからん。


「26階から30階にエネルギー分野、31階から40階まではメディア事業で、41階から55階までは軍事部門で………」

「待って、ついていけない。59階と60階だけでお願い」

 そう言うとショーンがビクッとする。

 え、怖かった?私怖かった?

「…59階はビルの共用スペースです。展望テラスとかレストランとか会議室があります。60階は……ここです」

 ………知っとるわ。


「ショーン、着席。俺が代わる」

「…はい」

 ギリアムに出番を取られてしょんぼりと席に着くショーン。

 か、可愛い……!よく見るとこの子めちゃくちゃ可愛い!

 

「60階は役員室兼調査室兼監査室っす」

「監査室?」

「そっす。俺とショーンは人前にはあんまり出ない。喋るの苦手なんで。でもたまに社長の命令で変身して各部署に監査に入るっす。だから表向き謎の監査室…す」

「なるほど。…表向き?」

 私の問いにニールがニッコリ微笑む。

「そ、表向き!」

「裏で何やってんの?」

「えー?ディアナちゃんが雇用契約書交わした通りだよ?」

「はぁ?…あれはアーデンブルグの古語でごちゃごちゃと……」

「そうそう。つまり魔法使いだけが交わす雇用契約書でしょ?」

「!!」

 

 ニールが俯く。

「社長は魔法使いを探してる。……消えてしまった仲間をずっとずっと探してる。世界中を探すうちにいつの間にか事業がどんどん大きくなって、今や抱える社員は数十万人」

 ニールがカッと目を見開く。

「なのにさ!!調査に行かされる僕らがずっと3人だけってどう思う!?おかしいでしょ!?見てよこの部屋!片付ける暇も掃除する暇も食べる暇も寝る暇も無いほど荒れた生活!!」

「…ああ、うん、そうね」

「最初は雑用してくれる人をこっそり雇うつもりだった。社長にバレたら断固阻止されるから。だが、我々は本物の魔女ディアナ・セルウィンを得た!!」

「「うお〜!」」

 ニールの演説に、ギリアムとショーンが適当に盛り上がる。

「ディアナ・セルウィン!君の仕事は我々4名の全面バックアップだ!!…よろしく〜テヘッ!」


 とりあえず透き通る瞳を持つニールが〝いい性格〟をしている事以外、あんまりよく分からなかった。

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