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悪い男

「ディアナさん、ようやく明日は落成式ですね!ちゃんとスピーチの内容考えてますか?」

「ああ…うん。精霊バージョンで考えてるわよ」

「それは良かったです。こうやって仕事が形になるっていいですね。僕建設会社に就職しようかな」

「……あんたなかなか親不孝なこと言うわね」



 サラスワでの学校建設がようやく終わった。

 国中から読み書きできる人間をかき集めて、少ないながらも何とか教師も確保した。

 もちろんショーンが。

 明日はいよいよ全国一斉に開校式典だそうで、国のちょうど真ん中に出来た学校の飾り付けを見ているところである。


「ディアナさんこの後オスロニアでしょ?気をつけて行って来て下さいね。明日、絶対遅刻しないで下さいね?」

「ああ…うん。ねぇショーン、私…騙されてないわよね?魔法使いは船に乗る時こっそり船底に隠れるのよね?」

「あはは!船底!……あ、いえいえ、ディアナさんを騙すような命知らずこの世界にいるわけないですよ!」

「そ、そうよね。……どういう意味よ?」

 

 確かに私は頭脳明晰な大魔女だ。

 誰かに騙される筈などない。騙された振りして騙し返すのがデキる魔女だ。

 だがおかしい。

 どう考えてもおかしいのだ。

 というのも話は三日前に遡る。



『ディアナ、お前の旅の行程表だ』


 ゼインが分厚い紙束を持ってきた。


『はあ?何で私の旅の計画をあんたが立てんのよ』

『どうせお前の事だ。世界中の土地に線を引いて、片っ端から掘り返そうとかいう阿呆な事を考えているのだろう』

『な、なんでそれを………』

『やはりか。いくらお前が特殊年齢詐欺師でも老婆になるに決まっている』


 いつものごとくゼインがすこぶる失礼な事を言っていた。


『私も今まで見落としていた事がある。魔障や魔獣の対処に気を取られて、その根本原因の調査という目線にやや欠けていたのだ。ここにあるのは私が会社を起こして以来対応して来た案件だ。この中にリオネルのような例が隠れているかもしれない』

 

 確かこの辺りでゼインが超長ったらしくて何だか良さげな事を言い出したから、頭が混乱して来たのだ。


『なるほど、いい考えね。じゃあそれありがたく貰っとくわ』

『ああ。役に立てて光栄だ』


 弟子が弟子らしい事をしてくれたのに感動した私は、この後ついつい余計なことを言ったのだと思う。


『ねえねえゼイン、木が生えてる遠い所ってどこ?ちょっと行ってみたいんだけど』

『よく言った。ならば最初はここに行け』

『は?オスロニア?ここって……』

 


 ……ここからよ、ここから!!

 やっぱり私騙されてない!?

 確かに仕事と名の付く活動は夜だけになったわよ?でも真裏の国は昼じゃない!

 毎日毎日、夜は昼のサラスワに来て、昼はゼインの作った行程表通りに旅をしてって……おかしいわよねぇ!?

 

 



「なんだ、気づいたのか。案外早かったな」

 

 今日こそ問い詰めてやろうと、サラスワから転移してネオ・アーデンの朝…かどうかもう訳がわからん時間に会社に戻れば、60階で妖精に虫を渡しているゼインがしれっとした顔で言う。


「やっっぱり!!おかしいと思ったのよ!なーにが『船旅なんかどうだ?リオネルに土産話の一つでも用意してやれ』よ!めっちゃくちゃ真っ暗な船底に放りこむってどういうつもり!?」

「そうだったか?お前がリオネルを一人で留守番させるのが嫌だと言うから仕方なく私の家で預かった上に、オスロニアまでの航路を調べてやったというのに」

「ぐぬぬぬぬ……!」


 だいたいリオネルのこともあんたが言い出したんでしょうが!私はリオネルをトランクに詰めて一緒に旅に出ようと思ってたのよ!!

 でもトリオが絶句して私を人でなしみたいな顔で見るから仕方なかったの!


「とにかく!明日のサラスワの式典が終わったら、せめて今度は夜の仕事を頂戴!」

「…ふむ。夜の仕事………向いて無さそうだが」

「はあっ!?私は魔女よ!?魔女は夜こそ本領発揮すんのよ!」

「ほう。ならば善処しよう」

 くっ……ムカつくわ……!!

 ちょーっとばかり大人っぽくなったからって…あ。



「…ねぇゼイン、つかぬ事を聞くんだけど、あんた……どうやって年取ったの……?」

 そう問えば、虫を出していたゼインの手がピタリと止まる。

「……そういう時期だった……気がする」

「待て待て待て〜い。そんな時期が来るなんて話聞いたことないっつーの!」

 一歩ゼインのデスクに近づくと、分かりやすくクルッと後ろを向き、今度は竜と戯れ出した。

「…あんた……私に隠し事できると思ってんの…?」

「…たいてい上手く隠せていると思うが」

「はーん?最近思念を閉じるのも上手だもんねぇ?」

「……………。」

 なーんで頑なに口を閉ざすのか今ひとつ理解できないが、魔法と魔力に関して大魔女の私に隠し事は無駄である。


「ゼイン、私あんたの魔力奪ったんでしょ?」

 そう言えば驚いた顔で振り返る黒い瞳と目が合う。

「何で言わないのよ。魔力量減って不便でしょ?悪かったわ。無意識に生存本能が働いちゃったのねぇ…。死にたいとか言いながら情け無い話だわ」

 また一歩ゼインに近づく。

「私もう自分の魔力は充分戻ったから、あんたから奪った分返すわ」

「あ…いや、大丈夫だ。特に不便はしていない」

「は?いやいや返すわよ」

 一歩私が近づくたびに、ジリジリとゼインが横に逃げる。

「な、何なのよ!!何か腹立つわ!!」

 

 ヒュッとゼインの目の前まで転移する。

「ほら、口開いて!」

「ま、待て!今は駄目だ!」

 激しく動揺するゼイン。

 本格的に意味がわからない。

「理由は!?理由を言いなさい!」

 怒鳴ればゼインの視線が下を向く。

 そしてポツリと一言。

「と……とりあえず今の姿が気に入っている」

「…は?」

 姿が気に入って……?

「然るべき時に、ちゃんと返せと言う…予定だ。だからもうしばらくはこのままでいい」

 はー……。そこまで童顔を気にしてたなんて……。


「なるほど……。自分の好みの外見ってあるものね。そこは尊重してあげたいわ」

「そ、そうか。わかってもらえて何よりだ」

「んじゃもうちょっと魔力もらおうか?そしたらもう少し渋めの……」

「断る!」

 ゼインは超速で転移した。


 …なんか……ムカつくんですけど。

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