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二度寝

 こんなことが前にもあった気がする。

 寒くて寒くてたまらなくて、でも体を温めるすべが何もなくて、ただひたすら眠っただけの日々が……。

 

 あの時はまさか100年も眠るとは思わな………

「──100年!!うそうそうそっっ!」

 極上のフワフワした何かから飛び起きる。

 体を起こした瞬間に頭がクラッとするが、気にしてはいられない。

 はっきりしない頭で周囲を見渡せば、白い壁に磨き上げられた石造りの床が目に入る。

 恐る恐る自分が寝ていた場所を確かめると……

「……ベッド。お高そうな…ベッド?」

 …封印されたわけではない?

 あれ、記憶がゴチャゴチャする……。


 右手に力を入れれば、8割…といったところだが、魔力も感じる。

 ……魔力もあるし、ベッドだし……なるほど。

 再び布団に潜ろうとすると、頭にガツンと石つぶてが落ちて来た。

「〜〜くーっっ!どぅわぁれよ!!いたいけな乙女に石ぶつけるのわぁ!!」

 くるッと顔を右に向けると、どこかで見たような悪魔がいる。

 金色の瞳……?


「……二度寝するな!!この馬鹿魔女がっっ!!」

「あら?あんた人の言葉わかるの?」

「はぁっ!?寝ぼけるのも大概に……」

「あっ!ディアナさん目が覚めたんですか!?」

 悪魔の後ろから、それはそれは可愛い天使がひょこっと顔を出す。

「よかった〜!あ、僕ニールさんとギリアムさんに知らせますね!」

 あー…天使が去っていく……。

 仕方ないか。魔女とは相性悪いもんね。

「はて、天使と悪魔が同時に存在………?うーむ、天国と地獄どっち……」

 首を傾げた瞬間に悪魔が私の頬をつねる。

「……に ん げ ん の 世界だ!」

「あひはははっ!ちょっ!あくりょーたいはん!!」

 叫べば今度は雷が落ちて来た。

 

 

「たいっへん、申し訳ございませんでした!」

「全くだ」

 ぐぬ…。

「数々のご迷惑…かけたかどうか知らんけど…何となく申し訳ございませんでした!」

「どんな上から目線の謝罪だ」

「なーによ、生まれて初めて土下座してるじゃない!」

「阿保なお前に教えてやろう。…土下座はなぁ…床に這いつくばってするんだ!どこの世界にベッドの上で布団に丸まって謝罪する人間がいる!」

「えー…だって人間じゃないしぃ……」

「………………。」


 記憶がはっきりして来れば、目の前の悪魔は何のことはない口煩い弟子だった。

 雰囲気でわかる。

 多分相当やらかした。


「あー…ゼイン?私どのくらい寝てたの…かしら…なんて……。10年、いや、50年…?」

「15日だ」

「…そっか、15……日?え、15年じゃなくて15日?」

 聞き返せばゼインが馬鹿にしたような顔をする。

「15年も私の邸に置くわけ無いだろう。せいぜい半年で何かの餌だ」

「えさ……まあ私なら立派な苗床にって…え、でも待って!あんたその顔どうしたのよ?たかだか15日で何で大人になっちゃったの!?」

「………………。」

「や、やっぱり100年……」

 


 混乱する頭を抱えていると、ヒュッヒュッと二人の人物が転移して来た。

「あっはっはっは!元気そうだね、ディアナちゃん!」

「姉さんお久しぶりっす」

「ニールにギリアム……覚えてる!ちゃんと覚えてる!」

 よかった、二人の魔力は一緒………あ。

「ゼインとショーン…基礎魔力量が違う。だからわからなかったのよ!何があったの!?何で……」

 問いただす私にニールが吹き出す。

「…ぶはっ!あっはっは!何だゼイン話してないの!?ホラホラあの日のメモリー………うっそー。なんもない、なんもない」

 ゼインから分かりやすく闇の魔力が漂っている。


 そして相変わらず生意気な視線を寄越したあと、クルッと背を向けた。

「…馬鹿話している場合じゃないだろう。預かってるぞ。……石像」

「…石像……リオネル!!」

 ややフラつきながらベッドから下りる。

「おっと、あぶねっすよ」

 ギリアムが腕を支えてくれる。

「あ、ありがと、ギリアム」

 お礼に頷くギリアムと一緒に、スタスタと廊下を歩くゼインを追いかける。

 何個目かの角を曲がると、奥の部屋から今までとは違う空気が漂ってくる。

 清らかで温かい、柔らかな魔力………。

「ショーンが毎日清浄魔法をかけたらこうなった」

 素っ気なく告げるゼインが開いた扉の先には、土に塗れて鈍色だったリオネルが、あの頃のような色味で立っていた。

 


 新緑のローブ、深い緑色の瞳、クシャクシャの焦茶の長髪に黒い耳飾り。

 あの日以降、初めて見つけた私の弟子……。

 探して、旅して、諦めて……。

 リオネル、ずっとアーデンブルクにいたのね…。引きこもりのあんたらし……あれ?

「ディアナさん、どうかしましたか?」

 一足先に部屋に入っていたショーンが、眉根を寄せる私に尋ねる。

「……リオネル、若返ってない?最初からこんなだった?」

「え?」

 土の中から見つけたリオネルは、間違いなく私がよく見知った姿だったのに。

「リオネルは、900年前からずーっとずーっと、お爺さんだったんだけど……」

「「えっ!?」」

 私の言葉にトリオが驚く。

「いや、驚くのは私の方なんだけど」


 ショーンが真っ青になって言う。

「ぼ、ぼく、何かしちゃったのかもしれません!綺麗にするつもりが入れ替え魔法を使ったのかも……」

 ニールとギリアムが騒ぎ出す。

「いやいやいやいや、こんな細胞がギッシリ詰まった石像が何個もあるわけ無いでしょ!!」

「そっすね。ついでに石像の背中にゼインさんから教わった盗難防止の陣描いてるっす」

 ガヤガヤと騒がしいトリオの背後で、大きな溜息が聞こえた。

「……皆で話をしよう。不明点が多すぎる」

 そう口にしたゼインに、その場にいる全員が頷いた。

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