賞品
「……意外な結果になったわねぇ」
おおかたの屋敷が取り壊され、積み上げられた瓦礫の三つの山を見ながら呟く。
「ざっと測定魔法で調べたが、一番重いのは……」
ゼインと二人でニコニコとご機嫌な黄色い髪の子を見る。
「えへへー。賞品何ですか?」
ショーンである。
驚く事に、一番重たい瓦礫の山を築いたのはショーンである。
「ショーン、ずるいなぁ。どう見ても僕とギリアムの方がたくさん壊してるだろ?」
「そっす。壊した面積なら俺が一番っす」
「チッチッチ、駄目ですよ、お二人さん。達成すべき目標に最短で辿り着くのがゼインさんの教えです。ね?ゼインさん!」
トリオが揃ってゼインの方を見る。
「…あんた、息子にどんな教育してんのよ」
「…………ショーンは天才だったのか………」
駄目だこりゃ。
「…まぁ、結果として間違った事をしたわけじゃないわね。これも創意工夫の一つよ。ショーン、どうやったのか説明出来る?」
「はい!ディアナさんからの課題の達成基準は〝一番瓦礫が重い〟でしたので、壊した木片を片っ端から水に沈めました!」
「なるほど、重さを稼いだのね。壊すのに使った魔法は?」
「水を染み込みやすくするため、断面が荒くなるように振り子の魔法陣と風魔法で鉄球をぶつけました!」
「………合格!!合格!!素晴らしいわ!!」
「「え〜………」」
納得のいかない様子の二人に指を突きつける。
「あんたたち!これが魔法における〝絶対性の否認〟よ!どんなに魔力が少なくても、知恵と工夫で結果を覆すことが出来る!私にだって勝てるのよ!!」
「ディアナちゃんに……いや、僕最初から勝負なんて挑まないし」
変に世の中知ってる大人は面倒だ。
「…まぁこれはこれとして、ギリアムはどうやってこれだけの面積を壊したの?」
正確に言えば、屋敷の大半を壊したのはギリアムである。
「船も一緒なんすけど、たいていの構造物は支える柱が折れてしまえば勝手に瓦礫になるっす。俺は目につく柱に重力魔法陣を描いて負荷をかけて、土魔法で地盤を揺らしました」
…うーむ……ここにも秀才がいたのか……。
「…合格。何も言うこと無いわ。というより私のイメージしたものに近いわね」
「おー!やった!」
ギリアムも嬉しそうである。
ニールの作った山を見れば、何を意図したのかは一目瞭然だった。
「ニールはさすがに年の功ね。先の先まで考えてる」
そう言えば、少し照れくさそうに言う。
「この時代には必要無いってわかってるんだけどね。…木材って貴重だし」
「確かにそうね。借金返済のもと……ゴホン、ニール?あんたがやったこと後輩たちに教えてあげて」
そう言えば、ニールがおどけた調子で話し出す。
「んー…そうだね。ええと僕が小さい頃は、台所で煮炊きするのも湯浴みのお湯を準備するのも、全部薪を使ったんだ。て、ギリアム知ってるでしょ?」
「ああ…俺はこう見えてボンボンなんで。使用人がやってたはずっす」
おー、ボンボン!ボンボンって何。
「あっそ。ま、要は風魔法で木を切りながら、長さを揃えたってわけ。運ぶのにも便利だし、スペースも省略できるからね」
ニールの説明に、ショーンが目を輝かす。
「ニールさんすごい…!何かかっこいい大人って感じです!僕、循環型社会の意味が字面でしかわかってなかったんですね。勉強になりました」
「えー、そう?年寄りってだけでしょ」
3人のやり取りを微笑ましく眺めていると、ゼインがボソッと口を開いた。
「面白いものだな…。与えられた課題への取り組み方が個々人でこうも変わるとは……」
「…魔法は魔法使いの数だけ増える。そして魔法使いに明確な優劣は無い。唯一明確にあるのは子弟の関係性のみよ。…この意味、わかる?」
「………なんとなく、わかった」
「おっけ!いい修行になったわね!それじゃああんたたちに賞品を与えよう!」
そう呼びかけるとトリオが振り向いて目を輝かす。
「みんなもらえるんすか?」
「そうよ。ショーンは特別にセットであげるわね」
「えー、なんだろう!ドキドキします!」
…あー撫でくりまわしたいわ……。
ゼインが見てるから出来ないのが残念。
空中から3冊の本を取り出す。
「この間サンサン・トイズに行って思い出したのよ。知育絵本…とかいうの?ああいうのが魔法使いの子どもにもあったわねぇって」
「…絵本……ですか?」
ショーンが本を受け取りながら言う。
「絵、じゃないのよ。開いてごらんなさい。これは魔法学校の…なんて言ったっけ……ジオ…」
「ジオラマ…すか?」
ギリアムがショーンの手元を覗き込んでいる。
「そうそう、それ!その中に入って学校を疑似体験…ロールプレ…何とか……」
「ええっ!!RPGですか!?この中で!?」
「アール……多分そういうこと。基礎科、標準科、応用科までの3冊あるから、暇な時に学校の雰囲気だけでも味わってみなさい」
「───!!」
目をまん丸にして固まるショーン。
「えー!いいな!僕もやりたい!やりたいよね、ゼイン、ギリアム!」
「…あ、ああ」
「そっすよ!魔法学校なんて夢の世界っすよ!」
「あっそう?んじゃショーンに許可もらえたらどうぞ?」
こんな幼児向けオモチャで騒ぐなんてお子さまねぇ……。
この間サンサン・トイズで被った〝ぶいあーる〟とかいうメガネの方が凄かったわよ。
メガネの中に犬のゾンビが住んでてさぁ。メガネごと氷結結界で覆って来たからもう大丈夫だと思うけど、アレがおもちゃとか人間ヤバいって。
お子さまついでにギリアムにはディアナ様特性魔力ペン、ニールには隠れんぼメガネをあげた。何故か人間だけが見えるようになるという私には使い道の無い眼鏡だが、ニールは喜んでいた。
修行を終えた…もとい、屋敷の取り壊しを終えた3人とゼインが帰宅の相談を始めた頃、私は皆の輪を抜けた。
……ここから先は私の仕事。
「あんたたち、今日はありがとね!私もう少し見て回ってから帰るから。…あ、ゼインは瓦礫を転送しといてね。あんたんちの庭でいいわ」
「はあっ!?」
「修行の続きでもしといて。瓦礫をぜーんぶ100年分古くすんのよ。明日までに」
「貴様……!」
「んじゃよろしくー!」
そう告げて姿を消す。
さて、夜まであと2時間てところだろうか。
動きを止めた働く車の上に乗り、私はその時まで仮眠した。




