取り壊し
その日は快晴だった。
株式会社ガーディアンの、少し不思議な企業カレンダーによる一斉休暇、それが今日。
そもそもガーディアンは休日が多いらしいが、ゼインとトリオがほとんど休まない上に、私は会社の守り人と化している現状、休日も言われてみればそうだった気がする程度の事である。
では週の真ん中、今日の休みは何なのかというと……
「は?ショーンの誕生日?」
「違う。ショーンが私の元にやって来た日、だ」
「は?は?ショーンとの記念日を会社の休みにしたの?」
「そうじゃなければどこにも連れて行ってやれないだろう。遊んでもやれないし、ただでさえ学校にも通えなかったというのに……」
は〜………凄まじく子煩悩…………
若干引いた目でゼインを見ていると、ショーンが話しかけてくる。
「ディアナさん、僕子ども時代がすごく長かったんです。あ、今もそうだっていう話でしたね。それでほとんど家から出られない生活をしてたんです。……ずっと10才くらいの姿で」
「なるほど。ふーん……なるほど。ほう……なるほど」
極端な成長の遅さ、安定しない魔力、これはひょっとしたらひょっとする……?
ジロジロとショーンを眺め回していると、頭に石つぶてが落ちてくる。
「あたっ!何すんのよ!!」
叫びながら振り返ると、石つぶてを落とした主の姿は無く、もう一度真正面を向くとゼインがショーンの肩を抱いて立ち去ろうとしていた。
「ショーン、変質者には気をつけるのだ。世の中にはお前のような男子を狙った犯行も多いと聞く。しかも相手が魔女なら最大の警戒が必要だ」
「…ははは」
うぉい、こら、どういう意味だ。
私の好みは髭の似合う筋肉多めのナイスミドルなんだっつーの!!
「あ、来た来た!3人とも遅いんだけど!」
ゼインに運転させて幽霊屋敷まで来てみれば、そこではニールとギリアムが待っていた。
「ごめんねぇ、待たせちゃって。それもこれも全部ゼインが悪いのよ。やれその服は何だ、髪の色を直せ、爪を黒く染めるな…ったくどこの小姑よ」
「ほう……?」
戦いのゴングが鳴る。
お互い目から魔力を出してバチバチである。
「ハイハイ、お二人ともそこまでです!もうニールさん、ギリアムさん、助けてくださいよ〜!ずっとこの調子なんですよ!」
「安心しろ、ショーン。あれでいいんだ。…ヒソヒソ…ゼインさんにあんな口きけるの姉さんだけだろ?超貴重なんだ」
「そうだよ、ショーン。…コソ…ゼインにはああいう子ども扱いしてくれる人が必要なの」
「…そ、そうなんですか?」
ヒソヒソ話をするトリオ。
その様子を白目で見る私とゼイン。
……全部聞こえとるわ。
「ディアナ、とりあえず屋敷を壊すんだろう?魔木は搬出したが、残りはどうする。業者に運ばせるか?」
ゼインの質問にしばし考える。
はっきり言って残りの部分はゴミでしか無いのだが、木は高く売れるとどこかの髭のナイスミドルがいつか言っていた。
つまり借金返済。
「……そうねぇ、あんたの修行に使うわ」
「…は?」
「あんたはまだまだヒヨコなのよ!あの3人を守るには未熟」
「……!」
「これから魔法使いをどんどん見つけるんでしょ?強くなっておかなきゃ。魔法使いはあんたみたいに真っ直ぐな者ばかりじゃない」
真剣な目つきでそう言えば、ゼインの顔が神妙になる。
「……わかった」
なーんちゃってね!あんたほど生意気で横柄な魔法使いは私史上いないっつーの!!
私を見て平身低頭しないのはあんたぐらいだっつーの!!
次のギャフン企画は着々と進行中なんだからね!
ばーかばーか!
などと頭の中で罵詈雑言を並べ立てている間に働き者のトリオがサクサクと作業を進めていく。
ショーンが拡大魔法に加え、水魔法と土魔法で程よく汚したミニカーは見事な姿だった。
細部に異様にこだわるあたり、どうも師匠の思想というものがわかって来た気がする。
ギリアムはせっせと作った反復魔法陣を動きの種類ごとに車に転記した。
あとは働く車がそれっぽく動いている姿を人間に見せていればいい。
本番は……ここからなのだ。
「ほらあんたたち、表通りで車が人間の目を誤魔化してる間に裏側からちゃちゃっとやるわよ!」
「え、やるって…何を?」
「ニール……今日はいつもの鋭さはお休み中みたいねぇ…?3人とも!知ってる限りの魔法を使って家を壊しなさい!競争よ!最後に瓦礫の重さを測って一番重かった人には特別賞品を出す!!」
「「「えーーーっっっ!!!」」」
「えー!!じゃないっ!私がチマチマと車の仕事を待つわけ無いでしょ!いくわよ!よ〜〜いっ、はっじめ〜!!」
ぶーぶー言いながらも3人それぞれが崩しやすそうだと判断したそれぞれの持ち場へと散って行く。
それを少し羨ましそうに見つめる弟子が一人……。
「なーによ、あんたも家壊したいわけ?」
「ああ…いや、楽しそうにしているなと……」
楽しそう…ねぇ。
ゼインの目線の先では、ぶーぶー言っていた割に爛々と瞳を輝かせる3人がいる。
「あんたにはあんたの修行があるわ。空間魔法と時間魔法やるわよ」
「時間…?」
「そうよ。鮮度維持魔法陣で使ってたでしょ?」
「それは…そうだが、純粋な時間魔法は禁忌なのでは?」
「まあね。それ私が決めたの。だって下手すりゃ存在ごと消えちゃうでしょ?イタズラ盛りの子どもに使わせるには問題あるわけよ」
「………………。」
とても何か言いたそうなゼインの鼻先を摘む。
「ふふん、ここから先はガリ勉じゃどうにもならない世界よ。あんたの魔法使いとしてのセンス、見せてもらうからね!」




