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おつかい

 川の形も海岸線も、そして見上げる空の形ですら変わってしまったこの島を、ゆっくりゆっくり歩いていた。

 いつ…なんて記憶にないほど昔、私はこの島に降り立った。緑豊かな無人島だったこの島に。

 普通の人間とは少し違うせいで、何となく生きづらそうにしてる子たちのために、探した場所がここだった。


 始祖の魔女……ゼインは私をそう呼んだ。

 アーデンブルクを興した、という意味でなら、その名が相応しいのはあの子たちの方。

 私は魔法を教えただけ。

 飢えないように世話をして、大人になるのを手伝っただけ。

 そう、あの子たちのおかげで、この島は豊かな豊かな国になった。

 ……私がこの手で壊すまでは。

 

 でもそれも私の人生のほんの一部。

 旅の途中の思い出に過ぎないような、わずかな時間。

 でもその思い出が鮮やか過ぎて、いつまでも上書きできないでいるような……。




 歩くのは好きでは無い。

 何よりも人間とすれ違うのが好きでは無い。

 彼らはその身に何の守りも施さず平然としている。

 今、空から星が降って来たらどうするのだろう。

 火山が噴火したら?大風に煽られたら?

 今の私ではこんなに増えてしまった人間を助けられない。助けていいのかさえ分からない。

 だからニールと同じことをする。

 彼らを無視するのだ。

 目をつぶり、瞼の裏にはあの頃のアーデンブルクのみを映し、ひっきりもなく肩にビシバシぶつかって来る生意気な人間に舌打ちされながら……。



「………これが本物の思い出迷子………」

 とか上手いこと言っている場合では無い。

 どうにもマズいことになった。どこを歩いているのかサッパリ分からないのだ。

 ええと…サンサン・トイズ…サンサン……勘弁して欲しい。

 出発する前に渡された宇宙からの盗撮写真タイプの地図を広げ、赤くバツ印を付けられた場所を探す……というか探している。もうかれこれ数時間。

 こちとら世界地図より小さい地図を必要とする人生など送っては来なかった。

 だいたいビルの中に入ってる店をどうやって探すんだ!!

 

 それもこれも全ては変にこだわりの強い馬鹿弟子ゼインのせいである。

 ショーンに借りたオモチャの型が古すぎて納得できないと言い出した。あれらが街にあるだけで大問題だと。たかが65年前のくせに。

 だから大魔女歴数千年……可愛い後輩の私は人生初のおつかいに来ている。

 後輩修行の一貫なのである。



「……大丈夫ですか?迷われたのですか?」


 ギリギリと地図を引きちぎりそうな私に柔らかい声がかかる。

 振り向けばそこには豊かな茶色の髪をゆるゆると巻いた美人がいた。

 …垂れ目がちな目元に薔薇色の頬、小ぶりな唇に淡いピンクの口紅……パーフェクト!パーフェクトだわ!

「よろしければ一緒にお探ししましょうか?」

 柔らかく微笑みながら怪しい魔女に優しく話しかけてくれる美人。

 いいわねぇ。いつか生まれ変われるならこうなりたいもんだわ……。

 ウイルスとやらに突っ込んでみたら何とかコロッとイケないもんかしらね。

 

 

「ハッッ!!」

 見惚れている場合では無いと、突然意識を取り戻す。

「あー……ええと、サンサン・トイズ……なるものを……」

「まぁ!それでしたら目の前ですわ」

 え。

 美人の人差し指の先を追いかけると、確かに目の前のビルの4階あたりに〝サンサン・トイズ〟の看板が。

「なんと。どうもありがとう…ございます。これにて失礼……」

 軽く頭を下げて踵を返そうした時だった。

「あの、」

 なぜか美人に引き止められる。

「あ、ぶしつけに申し訳ありません。もしかして、エヴァンズ様のお知り合いの方では?」

 美人が少し首を傾けて私に尋ねる。

「エヴァンズ……ゼイン?知り合いかと言われれば知り合いだけど……」

「まぁ!やはりそうでしたのね。お会いできて光栄ですわ。私リリアナと申します。エヴァンズ様によろしくお伝えくださいませ」

 にっこりと微笑んで美人なリリアナが去って行く。

 どでかい車に乗って。


 マジで……?

 いやさ、私そっち方面はかーなり年季が入って得意なんだけどね?

 大魔女も目が覚めるほどの美人が……?

 などと呆気に取られながら買い物をしたのがいけなかった。

 結論、修行は失敗した。



「……お前はどこまで馬鹿なんだ!!誰が世界の装甲車シリーズを買って来いと言った!!」

「はあっ!?一番強そうなの買ったんだけど!?」

「やり直しだ!」

「は……やりなお?」

「やーりーなーおーしー!!だ!行けっっ!!」

「…………………。」

 ……あの子たちもこんな気持ちだったのかしらね。





「……とまぁこんな感じで色々あったけど、あんたらの上司のこだわり抜いたミニカーは手に入ったわ。ちゃんとやって来たわね!?」

 無事に二度のおつかい修行を終えた私は、トリオの前でふんぞり返っている。

「…うん」「うす…」「…手がしびれました」

「馬鹿言ってんじゃないわよ!普通のペン使っといて!!」

 やっぱコレよ!何てったって大魔女だしぃ。

 だいたい私が世間に(くだ)っていってどうすんのよ。

 世間が私に合わすのが筋ってもんでしょ!


 そんな大魔女な私はトリオに宿題を出した。

 魔法陣を描く基本となる円陣と属性魔法の配置を頭に叩き込めと、1日100枚の基礎特訓を課したのだ。

 100枚って冗談でしょ?という話である。

 最低でも1000枚…いやポヤポヤとゼインに甘やかされた3人には3000枚でも少ないぐらいだと主張したが、仕事をしながらはこれが限度だと、ここでもまた馬鹿親が甘やかした。

 まぁ分かってるわよ。理論さえ分かれば後はポンポンすりゃいいだけってことは。


「姉さん、火の基本魔法陣についてなんすけど、一連の円に2つの属性魔法陣…火、風…すよね」

「そうね。これでこよりに火ぐらい付くわよ」

「ディアナさん、こよりって何ですか?」

 …はぁ。そういやこの子マッチ知らなかったわ。

 こよりの説明をしかけた時、ギリアムが口を開く。

「俺思ったんすけど、もしかして魔法陣って魔力を流す順番があります?」

 ほーう、この質問をするのがギリアムだとは……。

「ふむふむ?述べたまえ、ギリアムよ」

 赤茶色の瞳を一瞬怯ませ、ギリアムが考えを述べる。

「あー…課題に出された魔法陣は、どれも出来上がりは石の少ない数珠みたいなんすけど、石が少なければ少ないほど意味が深いというか……」

「ほうほう?」

 ギリアムの言葉に、ニールとショーンも手元の魔法陣の紙を見る。

「火と風……これって火から風に魔力を送っても、火、つかなくないっすか?」


 いいわねぇ……。

 ゼイン、あんたの弟子よりどりみどりじゃない。

 …あんたもしかして、私以外の前ではイケてる男気取ってんじゃないでしょうねぇ……?


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