思い出のおもちゃ
なるほどわかった。
ゼインが偉そうなのは王様だったからだ。
王様はだいたい偉そうだ。
どでかい墓を作るのに、石を運ぶのを手伝えとか言う連中だ。そんな地味な仕事断固拒否である。
そして王様は、だいたい宮殿に住んでいる。
サラスワの王様も住んでいた。
だからネオ・アーデンで威張り散らしているゼインも……
「…………………ふざけるな」
ここはネオ・アーデンの中心部から目と鼻の先。
ニールいわく超高級住宅地。
森なんかあるわけ無いし、広々とした草原が存在するなら私がとっくの前に野宿している。
しかも漂うのはまるであの頃のような清浄な空気……
「ゆ…ゆ……ゆるせーん!!弟子のくせに許せん!!空間拡張魔法……!!あの男……超頭いい!!」
「褒めてんすか、けなしてんすか。あー…いつ来てもデカい家すねぇ……」
デカいなんてもんじゃない。
長方形が何個も組み合わさったようなデザインに、ピカピカ光る窓ガラス。
全体的に灰色っぽい壁にところどころ黒いアクセント。
それが背景の森に溶け込んで……生意気!!この上無く生意気!
「どう?ゼインって感じ?ほんと器用だよねー。通りからは普通の一軒家にしか見えないのに」
そう、何が生意気かって、この家がとことん魔法を駆使して作られていることだ。
「…見えないのに、じゃないわよ!あんたたち!この家にいくつの陣魔法が使われているか答えなさい!はいニール!」
「え、あー…幻視?」
「正解!次、ギリアム!」
「空間拡張…は姉さんからさっき聞いたんで、当然、侵入阻害すね」
「よろしい!次ショーン!!」
「はい!ええと…確か空間接続…?」
「そうよ!!あの生意気な弟子は積み木みたいに空間を切り貼りしてこの家を建ててんの!キー!!悔しい!!」
中は絶対に楽しいことになっているに違いない。
地団駄だんだんな私にショーンが続ける。
「あと、色んな保護結界に清浄魔法…ところどころに風魔法(弱)だったと思います」
………けっ、魔法マニアめ。
「僕らは結界に入る許可もらってるけど、ディアナちゃん普通に入ったね」
お目当ての物があるというショーンの部屋まで向かう道中、ニールが話しかけてくる。
「はぁん?私がゼインごときが施した結界に阻まれるわけないでしょうが。アイツと私じゃ魔法使いとしての年季が違うんだから!」
「へぇー!…あ、そう言えば幽霊屋敷なんだけどさ、あの木どうするの?家壊したら燃やしたりするの?」
なるほど。記憶が気になってるのか。
「そうねぇ、昔は再利用してたんだけどね。それこそ家具にしたり、道具にしたり…。ま、今度一緒に考えましょ」
そう言えば、ニールがニコッと笑う。
ん〜いい笑顔!
先生100点あげちゃう!!
案内されたショーンの部屋は、部屋というよりは普通の一人暮らしのアパート…より広いっつーの!!
何なのよこの子たち!!
「そろそろ一人暮らししてもいいんですけどね、社長…ここではゼインさんか。ゼインさん変なものたくさんコレクションしてるんですよ。その管理がかなり大変で……」
ショーンが溜息混じりに言う。
「変なものって?例えばどんな?」
「そうですねぇ、一番面倒なのは世界の呪いシリーズですね。この間も呪いの仮面と呪いの藁人形が喧嘩しちゃって…。美しさを競うってどう思います?普通呪いの強さとかでしょう?」
…ほらやっぱり楽しいことになっているではないか。
かなり広い物置き…ウォークインクローゼットというらしい…をショーンがガサゴソガサゴソ這い回る。
その様子を勝手に床の上に大きなクッションを出して寄りかかりながら優雅に見学する。
「あ、ありました!うわ〜なつかしい!!」
探し出して20分ぐらいだろうか。ショーンが何かを発見したらしい。
その声に、談笑していたニールとギリアムがショーンのそばへと寄る。
「うわ、なつかしい!軽く65年ものじゃん。あー、これ僕がプレゼントしたヤツ!」
「ショーン物持ちいいな。俺はたいてい片っ端から無くす」
「ゼインさんが出かけるたびに買って来てくれたんですよね。…なつかしいな」
思い出話に花を咲かせる3人をフヨフヨと空中から覗き込む。
「なぁにー?あんたたち懐かしいって感情あるの?たかだか5、60年前でしょ?ついこの間じゃない」
「はは!そうそう、ついこの間だね。でもこれは特別!ね、ショーン?」
「はい、そうですね。特別です!」
そう言って懐かしそうに目を細めるショーンの視線の先には、コレクションケースに収められた数百台はあろうかという小さな車……。
「……ちっさ!何この車!!」
「ミニカーすよ。子どものオモチャっす」
「おもちゃ……ええっ!?子どもは小さな車であそぶの!?羽のある虫を糸で繋いで泳がすんじゃないの!?」
「……ディアナちゃん、さすがに時代錯誤が甚だしいよ……」
なんということだ。
子どものおもちゃも進化していたとは……。
「僕子どもの頃泣き虫だったらしいんです。でも車で遊んでるといつの間にか寝てたって……」
「大変だったんだよー。大泣きしては体が崩れかかってさぁ。あの頃は街で新しいミニカー見かけるたびに即買いだよ」
「……そして結局ゼインさんの収集癖に火がついたっす」
儚く消えゆく息子のためにオモチャを買う推定年齢数百才の極悪鉄面皮……泣かす話じゃないの。
「とりあえず、このミニカーって使えないかな?働く車だっけ?」
この時ちょっとだけ本気で思った。
やはりニールは私が頂こう、と。




