働く車
「うーむ……スコップじゃキリが無いし、爆破するわけにもいかないし……。燃やす、潰す、うーむ……」
私は悩んでいた。
人間の仕業っぽく建物を壊すにはどうしたらいいのか、さっぱり見当がつかないのだ。
「ちょっとディアナさん!駄目ですよ!重機の上に座ったら危ないですよ!」
サラスワの西部、イクバの学校建設地。
私は毎日ここに通う。
ガーディアンが設置した水の機械のおかげで、王様は何かが楽になったと聞いている。
だけどイクバとヨーシャとの間のわだかまりが解けたわけでは無い。
イクバの人間は、ちょっと目を離すとすぐに馬に乗って東へ走って行ってしまう。
私がここでひと睨みすると、悲しいかな、誰も街から出て来ない。
……そんなに怖いか、私の顔は……。
「だーから、ディアナさーん!そこ、座るところじゃないですよー!!」
ショーンが遠くから叫んでいる。
あの子は本当に働き者だ。
小難しいゼインからの指示書もショーンに届くし、報告書もショーンが書いている。
サラスワの役所とのやり取りもショーンがやっているし、工事の業者とご飯の業者との交渉もショーンがやっている。
……つまり、ショーンがやっている。
「人間生活って大変ねぇ………」
幽霊屋敷を買うためにゼインが出してくれたと思い込んでいたお金は、借金だった。
しかも100年ぐらい働かないとゼロにならないらしい。
借金したら野宿…だが、私は頑なに60階に住み着いている。
そもそもネオ・アーデンには野が無い。ほとんど無い。種を蒔いた丘でさえ人のものだと知ったのは昨日である。
「まぁ考えようによっちゃ100年ゆるゆる働けばいいんだし…」
などとゼインが聞いたら血管から血がピューピュー出そうな事を考えた時だった。
お尻がドゴゴゴゴと揺れる。
「…地震かしら?いいわね、地震の後は面白い生き物が……はーー!?」
何故か砂の山がどんどん目の前に迫って来る。
そして私はそのまま埋葬された。
「もう!!ディアナさんの馬鹿!!」
「な、何よショーンまで。まるでどこかの誰かさんみたいな…」
「何度も言ったでしょ!あれはショベルカーのアーム!ちょうどいい止まり木じゃないって!!」
「えー…だっていい感じに曲がってて安定性が……」
埋葬された私を素早い土魔法を駆使して助けてくれたショーンはご立腹だった。
「今回のプロジェクトは5S励行!目指せ無事故!でやってるんですよ!施主が邪魔してどうするんですか!」
新しい呪文……?
私を埋めたガッツのある物体を改めて眺める。
ははぁん、あれは車だったのか……。
大きすぎて気づかなかったわ。
「ショーン、あれは何をしてるの?砂を掘ったり、ひっくり返したり……」
「ああ、あれは地盤改良のための……ええと…仕事してるんです。働く車なんです」
働く車………
「…車までも労働するなんて………世も末ね」
「……………。」
そうか、世界はそこまで来たのか……。
そうよね、大魔女の私が働かされてるんだもの。車だって働かないと理屈に合わないわ。
毎日毎日書きたくもないのにその日の出来事を日記につけてゼインに提出させられている。
5回に4回は再提出というのも大いに納得できない。
「ショーン、家を壊す仕事をさせられてる車もいるの?」
「…何か盛大に勘違いしてると思いますけど、あえてそこは無視しますね。家でも何でも壊せる車はありますよ。働く車はすっごく種類が多いんです!」
「へぇ…。それ欲しい」
「…はい?」
「何をあげれば働いてくれるの?お金とか食べ物じゃないんでしょ?」
「…………会社に戻ったら話し合いましょう」
何か重要な交渉材料が必要なのだろう。
「あっはっはっは!ディアナちゃん可愛い〜!!」
「くっくっく…姉さん最高っす!」
「ほんと参っちゃいますよ。赤ちゃんみたいなんですもん」
会社に戻るとトリオ勢揃いで爆笑された。
ゼインがいなくて不幸中の幸いである。
「何よ、みんなして笑うことないじゃない。知らないわよ、働く車が人間の道具だなんて」
だいたい人間なんかどこにもいなかったじゃない。
「まぁねぇ、遠隔操作だから車が働いてるように見えるかも……あっはっは!」
ニールめ……思念読んだな………!
「とにかく!働く車に家を壊してもらいたいの!方法を教えて頂戴!」
そう言えば皆がじーっと私を見る。
「…何よ」
「ディアナちゃん、人を雇うとお金かかるよ?重機もお金かかるし、借金増えても大丈夫?ゼインは喜ぶと思うけど」
「しゃ…借金!駄目駄目!100年以上は駄目よ!私にも人生計画ってもんが……」
「…ふーん?じゃあ答えは一つだね。自分でやる」
自分で……
「…あのねぇ、そんなの最初からわかってるつーの。あんたたちの口煩い上司兼親馬鹿が『魔法で一気に消すなどと馬鹿な事は考えるな。あそこは人目につきやすい。ふっ』とか何とか煩いのよ!」
「ふふふ、ディアナさん物真似上手ですね」
「笑いごとじゃないのよ!」
三人寄れば何ちゃらでしょ。あんたたち知恵を出しなさいよね!
そう頭の片隅で思った時だった。
ギリアムがハッとした顔をする。
「ショーン、お前小さい頃集めてなかったか?」
「ああ!ありましたね!あれはほとんどゼインさんの趣味で……」
ニールもピンと来たらしい。
「ああ、あったねえ!ふむ、使えるかも……」
そして3人が声を揃えて言った。
「「「エヴァンズ邸へGO!!」」」




