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おねだり

「お詫びにお金頂戴」

「恐喝か」

「んじゃ謝礼にお金頂戴」

「お前が私に何をしてくれたのだ」

「じゃあ宝くじ買えるところ教えて」

「泥棒に家の場所を教える馬鹿はいない。あ、いたな、ここに」

「ふんぬーー!!」


 何でコイツはこんなに理解力が無いんだ。

 乙女のお尻にダメージを与えておいてこの開き直り!

 コイツは駄目だ。あー駄目だ駄目だ。


「ほら見なさいよ、ここ!『魔女でもわかる不動産取引』の本によると、借りた家を壊しちゃダメって書いてあるのよ」

「誰だ、そんな売れそうもない本を書いた阿保は。そしてそれを言われないと分からない人種は……なるほど、魔女か」

「うるさい!」


 私はどうしてもあの幽霊屋敷にもう一度行かなきゃならない。ついでに言うと色々壊して調べたい。

 あの日起こった予想外の出来事を把握しておかなきゃならない。

「理由を話せ。事と次第によっては考えてやらん事も無い」

「ほんと!?ええとね、家を壊したいの」

「という訳で却下。サラスワの報告書が出てないぞ」

「ムキー!サラスワの機械は砂が詰まりやすいから、ろか……から先が分かんないのよ!」

「……わかった」

 

 借りた家を壊しちゃダメなら買うしかないじゃない。

 金貨は昔のお金だし、使っちゃダメって言われてるし、宝箱はトリオが勝手にゼインに渡したし……。

「姉さん、そういう時はおねだりするんすよ」

 ゼインのデスクの前でぶーたれる私に後ろから声がかかる。

「ギリアム!なになに?おねだりって何?この唐変木にも効き目があるの?」

「もちろんす。社長もおねだりには弱いっす」

「ギリアム、私に勝手なイメージを持つな。それから本人を前に作戦を立てることほど無意味なことは無い……と最早聞いてもいない」


 ギリアムが私の耳元で〝おねだり〟の方法を伝授してくれる。

「…コソ…え、ひとみうるうる…?難しいわね……」

「…そこは外せないっす。あと声をやや高めにして…ヒソヒソ……」

 ふんふん、なるほど。

 おねだり…マスターしたり!


「ゼイ〜ン?私ねぇ………」

 両手を胸の前で組んで、ええとここで水魔法を眼球から出すのよね。声は…鳥の擬声ね。

「ピィエがほピイの〜ピヨ!」

 どうだ!!

 …とゼインの顔を見ると、口端がヒクヒクしている。

 成功したでしょ!?と後ろのギリアムを振り返れば、白目を剥いている。

 …ふむ、修行が必要か……?


「…ごほん、わかった。とにかく色々とわかった。お前がただの馬鹿でも底の浅い阿保でも無い事はよく分かった。……イエスかノーで答えろ」

 おお…!おねだりが効いた…?

「第一問、お前が欲しいのは幽霊屋敷か」

「そうそう、わかってんじゃ…」

「イエスかノー」

「ぐっ…イ、イエス」

「第二問、幽霊屋敷を壊す必要がある」

「イエス!超イエス!」

「うるさい。第三問、何かを探している」

「イエース!!イエス!」

「第四問、それは目玉の幽霊に関係する」

「……あんた…さては天才ね!そうなのよそうイエスイエスよ!」

「…………早く言え!!この底無し阿保が!!私の30分はお前の200年より貴重なのだぞ!!」

「えー?……1か月ぐらいなもんでしょ」

「…だ…ま…れ………!」

 何でコイツはこんなに機嫌が悪いんだ。

 遅すぎる反抗期か?

 




「つまり、通常ではあり得ない変化が起こった、ということだな」

 なぜか床に座らされた私は、偉そうに上から物を言うゼインに必死に説明をしている。

「そうなのよね。ニールにも言ったんだけど、あの屋敷には魔力が発生するようなものはなーんにも無かったの。木の記憶だけ」

「…魂の欠片……まぁいわゆる人体の一部については心あたりがある」

 そりゃナイフについてたんでしょうよ。

 目玉だけっていうのはどうにも嫌な感じだけど。


「普通はね、長い間魔力を浴びないとあんなに強い悪霊になったりしないのよ。でもこの間は一瞬の事で……」

 ちょっとだけ…いやけっこうニールを危ない目に合わせちゃったのよね……。

「……わかった。屋敷を買い取る資金を出そう。この書類に名前を書け」

 ヒラヒラと目の前に一枚の紙が浮かぶ。

「お!オッケーオッケー、名前ね、名前…。ディアナ・アーデンっと」

「…貸せ」

 今度は紙がゼインの元へ移動する。


「……お前は二度と人前で名前を書かないことだな」

「は?」

「よかったな、ディアナ。これでお前も正式な私の部下だ」

「…は?」

「控を返そう。よく読んで永遠に保管しろ」

「は…?えいえん…?」

 ヒラヒラと再び降りてきた紙に目を通す。

「アーデンブルクの古語………あーーー!!せ、正式雇用契約書……!!」

 な、なんて狡猾な男なんだ…!!

 手に余る…!この弟子、私の手に余る!!


 紙を握りしめワナワナ震える私に勝ち誇ったような声が降り注ぐ。

「社内融資の返済は給与天引だ。さてさて、いつ返し終わることやら……。ああ愉快だ」

「……覚えてなさいよ……。50年ぶりに新しい魔法作るからね…。どうしても膝を折り曲げて額を床にこすり付けたくなる魔法作るからね……!」

「…ほう、50年前の分から詳しく頼む」

「知らん!!ふえ〜んギリアム〜!あんたからも何とか言ってよぉ!」

 側で成り行きを見守っていたギリアムの腕をぎゅっと掴む。

「…姉さん、それ…ここで出してどうするんすか……」 


 何はともあれ、私は人生で初めて家を買った。

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