幽霊屋敷
「さあ行くわよ、ニール!」
「………何で僕なんだよ………」
「しのごの言わないの!厳正な抽選結果なんだから!」
不動産屋で教えてもらった木でできた家。
そう、幽霊屋敷!!
幽霊と言えば魔法使い!
見に行かないわけにはいかない。
「……あのね、ディアナちゃん。僕ってさ、本気で見える系男子なわけ。つまりね……幽霊とか大嫌いなんだけど!!」
「はー?怖いの?何で?ふつうそういうのって見えないから怖いもんじゃない?」
「………………。」
あの後ゼインは休日だと言うのにトリオを呼び出した。
私は知っている。そういうのパワハラっていうんだぞ。世が世なら私も言われていたのであろう。
でもしょうがない。あの頃は寝ずに働いてたから昼も夜も無かったのだ。
それでみんなで幽霊屋敷に乗り込もうと盛り上がり出したのだが、大人数で行って騒ぐと幽霊が出て来ない可能性を大声で主張して……厳正な……まぁ、ちょこっと確率操作したが、厳正なクジ引きの結果、私はニールを手に入れた。
どう考えてもニール以上に使える人材はいない。
ちなみに紹介された家は、ネオ・アーデンの郊外、例のアンティークショップがある区画にあり、何でもこの国では相当古い建物らしい。
噂によると築100年の古家で、通称〝呪いの館〟とかなんとか呼ばれているそうな。
100年で古家とか鼻で笑いたくもなるが、とにかくこの家を壊そうとすると悪い事が起こるらしく、この大都会ネオ・アーデンにおいて手付かずのまま残っている……とのこと。
「100年前のどこが古いのかしらねぇ?私の付けてるピアスなんて軽く900年以上前のものよ?」
元気のないニールに明るく話しかける。
「あー……うん、ね。もはや歩く文化遺産だよね。プレゼント?」
「そうそう!リオネルっていう弟子がいてね、黒いダイヤを発見したからって作ってくれたの。後にも先にも宝飾品をもらったのはあれきりねぇ……」
言いながら自分の右手をふと見る。
ああ、今日もらったわ。借金の元を。
「ふーん、ディアナちゃんの元カレ?」
………図らずも夫がいた身だが、年齢=恋人いない歴を現在進行形で更新中の身。
「く、くだらないこと聞いてんじゃないわよっ!」
「あ、誤魔化した!あーやしー!」
「お黙り!」
そんなこんなで辿り着いた幽霊屋敷。
見た目にボロボロの魔法使いが好みそうな屋敷である。
「げー…いかにもって感じ。何だよこの蔦、入り口見えないじゃん」
「蔦ごときでピーピー言ってんじゃないわよ。ほら、土魔法の派生系に植物関係のあるでしょ?あれでパパッとどかすのよ」
「えー!!僕がやるの!?」
「あったり前でしょ!?私がやったら20秒で探索が終わるでしょうが!!」
「えー……それでいいじゃん…ブツブツ…」
ニールはよっぽど幽霊屋敷が嫌らしい。
ブツブツ、ブツブツと鬱陶しいが、例のごとく時計を操作して入り口部分の蔦だけを払った。
…ふーむ、やはりニールの魔法はかなり精度が高い。
が、よく見ろ、ニール。
入り口だけに蔦があるなんて不自然でしょうが。
これはもしかして本当に幽霊屋敷……?
「…できたよ。本当に入るの……?」
入り口の蔦を払い終わったニールが私を振り返る。
「往生際が悪い!!行くわよ!」
半ば引きずるようにニールの襟首を掴み、ようやく幽霊屋敷探索の第一歩を踏み出した。
……が、入り口すぐの玄関ホールで私の探索は終わった。
いない。どう気配を探っても何もいない。
「…はぁ……つまんな………」
そう口に出そうとした時だった。
ニールの肩がピクッと動く。
……おやぁ?この子何か見えてるわけ?
ふーむ、興味深い。
「…『転ばぬ先の松明』」
古い古い光魔法を唱え、とりあえず足元の光源を確保する。
「行くわよ!」
「…………うん」
すっかり元気が無くなったニールを引き連れ、玄関ホール、廊下、居間、と歩みを進める。
やはり時折ピクッと動くニールの肩。
これは私も目に魔力を集めた方が良さそうねぇ……。
まぁでもその前にっと!
「ああっっ!痛いっ!松明がヘビィ過ぎて手がつったわ!!」
ゴトッと松明を取り落とし、あたふたした声を出しつつ光を消す。
「えっえっ!ちょっとディアナちゃん!!」
「ニール!光!光出して!!」
「えっ、待って待って!…出でよ、『灯火』!」
ニールが手の平に出した青白い光の上に、えいやっと顎を乗せる。
「うーわぁっっ!!」
私の火炙り下から浴びる光モードの顔に、慌てて手を引っ込ませようとするニールの腕をむんずと掴む。
「何すんだよディアナちゃん!!びっくりさせないでよ!!」
ニールの抗議は無視して、私は口を開く。
「……あんた……魔法……発動できるでしょ………」
「───!!」
「何でわかったの…?」
再び松明を灯して2階へと向かう階段の途中、ニールがボソリと尋ねた。
「そりゃ気づくわよ。ひよっこゼインの目は誤魔化せても、この道………年の大魔女の目は誤魔化せないの」
「……そっか」
「とは言え怪しいと思ったのは例の宝箱の時ね」
「あの時?そんな素振り見せたかな……」
ニールが首を捻る。
「銀貨や銅貨ならわかるわよ?あんたあの時どうやって財宝をいっぺんに吸い込んだのよ。剣やら杖やら杯やらゴチャゴチャしてたのに。ああこの子、詠唱魔法を唱え慣れてるわねって思ったわけ」
「………………。」
黙り込んだニールを背に、目に魔力を宿す。
古い古い木造の屋敷。
幽霊が出るという屋敷。
ニール、あんたの見ている世界は……騒がしいわね。




