部屋探し
ピッ…ピッ…
「ふふふーん!無敵ね!無敵!コレもコレも買っちゃうもんね!」
私はご機嫌だった。
公式25歳の可愛い後輩らしく、ショッピングを覚えたのだ!
「しっかし、指輪がお金だとは思いもしなかったわねぇ。やっぱり指輪よ、指輪!杖とか水晶とか古いのよ!」
そう、トランクの中の金貨を弟子に預けた?記憶は無いが、そのご褒美に私は魔法の指輪を手に入れた。
そしてさっそく前々から興味があった新時代の本屋にやって来たのだ。
とは言っても、ガーディアン・ビルの目の前の駅ビルの中ではあるが。
事前にショーンから指南も受けて来た。
何でも本棚には見本しか無く、本物を買いたい時は出口でテレビ画面を押すという、何とも複雑怪奇な説明ではあったが、そこは頭脳明晰な大魔女。
完璧に15冊の雑誌を腕に乗せ、見事本屋を出た……瞬間にハタと気づく。
……どこにしまうんだ!
宿無しの上にトランクは持ち出し禁止!
私の全財産&全資産&全知全能に繋がる魔法鞄……
「なーんてね。転送魔法でトランクに送りゃいいってことよ!私ってば天〜才!」
「……ずっと見ていたのだが、お前は当初の目的を忘れていないか?」
道端に座り込んでフンフン鼻歌を歌いながら本にコッソリ転送魔法をかけようとした時、背中から嫌な感じの声がした。
嫌味でスカした真性ストーカーの弟子によく似た声が………。
クルッと振り向く…までもなく、気づけば隣にヤツがいる。
「………ゼイン」
「お前にこの時代の資金決済が理解出来ているはずも無いのだが、道具を与えた責任もあるからな。初日ぐらいは見守ろうと思ったのだが………『ボディビルの世界』……?」
「み、見てんじゃないわよ!!」
ババババと本を消し去りながらゼインに背中を向ける。
「何よ、あんた忙しいんじゃないの?私のストーカーしてる場合!?」
「誰がストーカーだ。お前が借金まみれになるのを高みの見物しているだけだ。だが往来で堂々と怪しげな動きを見せる馬鹿女に声をかけずにはいられなかった。手遅れだったが」
「はあっ!?」
「それに生憎今日は休日だ。そういや会社で寝起きして、その事実さえ知らない者がいたな……」
「ぐっ………!!」
コイツはなぜこんなに減らず口なんだ!!
「それより言っておくが、その指輪はお前が作った魔法の指輪とはまっったく違うからな」
「……どういうこと?」
「その辺の店で買える、単なる指輪型端末だ」
たんまつ…
「それってあんた達の時計みたいなの?」
「そんなに高性能なもの必要ないだろう。決済機能だけが付いている。…ちなみに使いすぎると残高が無くなる」
「ざんだかがなくなる……なくなると……?」
「見事、借金生活だ。おめでとうディアナ。テントぐらいは準備しよう」
「…の、野宿!?借金だと野宿なの!?」
「ははは!」
「はははじゃないでしょうが!!」
ったく……。
しかしそうか、これは魔法の指輪じゃなかったのか…。
ヘッポコ弟子が大魔女の師匠に献上してきたものだとばかり……。
右手人差し指にはまった指輪をジーッと見る。
やっぱり魔力を感じるんだけど………。
「おい、何をボサっとしている。家を探しに行くんだろう」
「え!着いて来てくれんの!?」
「何を勘違いしている。お前が人間相手にあたふたする様を見物するのだ」
「……帰……らないで!」
「は?」
こんな弟子でもいないよりマシである。
「そうですねぇ、シャワー室だけではなくてバスタブも…となりますと、やや建築年数が古くなりますね」
「イケメンの海賊船よりも古い家あんの…あ、ですか」
「は?」
あーもー嫌だ嫌だ。
向こうが何言ってるのか分かんないし、こっちの言ってることも全く伝わっていない気がする。
「年間賃料50万以内…もう少し何とかなればお出しできる物件も…ブツブツ…」
しかしこの感覚……前回とは全く違う。
前回の不動産屋では明らかに〝何しに来たこのガキ〟オーラが凄かったのに……。
やっぱり公式25歳は違う。
「埒が明かない。きみ、とりあえず賃料の高い順に資料を出してくれ」
「は、はい!少々お待ちを!」
対応が良かったのは隣の男のせいか……。
「はー……何も贅沢言ってないのに何でこんなに家探しが難しいのかしらねぇ………」
机に突っ伏して文句を言う。
「ひとえにお前の頭が悪いからだ。何ださっきの条件は!どこの世界に玄関開けたら風呂に入れる家がある!どこで寝る気だ!」
「えー……寝るのは空中で寝るしぃ?食事しないし荷物は鞄一つだし……」
「あと、予算が低すぎる。あれでは治安が悪い場所にしか住めないだろうが」
「治安……え?心配してくれてんの?私を?」
「違う。何度も言うが、お前を相手にする犯罪者の心配をしている」
「…………けっ」
フーンだ。あんたに散々イヤミ言われても怒らない私が人間ごときに……あ、妖精にぶちギレたわ。
間仕切りされた不動産屋の簡易応接とかいう場所で、やはりここでも四角い機械に映し出された資料をどんどん読み飛ばす…のは弟子である。
「ふむふむ」とか「ううむ…」とかうるさい。
何でもこの弟子は普段、わざわざ自分から店舗に足を運ばずとも店の方からやって来る生活をしているらしい。
……何だその素敵な魔法の国は。
「ここなんかいいんじゃないか?」
そう言ってゼインが指し示した部屋を覗き込む。
「いち、じゅう、ひゃく、せん…100まん?」
眉根を寄せて機械を見ると、不動産屋のお兄ちゃんがニコニコしだした。
「こちら先ほど出たばかりですよ。首都中央駅へは一駅ですし、この立地とこの築年数で月額100万はお手頃かと…」
「は──!!?月額100万!?何考えてんのよ!!お金無くなったら野宿なのよ!?」
「……………口座ごと寄付する女の発言か?」
「とにかく駄目よ駄目!ええと、きみ!じゃなくてお兄ちゃん?砂と水じゃなくて木でできた家は無いの!?」
「あるわけないだろ」
「ムキーッッッ!!」
ゼインはそう言ったが、お兄ちゃんは目玉を右斜め上にやってこう言った。
「……そう言えばありますね、一軒。幽霊とか平気ですか?」と。




