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魔法鞄

「…なるほど話は理解した。一言だけ言わせてもらう。お前は……盗賊かなんかか?」

「なわけないでしょ!!魔女らしく真っ当に生きてきたっつーの!!」


 ニールから何かしらの報告が渡ったらしく、ゼインが外国の出張先から転移して来た。

 そして60階には久々にトリオも勢揃いして、口をあんぐり開けて部屋の真ん中を見ている。


「……僕子どもの頃絵本で読みました。ここって、財宝の眠る洞窟だったんですね……」

「…俺も海賊だった時に宝の地図はしょっ中出回ってましたけど、本当に財宝があるとは思わなかったっす……」

「2人ともしっかりして!ここガーディアン・ビルの60階だから!!あ、でも、財宝を守るラスボスとしては最強クラスの魔女が……」

「…ああん?」

 最強クラス?最強に決まってんでしょ!失礼なヤツ!


 4人が呆気に取られて眺めているのは、私のトランクから出て来た山のような金貨と銀貨と…その他諸々の財宝である。

 まぁ私に言わせりゃ、昔のお金、である。

「…お前に何かを聞いても回答が得られるとは思わないが、どうしたのだ、この……財宝は」

「どうした……?はぁゼイン、あんたもまだまだね。運営資金に決まってるでしょ?学校の」

「学校……アーデンブルクのか」

「そうよ。そもそもアーデンブルクは島全体が学校みたいなもんだったんだから。世界中に飛び立った子どもたちがね、後輩のためにって……」

 

 チラッと4人を見ると、ヒソヒソ、ボソボソと何かを話し合っている。

 時折私を見ては、首を振ったり頷いたりと、忙しないことこの上ない。

 …まぁ、もう本名がバレた時点で色々覚悟はしてるわけよ。それにゼインは思いの外何事にも動じないし、諦めないとか言うし、コソコソし続けるのもめんどくさくなったというか……。

「ええと、ディアナちゃん?アーデンブルクって、学園都市だったの?」

 コソコソ代表のニールがおずおずと聞いてくる。

「学園都市?初めて聞く言葉ねぇ。要は私が弟子を育てるでしょ?そしたら弟子がまた弟子を育てるでしょ?どんどんどんどん増えるじゃない。…最初は野原で野宿したもんよ。それがいつの間にか建物ができて、街ができて……国ができた」

 瞼の裏に懐かしい映像を浮かべながら言葉を紡ぐ。


「「………………。」」

 ゼインとニールが黙り込む。

「へぇ!ディアナさんって女王様だったんですね!」

 ショーンが頓珍漢なことを言う。

「姉さん…マジで年いくつなんすか?」

 ギリアムが乙女の秘密に踏み込む。

「公式25才の可愛い後輩に決まってんでしょ!ゼインがそう決めたんだからそうなの!!」

 やり取りを聞いていたゼインが溜息をついて言う。

「…悪いが時間だ。ニール、後を頼む」

「わかった」

 そう言い残して、ゼインは再び出張先へと転移した。

 ちなみにゼインとニールが2人とも国外に出る事は無いらしい。危機対応なんとかかんとかである。



「ディアナちゃん、とりあえずコレをしまおうか。トランク以外にもう少し安全な入れ物ないの?」

 ゼインが去った60階。フロアを埋め尽くす金銀財宝の山のふもとで私たち4人はしゃがみ込んでいた。

「安全な……トランク危ないの?」

「うーん………古い型だからねぇ。誰の目に止まってるかわかったものじゃないし……」

 ふむふむ、なるほど。確かにあのトランクは600年前の貰い物だ。古過ぎて悪目立ち…恥ずかしい!

「わかった。んじゃショーンがよく背負ってるのにする」

「えっ!?僕のですか?」

「うん。両肩に取ってがあるやつ」

「あー、リュックすか……」

「たくさん入りそうだなって思って」

「そうですね、便利ですよ。僕何でも手元に持ってないと安心出来ないんです」


 わいわい盛り上がっていると、ニールが両手で大きくバツをした。

「……ディアナちゃん、リュックだろうがバッグだろうが、金貨持ち歩いちゃ駄目でしょ!もっとちゃんと考えて!ったく、ゼイン以上にマイペースで世間知らずな魔法使いとか勘弁して欲しいよ…ブツブツ……」

「じゃあ何ならいいのよ。心配しなくてもこの方法で1000年大丈夫だったんだけど……」

 本当は1000年どころじゃないけど、それは秘密である。


「あ、俺アレがいいっす!宝箱!」

「いいですね〜!ロマンあります!どーんと大きな宝箱からお宝ザクザク!」

 ギリアムとショーンがワクワクしながら意見を出すも、ニールがやや冷気を発してニッコリする。

 それを見たギリアムが、冷や汗をかきながら視線を宙に漂わせる。

「…あー……俺思ったんすけど、その鞄って明らかに容量不足っすよね。それってつまり、中に入れたものはどっか別の場所に行くってこと……すか?」

「……ギリアム………だ〜い正解よ!!」

 ここぞとばかりにギリアムのイカした筋肉にしがみつこうとすると、なぜかニールに首根っこを掴まれる。

「ああ、そっか。考えればその通りだよね。財宝の山に我を失ってた」

 ……ああそうかい。

 離せ!!


 パシリとニールの手を叩きながら首をコキコキ鳴らす。

「あんたたち脳の働きが悪いのよ。とは言え私の魔法鞄は特別製だからねぇ……あ、いいこと思いついた」

 私の呟きに3人が一瞬キョトンとするが、わらわらと側に寄ってくる。

「簡単な魔法鞄作りは基礎クラスの長期休暇の宿題なのよね。あんたたちやってみなさい」

「え」「俺ら?」「長期休暇欲しいです……」

 3人の呟きを無視して宙から四つの宝箱を取り出す。

「リクエストにお応えして、あんたたちにお宝ぎっしりの宝箱あげるわ。たーだーし!魔法鞄の基本を習得できたらね!」

 そう言うと、全員の目がキラキラと輝き出す。

「メインは取り寄せ魔法。入れる時は風魔法で吸い込んで縮小。出す時は逆風向きで拡大。見本作るから覚えんのよ」

 3人がしげしげと見つめる中、腕の長さ四方の宝箱の内側に数個の魔法陣を施す。

「さ、やってごらん」

「おっけ!」「うす!」「は〜い!」


 しばらくフヨフヨと空中から彼らの様子を見ていると、3人が「縮小魔法強めにした方がいいね」とか「軽くする魔法も使った方がいいんじゃないっすか?」「あ、ほんとだ。ディアナさんこっそりここに描いてる!」とか相談し合っている。

 あ、バレた?

 ふふ、いいわねぇ。何か懐かしいわ。

 

 昔の思い出に少しばかり胸を熱くしていると、パッと天井を見上げる3人と目が合った。

 それを合図に皆の足元に置かれた宝箱を確認し、一つ頷く。

「うん、まあまあね!それじゃあんたたち、発声練習してからやるわよ!」

「発声……すか?」

「そうよ。声に魔力を乗せるの」

 コテンと首を傾げる3人に溜息が出る。

「……わーかった。耳の穴かっぽじって見ときなさい!」

「聞かなくていいわけ?」

「ニールは目と耳ふさいどいて」

 

 見本で作った宝箱を取り上げ、声に魔力を込めながら命令する。

「金貨!」

 すると魔法陣が働き始め、フロア中央の金貨の山をどんどん吸い込んでいく。

「「「おお〜!!」」」

 3人から歓声が上がる。

「面白いでしょ。さ、次は誰?」

 そう声をかけると、ショーンが勢いよく手を上げる。

「やりたいです!!」

「オッケー、やってごらん」

「端末外そうっと!」

 ウキウキするショーンを3人で見つめる。

「銀貨!…うわぁ!僕魔法使いみたいだ!!」

 

 ショーンが綺麗に銀貨を吸い込んだあと、ギリアムが銅貨を、ニールが残りの宝飾品を宝箱に納めた。

 私はその様子を昔懐かしく、微笑ましい気持ちで眺めたのだった。

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