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投影魔法

「火・水・風・土、これが基礎魔法における4大属性っていうことは知ってるでしょ?」

「ああ。どの本にも基礎編として載っている」

「そう。私の弟子も見習いを卒業するためには4大属性を使いこなせなきゃならなかった」

「使いこなす…」

「そうよ。その次の段階では、5番目の属性を扱うから」



 別に授業をしている訳ではない。

 私は部屋に侵入した人間をゼインに見せている。

 霞の塊のような映像だが、確かに人型を取り、部屋の中を荒らし回る二人の人間の映像を。


「いいこと?5番目の属性を何と位置付けるかは、個々人でそれぞれ違うの。そうねぇ、雷や氷、闇や光は有名ね。この辺りからは得意不得意、合う合わないが出て来る」

「なるほど。私には何が当てはまるのだ」

「……とりあえず無視。ええと、カフェラテの時にやったのは、それぞれの魔法を順番に重ねていくやり方ってわけ。今回のは……」

「同時に発動する、だな」

「その通り」


 私が展開したのは、記憶を映像化する魔法だ。

 記憶とは言っても、生き物の記憶では無い。

 この狭苦しいアパート、つまり建物だ。

「ほら、あんたもやってみなさい。あんたが教えてくれたように、このアパートは砂と水でできてるんでしょ?」

「コンクリートだ」

「はいはい」

 水は記憶を持つ。もちろん火も風も土も。

 今回は建物の中から水を取り出す。…記憶を持つ水を。

 取り出すと同時に光と闇で陰影をつける。

 これが私の投影魔法なのだが……


「……うまくいかない。そもそも光と闇を同時に…というところが難しい。詠唱無し、反対属性、しかも基礎魔法外、ついでに言うと水魔法を発動するのではなく、他から取り出す……難易度が高すぎる」

 フハハハハ!!気づいたかね、ひよっこ弟子ゼインよ!

 サラスワでの長き日々は、起きている間中貴様を痛めつける方法を考えていたのだ!!

 ぐわーはっはっはっ!

 両手を見つめて何かを考え込むゼインに、心の中でほくそ笑む。

 あんたねぇ、一流魔法使いが何でもかんでも呪文集に書き残したと思ってんじゃないわよ?

 口述、口伝その他もろもろ秘匿性を保持してねぇ……


「ふむ。確かお前が唱えた術式は【水】の部分を他の属性に変えられるのだったな。と言うことは同時発動で組み合わせる属性も変えられる…のか?」

 な…悩むが良い、ひよっこ…弟子よ。

「…これは面白いな」

 う、うむ……。

 おかしい。応用編と実践編をすっ飛ばして発展編で魔法の奥深さを見せつけて叩き潰す予定だったのに…。



「ディアナ、この二人の人間に見覚えは?」

 私の投影魔法に映し出される人間を見ながらゼインが口を開く。

「だーれに聞いてんのよ。人間の顔なんか覚えられる訳ないでしょ」

 ゼインが白け気味で私を見る。

「ネルとジンは覚えていたでは無いか」

「子どもは別」

「…………スナイデル王の顔は?」

「王様?うーむ……。何かジャラジャラと首から下げて…シャラシャラした金色の布で…髪は…生えてたかな?何か布被ってたよね」

「……もういい」

 聞いといて何よ。


「はぁ……。とりあえずお前の心配をするのは時間と神経の無駄だとは思うが、ここは出ろ」

「は?何でよ」

「とりあえず、危険だからだ」

「だから、人間相手に何が危険なのよ」

「お前じゃない。相手が、だ」

 毎度毎度コイツは……決意を新たにぶっつぶす!!

「ついでに言っておくが、ここはもうお前の部屋じゃない」

「………今なんて?」

「お前はディアナ・セルウィンじゃない。つまりこの部屋の契約主はこの世に存在しない。わかったら荷物をまとめて……そのトランクを持って出ろ」

 ………は───!?


 


 何ということだ。

 まさかここに来て宿無しになるなんて……。

 

 トランク片手に部屋を出たのはいいが、ゼインは何のお構いもなしに転移して会社に帰ろうとする。

「ちょっとゼイン!普通は『ふ、仕方ないな。尊き師匠のために私の家を提供しよう』とか何とか言うもんじゃないの!?」

「誰の物真似だ。仮にそれが私なのだとしたら、私の聖域にお前のような怪しい魔女を入れるわけないだろうが」

「…ぐっ!この…腹黒が!!」 

 寝る場所などどうとでもなるが、私は風呂に入らねばならないのだ!

「あ、いい事思いついた。ギリアムの所行こうっと。あそこ広いし…」

「却下」

「な、なんでよ!本人に聞く前から何であんたが答えるのよ!!」

「聞く必要すらない。ギリアムに近づくな」

「はあっ!?」

 この男は……!!


「……サラスワに帰る」

「仕方がない。お前にはうってつけの場所がある。着いて来い」

「そうならそうと早く言いなさいよ!!」

 ったく使えない弟子ね!!

 そう悪態をつきながら転移するゼインを追いかけた先は……ガーディアン・ビル60階。

「……なんで私が会社で寝泊まりすんのよ」

「何の不都合がある。ここには何故かお前の寝床が10か月前から用意されている」

「………………。」

 こうして私は60階の主となった。





「え、あれ?ディアナちゃん…?帰って来たの!?おかえり〜って…何で会社に風呂!?」


 翌朝、ビルの水道管を魔法で伸ばし伸ばししながら夜通し丹精込めて60階に作った風呂で優雅に朝風呂をしていたら、なぜかその日に限って朝から出勤して来たニールに見つかり、その事実が速攻でゼインにバレて、私は生まれて初めて頭に素手でゲンコツを落とされた。

 ………あのさあ、私なんか悪いことしたわけ?


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