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さよなら王様

「スナイデル王、ディアナから話がある。時間をもらいたい」

 カメラの前以外ではとことん偉そうなゼイン。

 でも王様は何も言わない。

「ゼイン・エヴァンズ…。そういう申し出は、王の私室に入る前にいたせ」

「私は奥ゆかしい精霊では無いからな。気のむくままに生きる」

「………はぁ。して、話とはなんじゃ。ディアナよ」


 王様はいつものように肘置きに身を預けたまま、溜息混じりに言葉を促す。

「ええと……セルウィン王家から受け取ったお金をお返しする。ただ返すだけでは目先のことに消えてしまうのが金というものだ。なので目的のためのファンドを設立して事業の運営権を譲渡するという話をうんぬんかんぬん……」

「「…………………。」」

 王様とゼインが黙る。スンとした顔で。

 高位魔法の詠唱並みに頑張ったというのに。

「…苦労するの、エヴァンズよ」

「…ご理解頂き光栄だ」

 何をコソコソしてる。


「そなたの目的とは何だ」

 王様が私に尋ねる。

「あー、ええと、学校作ろうと思って。あと王様が言ってたじゃない?配給…っていうの?学校に行ったらご飯が食べられるようにしたらどうかなーって。ちゃんと一人前ずつ……」

 王様がじっと私を見たあと、ゆっくりと口を開いた。

「……話はわかった。そなたの申し出、有り難く受け取ろう。ただし、運営権はそなたに預ける。我が国にはファンドの運営ノウハウが無い」 

 それは私も無い。

 チラッと隣のゼインを見ると、『頷け』と頭の中で声がする。

 どうせお金の事はゼインにお任せの予定だ。

 私は王様の方を見て、しっかりと頷いた。



「スナイデル王よ、ディアナを連れて帰ってもいいだろうか」

 ゼインが切り出した話に、王様がゆっくりと身を起こす。

「先王からの遺産はこの国にお返しする。彼女が人ならざるものである事はもう十分にわかっているだろう。…ディアナを王族籍から抹消してもらいたい」

 ん?なんの話…?

「…父王の夫人のままでは差し障りがあるか?」

「ある。我々の人生は長い。いつまでも亡き人間の妻として生きるわけにはいかない」

「……まあ、そうよの。ならば儂の息子に娶らせ……」

「駄目だ。それでも…おそらくは子息の方が先に逝く」

「……………。」

 本気で二人は何の話をしているのだろう。


「ゼイン・エヴァンズ、我らはディアナとの繋がりを断ちとうない。民の心を鎮めるのに、この者ほど相応しいものはおらんのだ」

「彼女は精霊では無い。祈られずとも、信じられずとも、生きてここにいる。人間とは違う(ことわり)の中で、生きている」

「…………………。」

 王様が私を見る。

 そして、ポツリと私に尋ねる。

「……また来てくれるか?」

「え?しばらくは毎日来るつもりなんだけど?」

 そう言うと、王様は初めて厳しい顔を崩した。

「…そうか。ならばゼイン・エヴァンズの言う通りにしよう。……達者でな」

「う、うん…?」


 もっと人間の言葉を勉強しておけばよかった。

 あと人間の文化とやらも。

 まさか『達者でな』が『さよなら』なんて思わないじゃない。

 知ってたら『風邪引いたことないから大丈夫!』とか答えなかったつーの。

 




 とまあそれはさておき。


「ちょおっと!!何で私だけ飛行機に乗せてくれないのよ!おかしいでしょ!!」

 ゼインとショーンとギリアムがサラスワを経つことになった日、私もネオ・アーデンに戻ることになった。

 …のに、なぜか私だけ歩いて帰れとゼインが言う。


「馬鹿も休み休み言いなさいよ!歩けるわけないでしょ!ここをどこだと思ってんのよ!?」

 ジタバタと搭乗ゲートで暴れる私にショーンが言う。

「違いますよ、ディアナさん。歩くぐらいゆっくり帰って来いっていう意味ですよ!」

「だから何でよ!飛行機でのんびり空の旅でいいじゃない!」

 ショーンが困った顔で苦笑いをする。

「ディアナさん、パスポートが無効になってますから……」

 無効……?

「え、なんで?」


 ポカンとする私の元に、飛行機の運転手と何やら話していたゼインがやってくる。

「パスポートだけではない。お前の身分証はこの世に一つも無い。わかったら魔法使いらしく帰って来い。……ギリアム、ショーン、行くぞ」

「うす!」「はい!」


「…………は?」

 

 砂漠の真ん中にポツンとある飛行場で、私は見事に置いてけぼりをくったのだった。






「…よかったんすか、社長。姉さん絶対意味わかってなかったと思いますよ」

「あの女は想像以上に頭が悪いからな」

「いや、そうじゃなくて……」

 

 乗り込んだ社用機でタブレットを起動し、対面のギリアムとショーンから飛んで来る何とも言えない視線から目を逸らす。

 確かにそうではない。頭がどうのこうのとかそう言う問題では無い。

 あの魔女はサラスワの婚姻制度を何もわかっていない。わからずに結婚などするからこうなるのだ。


「でも僕も知りませんでした。サラスワでは夫が亡くなっても未亡人になれないんですね。まさか自分が死ぬまで婚姻関係が途切れないなんて……」

「ショーン、それだけでは無いのだ。夫を亡くした女は一族の中でしか再婚できない。…あの魔女、一体何人のセルウィンの妻になるつもりだ」

 とにかくアホだ、アホ!


「…まぁ、よかったすね。これで姉さんも晴れて独り身。次は俺が嫁にもらいましょうか?」

「……は?」

 思わずギリアムを凝視する。

 ギリアム…寝ぼけてるのか?時差ボケか?

「だって姉さんの身分証が必要っすよね?見た目年齢の釣り合い的に俺が一番違和感なく……ゼインさ、いや社長、何で魔力漏れてんすか?マジで怖いんすけど……」

 

 ギリアムと…ディアナ……だと………?


「ギリアム……私は言ったはずだ。お前はまだ若いんだ!もっと慎ましく楚々とした女を連れて来い!!あんな凶暴で理不尽で皮を剥げば化け物のような義妹など認めん!!」

「う、うす。…兄貴」

「ショーン!お前もだ!!あんな怪物のような義娘は許さんからな!!」

「…はい、お父さん」


 あの魔女め………。

 ギリアムをたぶらかした罪は償ってもらうからな……!

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