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交渉

 よくよく考えると、私はゼインたちの会社が何をやっているのか知らない。

 説明があったのかもしれないが、覚えていない。

 手伝いさせられたゼインの仕事は翻訳が主で、翻訳は魔法ペン任せ。

 だから考えても分からない。

 …大企業というのは、王様からも頼りにされるものなのだろうか。



「ディアナさまー、なまえかけた!みてみて〜!」

「あら上手じゃない。それじゃあ次は隣の子の名前を書いてごらん。つづりは……」


 今回の件で分かったこと、それは私の出番は無いという事だ。

 不思議な現象に寛容な国ではあるが、私の魔法が次のトラブルを生むなどたまったものではない。

 魔法を使えない私はアレである。

 人間の大人が苦手な、ただのポンコツ。

 違う、苦手なのは空気を読んだり、場に合わせた言葉を使う事であって……まぁ、だから結局こうなる。


「ディアナ様、子どもたちに勉強を教えて下さってありがとうございます。…お恥ずかしいことに、私は読み書きができないのです」

「ああ、気にしないで。好きでやってることだから」

 城壁内のテントには、大人が忙しく働いている間子どもたちが集められている場所があった。

 必然的に私はそこに入り浸るようになる。

 そしたらテントで子守番をしている女性に頼まれて、子どもたちに簡単な読み書きや計算を教えるようになった。

 まぁ半分は趣味みたいなものである。

 それにこの国の子どもは可愛い。

 火炙りモードの私を見ても泣かない。


「ディアナさまー、さんすうわからない」

「算数?どんな問題?」

「えとねー、1個のパンを2つに分けたらどうして2個にならないのかわからない」

「…ん?」

「だっていつもお母さん言ってるよ。お兄ちゃんと半分このパンでも、1個は1個だって」

「…んん?」

 あー…なるほど。超難問ではないか。

 これは困った。私の適当なサラスワ語では説明が…いや、流暢だとしても説明が……ふむ。頭のいいヤツに聞こう。

「宿題にしてもいい?答えは明日ね」






「…武器は売らない。何度言われても答えは変わらない。紛争に介入する気は無い」

「ですが、王の望みは事態の打開です。そのためにも圧倒的な武力が必要なのです!」

「御社が私企業でありながら最新の兵器を保有するのはなぜなのです。島の売却金で足りなければ上乗せもいたします。ぜひ…」

「答えは変わらない。我が社の製品は兵器では無い」


 人間はいつもこうだ。

 誰がいつ兵器を作った。

 結果、兵器に見えているだけで、アレらは元々は島を守るための対津波、対火山、対竜巻、対……魔獣用だ。

「あなた方はサラスワ連邦国の頭脳なのだろう?武力や兵器が本当に事態を打開する手段となるのか、今一度考えてみる事だ」

「「………………。」」




 何度目かのサラスワの官僚連中との交渉を終え、竜の餌やりに60階へと戻る。

 最近のストレス発散はこれだけだ。

 …竜は可愛い。隣の妖精は無視だ。


「あ、ゼインさんお疲れ様っす。どうでした?サラスワの連中は」

『まえのおとうさんー』『むし!』『ごはんごはん!』『おてつだいー』

 無視しようと思ったが、エスカレーターが止まる前に妖精を肩に乗せるギリアムと目が合った。

「ギリアムいたのか。…はぁ。相変わらず面倒くさいな、あの国は」

 

 今回の場合、結局のところ欲しいものがあるのは私も向こうも同じなのだから、落とし所をどこにするかだけの問題だ。

 彼らはああ言ったが、兵器の入手は第一の目的では無い。

 本当に欲しいのは後ろ盾。

 サラスワに手を出せば、火傷では済まないほどの力を持つ後ろ盾だ。

 他国に対して疑心と警戒しかないサラスワではあるが、私の会社とであれば交渉ができると踏んだのだろう。

 私もそう思っていた。

 だが他国の目を掻い潜り接触する事が困難だった。

 攻めあぐねているところに、まさか向こうがディアナを使って来るとは思わなかったが。

 

「そっすね。毎度毎度よくもまぁ揉め事の種があるもんだと感心します」

 やかましい妖精に虫を渡しながらギリアムの言葉に応える。

「あの国に種を蒔きに来る人間がいるのだ。醜悪な芽を吹かす種をな……」

 人間という生き物は難しい。

 知恵を付けていく様は眺めていて面白いが、知恵をつけすぎると使い方を誤る。

 そして、どう考えても誤っているのに、自分達こそが正しいのだと胸を張って生きている。

 …まあそれは好きにすればいい。それが人間であることの醍醐味なのだろう。

 ただし、私の邪魔をしない場合に限り、だ。

 

「それで?結局どうやってサラスワを収めるつもりなんすか?」

「人間同士の争いに興味はない。争いたい者は勝手にすればいい。だが、やるなら堂々と自分の手を汚せ、という話だ」

「そっすね。…引きずり出しますか?」

「ギリアム、滅多な事を言うな。我々は温和な商売人だ。……正々堂々と売りに行こうではないか」

「……喧嘩を…すか。なーんか怒ってます?」

 怒ってなどいない。

 何に対して怒るのだ。



 今後の段取りを話し合っていると、突然ギリアムが窓の方をバッと見る。

 それと同時に60階の窓ガラスが揺れ出した。人の目に映るはずの無い、存在すら秘匿の60階が。

 ギリアムが素早く防御結界を張るのを視界に収めると、私も迎撃態勢に入る。

 …が、どうやら一つの白い物体が窓ガラスをしつこくコンコンと叩いていることを発見した私は、フロアにかけた保護結界を解いた。

 すると窓ガラスをすり抜けて、ヒラヒラと床に落ちる白い物体……。


「……なんすか、これ」

 ギリアムが呟く。

「……紙飛行機、だな。こんなものを飛ばして来る者は……」

 ギリアムが『ああ…』という顔をする。

 拾い上げて紙を開くと、そこには一度だって便りを寄越さなかった魔女からの手紙。

「…迎えの督促ですかね?」

「そんな可愛らしい女じゃないだろう」

 

 苦笑いしながら二人で覗き込んだ手紙の文面は………


『やほ!ちょっと質問なんだけど、1つのパンを2つに分けたあと、それぞれに復元魔法をかけて2個にしていいの?人間の子どもにもそう教えて大丈夫?今日中に回答よろしく!』


「………なるほど、あの女は想像以上に馬鹿だったんだな」

「……サラスワで何してるんすかね?」

 

 馬鹿魔女が何をしていようが知った事では無いが、これだけは言える。

 真裏の国から原型を留めたまま紙一枚を飛ばせる女に、飛行機など金輪際必要無いと。

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