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ゼインの欲しいもの

 どうやら私の弟子は島が欲しいらしい。


「…ここより東に800kmの洋上に浮かぶシャラマ島、あの島を売って頂きたい」

「シャラマ島?最果ての国の最果ての島、本土以上に何も無い島ぞ」

「だからだ。何も主権を寄越せと言っているわけでは無い。通常の土地取引と同様に考えてもらえればいい」


 ふう〜ん?

 何で買う必要があるわけ?

 あんた牧場島作ったんじゃないの?買ったの?アーデンブルクにゴチャゴチャ手足生やしてくれちゃってさあ。

 あ、そういやアーデンブルクも島だわ。分かった。あんた島マニアなわけね?


「……ふむ。なかなか面白い話だが、今日会ったばかりの人間と交渉などできぬわ」

 

 あれま、王様は人見知りか。

 あ、いいこと思いついた。人間じゃなかったらいいんじゃない?さすがに魔女見知りってことはないでしょうよ。


『……馬鹿かお前は!!さっきから私を笑わせるな!』

 王様とゴソゴソ話しているゼインから脳内に怒声が飛んで来る。

『は、はぁっ!?勝手に頭の中覗いといて何文句言ってんのよ!ニールといいあんたといい覗き魔か!!』

 ゼインがギロッと私を睨みつける。

『…んだと……?お前なんか覗いて楽しいわけ無いだろうが……!お前自分が今魔力だだ漏れだと気づいてないわけでは無いだろうなぁ?お前が頭の中に思念を垂れ流して来るんだろうが!!』

『え』

 これは……恥ずかしい!!


「あー……コホン。なるほど、交渉の余地はあるということだな。承知した。ならば今日は土産だけでも納めて頂きたい」

 そう口にしながら、ゼインが何かを魔法で取り寄せたのを私は見逃さなかった。

「スナイデル王、こちらをお試しいただき是非感想を聞かせて頂きたい」

 手の平に乗る大きさの妙な…箱型機械。

「これは…まさか……」

 王様が固まる。

「お気に召すようであれば、街…そうだな、サラスワ連邦に加盟する全州を賄える規模のものを用意する準備はある」

「………………。」

 黙り込んでしまった王様をしばらく眺めたあと、ゼインが告げた。

「……今日のところは失礼する」

 

 初めて見たゼインが人間と交渉する姿。

 そして思った。

 この男なら、妖精との交渉など朝飯前だろうな、と。







「へー!ようやく交渉の舞台に上がったんだ。長いこと進まなくてイライラしてたもんね。ゼインが急にサラスワに出張なんてするから何事かと思ったよ」

「ああ。あの国は他国に対してなかなか扉を開かないからな。……国王の意向だろう」


 今や各国の政府専用機すら飛ばないあの国に、わざわざ社用機を飛ばしてまで行ったのは、それなりに勝算があったからだ。

 半分はあの馬鹿魔女のせいで計画が狂ったが……というか素顔で標的に会う羽目になったのは大いなる誤算だったが、結果として目論見通り向こうが立てた担当官を連れて帰ることには成功した。


「経緯はわかった。社内の調整は任せて。チームはいつでも動かせる」

「頼む」

 後のことはニールに任せておけば間違いない。

 急なスケジュール変更で、私の仕事は溜まりに溜まっている。


「とまぁ…ここまでは了承したんだけどさ………」

「……………ああ」

「………ディアナちゃん置いて帰って来るってどういうこと?」

「…………………。」




 そう、あれは王に辞去の言葉を述べた後だった。


『…今日のところは失礼する』

 急いては事を仕損じる。とりあえず球を投げる所まではいった。そんな気持ちだった。

『……待て。第八夫人は置いて帰れ』

『………は?』

 耳を疑うような言葉に、私もディアナもその場で目が点になっていた。

『置いて……なぜ』

『なぜ、ではない。この者は我が国の人間だ。儂が許可せねば国は出れん。それだけのことよ』

『いやしかし、彼女は今私の部下で……』

『交渉役が必要ならば我が国の官僚を連れて行け。……夫人は外に出さぬ』




「まるで人質じゃん!ゼイン平気なの!?あーもー!何でこんな展開になるかなぁ!!」

「……まぁ、別に大丈夫だろ。あの魔女のことだ。死にもしないし、どうせ呑気に寝ているに違いない」

 別れ際だって焦っていたのは私だけだ。

 ディアナは普段と変わらない様子で『じゃ、私しばらくサラスワ見て回るから』とかなんとかケロッとしていた。


「…連れ戻しに行くよねぇ?もちろん行くよねぇ!?」

「しばらく向こうを見て回ると言っていた。飽きたら自分でどうにか……」

「ゼイン!!ディアナちゃんのしばらくって100年とかなんじゃないの!?飽きたからってここに戻る保証がどこにあるのさ!!」

「…それは………」

 そうかもしれん。ついこの間が10年の女だ。

「……またよく知らない人と結婚とかしちゃうんじゃないの?あー、今度会う時は子連れかもね。あ、それはそれでいいのか。ディアナちゃんの子どもならそれこそ絶大な魔力を持つ魔法使いだろうしぃ?」

 

 ニールの溜息が聞こえる。

「……はぁ。さっさと迎えに行きなよ?世界的大企業の社長がそんな金色の瞳で出歩けないだろ?」

 ……これは新しい端末の魔力制御がうまくいっていないだけだ。

 それに……例え迎えに行ったとして、ディアナにとってこのネオ・アーデンは帰るべき場所なのだろうか。

 そして私たち4人は、あの魔女に会いに戻りたいと思わせる存在なのだろうか。


 どちらにしろ……面倒なことになった。

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