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銀行

『まじょねてるー』

『そうじてつだう?』

『そうするー』

『ぼくたちはたらきも…』

「や め ん かーー!ばかたれっっ!仕事増やすんじゃないっつーの!」

『おにばば』『ばばおに』『ばばあ』『ばあば』

「だまらっしゃい!」


 ギリアムの部屋から回収した魔木をちゃっかり頂いた私は、しめしめ上手くいったわい、と内心ホクホク顔だった。

 私が自分の得にもならないのに古木など買いに出かける訳がない。

 しかしそう美味い話ばかりは問屋が卸さなかった。

 この場合問屋は馬鹿弟子ゼインである。

 ゼインによって縮小魔法をかけられた霊木は、よりにもよって会社の60階、竜の模型の隣へと運び込まれたのだ。

 つまり私は、霊木と共に1日のほとんどを過ごしている。

 それすなわち、4匹の妖精と1日の大半を過ごす羽目になっているわけで……。

 この4匹が相当に曲者で、どんどん生意気になる上に労働意欲に溢れているためタチが悪い。

 しかも霊木から得られる力が大きいのだろう。活動範囲が広がっている。


「あんたたち、私は竜の世話を頼んだでしょ?餌やりどうしたのよ」

『ハラとナナねてるー』『むしいない』

「虫はゼインに頼むのよ」

『ゼインー』『まえのおとうさん』

「そうそう、前のおとう……「ふ ざ け る な」


 壁際の霊木から後ろをクルッと振り返ると、こめかみに青筋を立てたゼインがいた。

「あら、前のお父さん」

「ふざけるな!何だその金だけ仕送りさせられる父親みたいな扱いは!」

 ……言い得て妙。ウケる。

「虫ぐらい自分で出せ!ったく!」

 嫌に決まってんでしょ。


「んで?何の用?仕事?」

 私の定位置、空中ベッドに移動して横になりながら話を聞く。

「…ちょっと待て。寝床がグレードアップしてないか?」

「あ、わかるー?この間連れて行ってくれたアンティーク店でピンと来たのよね!やっぱり天蓋が必要なのよ!これで昼間も薄暗くていいわー」

「……………。」

 どうやら弟子のお気に召さないようだ。


「……わかってるわよ。もう美少女じゃないからね。どうせ髑髏を積んだ寝床でも用意しろって言いたいんでしょ。どうせどうせ……」

「総務部からお前の口座が凍結されてると連絡が来た」 

 無視か〜い。

 てか今コイツ何て言った?凍結?

「何の話?何も凍らせて無いわよ?」

「そうではない。お前の銀行口座が使えなくなっている」

「ふーん」

「ふーん…では無い!給与が支給できないから何とかしろ!」

「…いらないけど?」

「ああ……会話が面倒だ。とにかく!法律で色々決まってるんだ。ニールと一緒に銀行に行け」

「ニールと?なんで?」

「お前………ただでさえ面倒な金融機関での手続きを自分一人でできるのか?人間相手に」

「……ニール借りる」

 



 だからさぁ、何で私が歩かなきゃなんないのよ……。

 答えは銀行が隣のビルだからである。

 窓から見れば目と鼻の先のくせに、エスカレーターやらエレベーターやら乗り継いで、早15分は歩いている。


「でさぁ、ギリアムの髪毎日切るんだけど、朝になったらまたドーンって伸びてるんだよね」

 ニールは毎日ギリアムを起こすらしい。

 あの4人はそれぞれがお互いに世話焼きで過保護である。

「髭じゃなくて良かったじゃない」

 竜の力は髭に宿るって言うからねぇ……。

 まぁギリアムなら髭も似合うわね。ワイルドイケメンだから。これ以上好みに育っちゃったらどうしよ。嫁いびりだけはやめとかなきゃ。


「それにしても銀行窓口なんて何年ぶりだろ。今や全部ネットで完結できるからねー」

「ネット……」

 聞いたところで私には完結できない事は確かである。

「あ、着いたよ。ディアナちゃんの給与受取登録銀行、ワールドグローバルバンク。行こう!」

「う、うん……」

 入る前からいや〜な感じである。苦手な堅苦しい雰囲気だだ漏れである。

 だけど入ってみれば受付窓口の女の子が可愛いかったので良しとする。



「お口座が使えなくなっている、という事ですね。ご迷惑をお掛けしております。お客様情報を確認させて頂きますので、ご本人確認資料をお持ちでしょうか」

 

 ほーら来た来た。魔法使いが聞かれたくない質問No.1。

「…ヒソ…ニール、これ…大丈夫?」

 カウンター下で指を鳴らして取り寄せた、私の〝人間としての身分証〟をニールに見せる。

「…ん?パスポート……えーと…引き算すると…27歳?どうしたのこれ」

「…色々あって」

「色々…ね。とりあえず大丈夫…だと思う。うわ〜超ドキドキする」

 

 ニールの言葉を受けて、引き攣った笑顔を向けながら窓口の女の子にパスポートを差し出す。

「249-7896541…ディアナ……ああ、お名前が変わられているのですね。確かにロンダルディー中央支店にお口座がございます。ええと、長期本人確認未済口座……ええと、現在……121歳……?」

 女の子がチラッと私を見る。

「…少々お待ちくださいませ」

 ニコッと微笑んだあと、女の子は消えた。


「ニール!!なんかヤバい感じがする!!」

 バッと右隣のニールの方を振り向けば、ほぼ同時にニールも私の方を向く。

「それはこっちのセリフだよ!事前情報少なすぎ!!何でロンダルディー!?」

「ええと、確か100年ぐらい前に旅してた気が……。名前書けば口座作れるって言われたから何となく…って私が持ってる銀行口座これしか無いんだもん!!」

「ぐわ〜!!本人確認ザルな時代!!次!121歳はなんで!?」

「見た目美少女だったけど、カジノに行きたかったの!!だから21歳てことに…」

「100+21で121!次!パスポートは何!!」

「……人間にもらった」

「じゃあ最後。名前……変わったの?」

「………………。」


 銀行……恐ろしいところだ。

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