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探し物

「それで?寝てばかりいるお前が外に何の用だ」

 ……1週間寝とらんわ。


 それは別にいいとして、私に就業規則とやらを手渡した後のゼインから例のごとく尋問が始まった。


「探し物に行くの」

「探し物?お前に外部から調達が必要なものなどあるのか?」

 まぁ、普通は無い。

 けれど今回は私が持っている物では駄目なのだ。トリオの修行に使えない。

「木が欲しいのよ。新しすぎもせず、古すぎもしない、そこそこの木が」

「木……?一本丸ごとか?」

「それだと有難いけどこの国で贅沢は言わない。1メートルぐらいの長さで……そうね、あんたの太腿ぐらいの太さで……」

「…気持ち悪い例え方をするな。変態か、お前は」

 なんでだ。

 これ以上わかりやすくて適切な例えは無いだろうが。


「とりあえず三本。予備にもう一本手に入れば完璧」

 ここまで言うと、ようやくゼインが全てを悟った顔をする。

「……なるほどな。それならば本物の木を用意してやりたいところだが……少し遠いか」

 ゼインが思い描く〝遠い〟所はどこなのだろう。木がたくさん生えているのだろうか。

 私はこの400年、弟子の足跡を辿って旅をした。

 彼らの出身地、つまり昔は豊かな魔力を持っていた国を巡ったのだ。

 私が消えたあと、きっとみんな故郷に帰ったのだと思ったから。

 ……だけど待っていたのは枯れた大地と絶望感だけ。


「一緒に行こう。思い当たる場所がある」

 ゼインが私の肩を叩く。

「え?あんた仕事はいいの?」

「車の中でやる」

「……大変ねぇ」

「馬鹿者、お前もやるんだ。サラスワ語が待っている」

「………………。」


 


 勤務時間内に外に出る時は、通常はタブレットとかいう機械に行き先と戻り時間を登録するらしい。

 それさえやれば、直行直帰可能……の意味がわからなかったが、とりあえず私は紙にペンで『ただ今外出中。戻り時間不明』と書いて机の上に置いた。

 どうせ読むのはトリオである。連絡手段などどうとでもなる。


「だからなーんで元の姿に戻らなきゃなんないのよ!せっかく努力してんのに!」

「もう諦めろ。かなり無理がある。おどろおどろしい」

 一緒に木を探してくれると言うから、最高に可愛いふりふりレースの黒いミニワンピースに着替えたのに、ゼインはダメ出しばかりする。

 ……私の完璧な美少女姿をおどろおどろしいなどと、地獄の海で泳ぐ準備はできているようだ。


「私はこの姿でずっとやって来たの!あんたに分かる!?顔見て子どもに泣かれる女の気持ちが!」

 そう言うと、ゼインが少し申し訳無さそうな顔をする。

「……子どもには魔力がなかったのか?」

 …は?言葉の意味がわからない。

「私もショーンが先立つなどと考えるだけでも気が滅入る。だからお前のおかしな思考回路も何となくは理解して………何だ、その不味い肉を()んだような顔は」

「………………ばーー〜か」

「は?」

「ぶわぁ〜かって言ったのよ!さっさと行くわよ!」

 コイツは子持ちの魔女を見たこと無いのか!?誰だこんな世間知らずを弟子入りさせたアホ……は私だ!!

 


 

 結局元の姿に戻った私は、とりあえずゼインが言う常識的な人間に見えるように、茶髪と茶色い瞳を日常使いすることにした。ま、考えるのが面倒だった。

 そしてしゃよーしゃに詰め込まれる。黒い車だ。


「どこ連れてってくれんの?」

「古木を扱っているアンティークの店がある。外国の古民家を解体したものだ」

「へぇ…!今回の修行にピッタリじゃない!」

 何にでもお店があるのねぇ。…てことは、大魔女好みのイイ感じの筋肉の写真集もある……


「……ギリアムの件だが」

 思念を読まれたのかと、心臓をドッキーンとさせながら左隣を凝視すれば、ゼインが忙しなくタブレットを二枚貼り合わせたような機械をポンポンタカタカやっていた。

「船を返しに行く前に、最初は縮小魔法だけ使おうと思ったのだ。だがそれだけでは状態を維持できないと思って、船底に魔法陣を描いた」

「…ああ、もしかして鮮度維持魔法陣?」

「よくわかったな。さすがだ」

 船に使ったのは古今東西どこを探してもあんたぐらいのもんでしょうね。

 普通は野菜とか肉に使うのよ。あんたの大好きな常識よ、常識!

「…ほら、これを訳せ。それでだ。縮小魔法をかけてからギリアムを迎えに行くまで、おそらく三日間ぐらいだったと思う。その間私は妖精など見ていない。…というか、妖精を見たのは今回が初めてだった」

 紙束を私に寄越しながら、ゼインが語る。

 要は、自分は妖精と交渉をした覚えは無い、と言っているわけだ。


「それについては何となくわかってる。一連の行動…あんた一人でやったわけじゃないでしょ?側に必ずあの子がいたはずよ」

「……ニール?」

「そう。あの子には昔から妖精だとか、そういった類のものが見えてたはず。ギリアムの部屋であの子だけが屋敷妖精の姿に驚かなかったもの」

「……そうか」

「だいたいね、ああいう生き物は本能的に自分より強い者の前には姿を見せないのよ。あんたみたいな仏頂面の魔法使いの前に妖精が現れるわけないでしょ!」

「怪物魔女に言われる筋合いは無い」

 …減らず口が。

 まぁほぼ間違いなくゼインとニールは一緒に生活してたはず。そこにあの4匹がいたんだろう。

 偶然船を持ち込んだゼインと勝手に交渉が成立して、妖精はギリアムの元へと移動した。


「ただねぇ……何で今さら声が聞こえるようになったのかはまだ分からないのよ」

「………見当ついているのではなかったのか?」

「それを今夜確認するの。てかまだ着かないの?私忙しいんだけど」

「…………自己中か」

 

 どこかで聞いたような呟きを残してせっせと仕事をするゼインを見ながら、迂闊にも私は眠ってしまったのだった。

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