表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/230

宿題

「ギリアム…ごめんね!ほんっとーにごめん!!」


 網から転がり出た私は、ギリアムに土下座せんばかりの勢いで謝っている。腰を90度に曲げて謝っている。

 数千年に一度の大魔女の本気謝罪である。

 

「ああ、いっすよ。船も無事ですし」

「ギリアム………!あんた…なんていい男なの!性格も良けりゃ見た目もワイルド!私があと1000才若かったら……なーんちゃって。1000才なんてねぇ?影も形もないってねぇ?」

「…うす」

 あー危ない危ない。

 思わず乙女の秘密を暴露するところだった。


「…ゼイン聞いた?ディアナちゃんゼインの倍は生きてるよ」

「ああ。よもや1000年超えとはな…。まるで樹齢だ」

 …………バレてる。

「あー…コホン。あんたたち?魔法使いに年齢は関係ないのよ?私は永遠の美少女、ディアナ。誰が何と言おうと永遠の美少女なのよ!!」

「「………………。」」

「姉さん、今は大人の姿っすよ」

「……しまった!」


 両手で顔を隠して恥を忍ぶ私をゼインが堂々と無視し出す。

「馬鹿は放っておいて話を進めるぞ。ギリアムの魔力量が増えている。…しかも大幅に、だ」

「…そうみたいっすね。端末で吸収できない分が漏れてます」

「てことはギリアムってまだ成人してなかったってこと?」

「いや、体の老化と魔力の釣り合いは止まっていた。成人していなかったとは考えにくい」


 ふーん、なるほど。

 3人の話を聞きながら、覆った手の隙間からギリアムを凝視する。

 伸びた髪を妖精によって三つ編みにされているギリアムの体は、確かにゆらゆらとした魔力に包まれている。

 あの時計が持つ魔力の吸収許容量がどの程度かは知らないが、ギリアムが言うように『漏れている』のならば、確かに魔力が増大したとも言える。

 だが私の数千年の研究結果から言うならば、『それは無い』だ。

 ショーンにも話したが、魔法使いが獲得出来る魔力量は、誕生時……つまりは胎児の時には決まっている。


 今度は嬉しそうにギリアムにまとわり付く妖精たちを凝視する。濡れた髪から粒子を振り撒きながらはしゃぐ妖精……。

 私にしてみれば、魔力量云々よりも気になるのはさっきの大雨の方だ。

 天候を操る魔法は確かに存在する。

 だがそれにはかなり高度な魔法陣が必要だし、無詠唱で、しかもあんなに局所的に発動できるような代物ではない。

 ……魔力、天候、睡眠……そして、妖精……。



「…というわけだ。ディアナはどう考える」

 ゼインが突然無視をやめる。

「んー……ん?私?んーーー…………ん、ん?」

「ニール、背中でも叩いてやれ。こちらの老婦人は喉に何か詰まっているらしい」

「あはは!……ちょっとゼイン、やめてよ。僕は何も言ってないからね?ディアナちゃん、タコ食べる?」

「ゼインは後でシメる。ニールは3日後シメる。タコは食べる」

 何かが出て来そうで出て来ない。

 非常に気持ち悪い。

「ごめん、少し調べさせて。すぐには出てきそうにない」

 そう言うと、ゼインが少し驚いた顔をした。


『お前にも分からないことがあるのか?』

 おっと、久しぶりに思念が飛んできた。

 だからさー、考え事してるでしょ!?あんたほんっとに空気読めない男よね。

『当たり前でしょ。それに軽々しく口にできないことだってあんのよ』

『…見当はついているんだな。…そうか、よかった』

 …はいはい、親バカ親バカ。


「ま、私も宿題をもらったことだし、本格的にあんた達には妖精の駆除をやってもらう」

 そう言うとニールから笑顔で質問が返ってくる。

「えー…と、あんた達…に僕も入ってる?」

「当然。ゼインを抜いて、ショーンを加えた3人よ。いいこと?屋敷妖精の駆除は見習い魔法使いのお小遣い稼ぎなの。ここがポイント!今のあんたたちにはピッタリだわ」

「私は……」

「あんたは仕事」

「………不公平だ」

「あんたにこの修行は意味ないのよ」


 

 4匹の妖精がキーキー文句を言う声を華麗に無視し、私は空中から一冊の本を取り出す。

「何すか、その本」

 長髪ギリアムが本から目を離さずに尋ねる。

「……教科書。500年前まで魔法使いの学校で使われてた…本物の教科書よ」

「ええっ!?それってすごく貴重なんじゃない!?ねぇゼイン!!」

「ああ。なぜお前が……」

「とにかく!この教科書は生物学の教科書なの!妖精のことも正しく載ってる。あー……その、アーデンブルクの古語は読める?」

 ニールとギリアムがお互いの目を見ながら何かを話している。

 ……仲良しかい。

「僕とギリアムは何となく読めるレベル。ショーンはゼインから英才教育受けてるから問題ない」

「オッケー。じゃ、今日の仕上げをやったら私は帰るわ」


 魔法でクルクルと髪をまとめ、後ろ手で首にかけていたネックレスを外す。

 その瞬間、体から魔力の風が吹き出す。

 目を見開いて固まる3人を無視して、私はギリアムの目の前に立つ。

「ギリアム、あんたにこれ貸すわ」

「え…と、これ…は?」

「…魔封石のネックレス。魔力を抑えてくれるから、うまく制御できるようになるまでつけときなさい」

 おずおずと差し出されるギリアムの手に、銀色の五芒星が彫られたコイン大の黒い石のネックレスを乗せる。


 ギリアムの手の平にネックレスを握らせ、パンパンッと手を叩く。

「さあて妖精たち、少し静かにしようかしらね」

 なんだかんだでずーっと喋り続けていた妖精たちを、元いた1メートルほどの船に乗せると同時に、先ほどギリアムが練習していた防音結界魔法陣を船に描く。

「発動時間の指定とかもできるけど?」

 ギリアムの方を振り返りながら言う。

「マジすか?」

「あー……旧暦換算でよければ」

「全然問題ないっす。俺頭の中ではまだ日の出と日の入りで時間把握してますんで」

「ふふ、おっけ!んじゃ夜の間だけ発動するようにしとく」

 魔法陣に細かい紋様を書き加える様を、ゼインが食い入るように見ている。

 …ふむ、現代時間に直した陣はこいつに作らせよう。


「さてと。んじゃギリアム、約束守ってよ?いい夢みなさい」

 一言言い残して、私はその場から転移した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ