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覗き

「おーおー、ギリアムも隅に置けないね〜!女の子連れ込んでる」

「ニール、覗くな。仲間内でもプライバシーは守れ」

「いやさ、そうは言っても勝手に目に入っちゃうじゃん?だいたいゼインがギリアムを毎朝起こせって言ってツインタワーの反対側に住ませたんじゃん」

「……夜は覗くな」


 ギリアムに恋人か……。

 それはめでたい事だ。

 まぁ、あいつは私たちの中では一番まともだからな。人間として暮らした時間も一番長い。

 だからこそさっさと伴侶を得て魔法使いの個体数を増やして貰いたいのだが……。


「…人間の寿命は伸びないのだろうか」

「いや伸びてるでしょ。ここ100年で倍になってるし」

「……そうではない。共白髪…という言葉があるだろう」

「何それ、新しいギャグ?いつまでもピッカピカの黒髪童顔が何言ってんだよ」

「…………………。」


 女にだらしないニールと違って、ギリアムは女どころか滅多に人間に深入りしない。

 私のように観察の為の実験動物扱いしている訳では無い。

 理由も何となく分かってはいる。

 人間の人生はあまりにも短い。若い時間は尚更だ。

 彼らの短い人生はその一瞬一瞬がとても貴重で、我々が暇潰しで無駄にしていいようなものではない。

 ギリアムはその事をよく知っているのだろう。

 だから300年とは言わない。せめて100年でも共に過ごせる相手を見つけてやりたいのだが……。

 

「それよりどうすんの?バーンノック社との提携話。ウチとしては悪い話じゃないけど……」

 会社の運営において、ニールはまさに私の右腕だ。

 コミュニケーション能力が高く、人間世界の細かい慣習や複雑な商習慣にも難なく対応する。

 そして腹の底を読み合うビジネスの場において、ニールの目はどんな小さなサインも見逃さない。

 会社の今後を大きく左右する案件は、社内で議題に乗せる前にこうして二人で話すことが多い。


「…いい話でもない。現状、物流が滞っているわけでも無いからな」

「まぁ元々僕らの主戦場は海だもんね。今さら海運会社との提携も面白味無いか」

「ああ。今は砂の海を走る船が欲しい」

 それほどまでに大地は枯れている。

 まるで我々の命をゆっくり吸い上げるように、日ごと景色を砂粒に変えていく。


「オッケーわかった。この話はここまで。…それよりゼイン、何か報告することない?」

「報告?」

「そうだよ。今さら隠し事とか水くさいじゃない」

「は…?」

 ニールの言葉の意味が理解出来ない。

 隠し事…隠し事………いや、無い。

「はぁ〜……。ゼインといい、ギリアムといい、昔は何でも話してくれたのにさー。何なの?本命は秘密なわけ?」

「いやだから何の話だ」

 ニールが恨めしそうな目でこちらを見る。

「会社の人間が騒いでるんだよ。社長の相手はどんな女だって。面白いガセネタだと思ってたらさ……何なのその指輪!いつの間に婚約したわけ!?てか誰と!?」

「…………はあっ!?」

 こ、こ、こ…こんやく!?指輪!?………指輪。


「……ニール、完全に誤解だ。この指輪はそういった意味合いのものではない。よく見ろ、この凶暴な魔力を」

 なぜかこの指にしか嵌まらなかった指輪をニールの眼前に突き出して見せる。

「…まりょくぅ?凶暴なものは見えないけど…え、待って、相手は……魔女!?え、見つけたの?」

「…………ディアナに決まってるだろう。何の話だ」

「ええっ!?ディアナちゃん!?はぁっ!?ゼイン、ロリコ……いや、年上か。ややこしい……」

 ……コイツは絶対に誤解したままだ。

「ニール、違う。気持ち悪い想像をするな。この指輪は弟子入りの証だ。…魔法の訓練を受けている」

「………つまんない」

「何がだ」


 ニールが私の左手薬指にピタリと嵌まった指輪をじっとりした目で見て、また小さく呟いた。

『本当につまんない』と。

 どういう意味だ。

「あーあ、春が来たのはギリアムだけか。それにしてもどこであんな美女と出会ったんだろ」

 やめろと言うのに、ニールは隣のタワーをちょくちょく覗く。

 人間の血が混じっている割には人としての倫理観が薄いような気もするし、そこが人間くさいような気もする。


「ギリアムってミステリアスな女の子が好きだよね」

 ……ミステリアス?

 ゴースト的な……いやいや、それでは個体数の増加に全く寄与しないではないか。

「銀髪とか珍しいなー」

「……は?」

 銀髪……?

「あ、興味出て来た?まるで神話の月の女神……いや待て待て待て、あれは人間じゃない!瞳も銀色…………ってあれ?ゼインどこ行った?」






「へぇ〜!これってあんたの船なんだ!」

「そっす。これで西の海を暴れ回ってたんす。ここに海賊旗もあるでしょ?」

「はぁ〜!私ちょっと憧れてたのよねぇ、船での生活ってもんに。ずっと子どもと暮らしてたもんだからさ。子どもって魔力の制御が下手くそでしょ?寝てる間によく物を燃やすのよ。だから船旅は絶対無理だって…何言ってんだろ」


 4匹の妖精が依り代にしているのは、模型だと思っていたギリアムの船だった。

 約300年前に造られたという帆船には、なるほど黒い旗が立っている。

 確かに古い。妖精が宿ってもおかしくはないが……。


「…どんな大船団にも負けたこと無かったんすけどねぇ……。たった2人の魔法使いにあっと言う間に捕まって、絞首台にぶら下がるの待ってたんす。その時に俺をボコった当人が迎えに来たわけっすよ。…この船持って」

 懐かしそうに語るギリアム。

 だが内容はかなりエゲツない。

「思い出だけじゃ弱いのよねぇ。1匹じゃなくて4匹よ?他に何か……」


 そう口にした時だった。

 結界が張り巡らされた静かな空間に、床がガタガタと震えるような声が響く。


「……お前たちは……いつから思い出話をする仲になった……!!」

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