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反転魔法陣

「他には?気になること無い?せっかくだから聞いといてあげる」

「そっすねぇ…。夜中の緊急車両とヘリコプター、あとは絶え間なく聞こえるモーター音、エレベーターの昇降音に………あの、姉さん…」

「耳がいいっていうのも考えものねぇ。そこまでだと逆に不便じゃない」

「まあ…ゼインさんの役に立てる以外にいい事ないっすね。………あの、姉さん…?」

 ふーん。何でゼインはこんなにトリオに慕われてんのかしらねぇ?

 私ほどじゃないけど、性格悪くない?

 過保護な親バカだとは思うけど…。


「わかった。あんたの場合、この部屋を何とかした方が良さそうね。自分に睡眠魔法かけてもおそらく目が覚めるだろうから」

「それはありがたい……って姉さん、いい加減にアレの説明して下さい。どんだけマイペースなんすか!」

 ギリアムがビシッと指差す方をチラッと見る。

「んあ?ああ……まぁ長く生きてるとねぇ、1分も10年も大して変わんないわけよ。過ぎてみればほんのひと時」

「……ぶっちゃけいくつなんすか。俺の何倍………いや、いいっす。で、アレ」

 

 ギリアムがしつこいので、取り付いていた模型ごと虫捕り網で捕獲した4匹について説明する。

「アレは屋敷妖精。普通は古い家に勝手に住みついて悪戯放題、迷惑千万で、駆除の仕事は見習い魔法使いのアルバイトって感じよ」

「屋敷妖精……」

「姿見せるなんて珍しいんだけど……」

 2人でボソボソとそんな話をしていると、虫捕り網からキーキー文句が聞こえてくる。


『まじょしつれいー!』

『おてつだいしてるー!』

『あかげにこもりうたうたうー』

『おこしてあげるー』


「……わかったでしょ。無視よ、無視。アレらの善意は裏目に出るから」

「…了解す」

 この近代超高層アパートの最上階になぜ屋敷妖精がいるのかは後で調査が必要だ。

 気になるのは取り付いているあの模型……船の模型。

 だがとりあえずは後回し。


「ギリアム、あんたに反転魔法陣を教えるから」

「反転…すか?」

「そう。あんたもうすでに一度やってんだけどね」

「え、そうなんすか?」

「そうよー。竜を飼うためにあんたにアラタカ山の模型の台座に魔法陣描かせたでしょ?」

「あれって箱庭の魔法陣じゃなかったっすか?」

 …まあ、私がそう名付けたからそうなんだけどね。

「ギリアム、あんたは世の中の裏も表も知ってる大人でしょ?大人よね?」

 そう問えば、ギリアムが何となく察した風な表情をする。

「……まぁ、世の中の善と悪は表裏一体っす」

 うむ。君は大人だ。


 私は右指でサラサラと魔法陣を描く。

「…これは防犯用の侵入阻害魔法陣。これを施せば一定エリア内への侵入が出来なくなる」

 ギリアムが頷く。

「反転させると、一定エリアから外に出られなくなる…っすね」

「正解!……あんた、好きな女の子できても、こんな使い方しちゃダメよ?」

 そう言うと、ギリアムが憤慨する。

「俺は掴みどころのない女が好きっす!囲ってどうするんすか!」

 掴みどころない女………ゴースト的なヤツね。

 魔女狩時代には美人な幽霊がいっぱいいたのにねぇ……。


「ま、そゆこと。いい?魔法陣に限らず、魔法には裏の顔がある。使う時は、人を幸せにできるかどうかよく考えて」

「幸せに………」

「まぁ失敗すれば効果は自分がかぶるんだけどねー。あはは!」

「!!」

 ニヤリとしながらギリアムを見ると、わかりやすく狼狽えていた。

 …それでいい。

「あんたの魔法は大きくて強いからね。これから自由に魔法を使えるようになったら、このこと思い出して」

「………うす」


 神妙になったギリアムの頭をポンポンと叩く。

「さ、やるわよ。使う魔法陣は見当つく?」

 先ほど出した侵入阻害魔法陣を消しながらギリアムに訊ねる。

「……防音結界の魔法陣…すかね」

「さっすがぁ!その様子じゃ使ったことあるわね」

「魔法陣の中では頻度高めに」

「そうよね。私もカラオケやる時はよく使うわ」

「……カラオケ」

「え?知らない?100年ぐらい前にどっかの国で流行ってたのに」

「いや知ってますけど、その…ここ100年の歌なんて知ってるんすか?」

 ……………たいがいにしろよ。


「さっさとやらんか!見本も自分で出せ!!」

「えっ!?何でいきなりキレモード!?」

「あんたが人をババア扱いするからよ!!」

「……図星」

「黙れ!」



 とまあ色々あったわけだが、顔に似合わず手先が器用なギリアムは、数百年ぶりに握ったという羽根ペンで、ゼインが仕事を押し付けて来る時の紙に反転魔法陣を描きあげた。

「見た目を裏切る優秀さ……卑怯」

 ソファにふんぞり返ってポツリと口にする。

「それを言うなら姉さんっす。いかにも大人の女の見た目から馬鹿丸出しの台詞が出てくると妙に裏切られた気持ちになるんすけど……」

「ああん?何ボソボソ喋ってんのよ」

「完全にこっちの話っす」

 絶対悪口言った。コイツ。

 魔力を聴覚に集中しとくんだった。


 ギリアムが書き上げた魔法陣を眺めながら、次の作業に取り掛かる。

「陣の効力の範囲指定のやり方分かる?」

 そう声を掛ければギリアムが宙を見やったあと、ブツブツと喋り出した。

「あー……確かゼインさんが何か言ってたような……魔法陣は外周円の大きさで効力範囲が変わるから……ええと端末には直径50センチから5メートルまでの調節機能が……」

 はあはあ、例の小難しい時計の設定か。

「何言ってるか分かんないけど、この部屋の広さだったら魔法の絨毯2枚分ぐらいの大きさかしらね」

 指を2本立てながら言えば、ギリアムがジトッとした目をする。

「……俺に魔法の絨毯の面積が分かると思ってんすか?」

「はーー?魔法使いのロマンでしょ!?信じらんない!ゼインの教育が悪過ぎる!!」

「…………………。」


 ふと視線を上げれば、面積を表すのに丁度いいものが目に入る。

「あ、アレにしよう!あのテレビ!」

 壁に架けられた魔法の絨毯と同じぐらいの大きさのテレビを指しながら言う。

「……テレビ」

「そうそう!今紙に描いた魔法陣をテレビ2枚分の大きさで床に描く!ほれ」

「テレビ2枚……新単位っすね。で、どうやって描くんすか?」

 ……どうやって描くんすか?

 ギリアムが何を言っているのか分からないが、とりあえず羽根ペンを渡す。

「……マジすか!?」


 悲壮な顔をして床を見つめるギリアムを無視し、どっこいせと立ち上がる。

「さぁて、これで問題は解決したわね。例の件、バラすんじゃないわよ」

 カッコ良く転移するため指を鳴らそうとすれば、ギリアムが慌てる。

「いやいやいやいや!何も解決してないでしょうが!どうするんすか、アレ!!」


 ギリアムの指の先には例のアレ。

 ……忘れてた。


『ひいおばあちゃんぼけてるー?』

『ぼけてるー!』

『かいごするー!』

『ごはんたべましたよ!』


 ……潰せばいいか?

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