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魔法使いがいない国

「どう考えたっておかしいでしょ!?何で大事な話の相手がゼインなのよ!!」

「まあまあディアナちゃん、落ち着いて」

「落ち着けるかっっ!!」


 プンスカプンスカである。

 同じ黒歴史を持つ者同士慰め合っていたはずなのに、突然ホリーダが言ったのだ。

『社長に伝えとかなきゃならない大事な話があるわ』と。

 私が適当に伝えとくと言ったのに、『アンタと伝言ゲームやるなんてそれ自体が罰ゲームじゃないの!』と来た。

 どういう意味だ!


「ったくホリーダは分かってないのよ!ゼインがどれほど腹黒で意地が悪くて性格が捻くれてて人の傷口を塩水で洗っても平気な顔して怪我する方が悪いとか言っちゃうような極悪人か!!相談なんかしたら弱味につけこまれて生き血を吸われ続けてねぇ……!?」

 プンスカしながらも真面目に食堂の後片付けをする大魔女の後ろで大爆笑が起こる。

「あっはっはっは!ねぇ、聞いた?今の」

「聞いたっす。……ククク、姉さん、ゼインさんのこと良く分かってるっすね」

「ふふふ、お二人は似た者同士でいらっしゃいますから」

 クルッと振り返り、ユラユラと魔力を高める。


「なぁに笑ってんのよ……?私ほんとは気づいてんだからね……?あんたたち……悪巧みしてたでしょ!!」

 ドバッと髪を逆立てれば、三人がギョッと目を見開く。

 突然降って湧いた卒業試験のはずなのに、余りの用意周到っぷりに気づかないわけがない。

 というか、一番おかしかったのはテーブルの上にきっちり6人分用意されたD&Aの料理だ。

 絶対に台本があったに決まっている。

「し…してないしてない!!僕たちは心の底からディアナちゃんの卒業試験の応援を……」

「そ、そうっすよ!あ…あれっすよね?姉さん卒業してトラヴィスと旅に出たいって……」

「ギ、ギリアム殿!」

 ………なーるほど。

 あの誕生会の夜の話は筒抜けだった、と。

 つまり卒業試験さえも降って湧いたものでは無かった……と。


 指を振ってテーブルの上を一瞬で片付け、椅子にドカッと足を組んで座る。

「そこまで分かってんなら話は早いわ。あんたたち、私が絶対卒業出来るようにゼインを説得しなさい」

 3人がこくりと頷く。

 大魔女パワー健在。

「よろしい。ついでにゼインが3か月ぐらい休めるように会社閉めてちょうだい」

「無理だね」「無理っすね」「無理でございます」

 ………大魔女パワー即衰退。

 

 テーブルに両肘をつき、手の平に顔を乗せる。

「はあぁぁぁぁ……。もういいわよ、相談役より社長の方が偉いわよ。どうせどうせ……」

 聞こえたのかどうだか、3人がヒソヒソしている。

「ディアナ様は相談役なのですか?」「初耳っすね」「んなワケ無いでしょ。あー…でもゼインにとってはそうなのかも」

 何にせよ、彼の腕に彫られていた文字はカンニング魔法で記憶した。

 後は翻訳するだけ……。

 翻訳翻訳……あ、私がやる必要なんか無いじゃない!それこそ私には才能溢れる人材がいる。

「あんたたち、ホリーダが来たら伝えといて!永遠の美少女は寝る時間だからバイバイって!!」

 言ってすぐ見知らぬ邸を飛び出した。


「……あーあ。玄関から出ちゃったよ。ここディアナちゃんの家だっていう設定理解してなかったっぽいね」

「逆に美少女の設定はしつこいほど貫くっすね」

「………そう言えば、ディアナ様はホリ様と友人になられたのでしょうか」

「「あ」」




 

 見知らぬ邸の玄関を出て、大魔女渾身の隠蔽魔法がかかった水晶の城を見上げる。

 魔力が無い者が見れば普通の一軒家にしか見えないのだが、実は大魔女である私はその〝普通〟が分からなかったという内緒の話がある。

 だからここに建っていた幽霊屋敷をそっくりそのまま色だけ変えた家を人間に見せているのだが、ピンクの屋根と黒い壁紙が何とも言え無いほどオシャレである。

 窓のフレームは緑色で、まさに聖典から抜け出した魔法美少女の家である。

 とまあ今はそんな事を言っている場合では無い。

 空間接続が施された玄関を避け、壁をそのまますり抜けた。



「おかえりなさいませっ!!」

 城に帰れば、当然ながらストーカーが待ち伏せしていた。

「はいはい、ただいま」

 玄関ホールを足早に抜け、才能が溢れすぎて変人の名を欲しいままにしたリオネルの部屋を目指す私の後ろを、せかせかとアレクシアが着いて来る。

「ディアナ様、私いい子にしておりましたわ。鬼瓦は何と言っていましたか?」

 オニガワラ……?

 とりあえず足は止めずに眉根を寄せる。

「虫ケラが言ったのです。ディアナ様が私のために鬼瓦と交渉に臨むと」

 アレクシアのためにオニガワラと……。

 全く分からん。

「上手くいけば配当が出せるようになる上にディアナ様が人間の修行から解放されると……」


 ピタリと足を止め、アレクシアの言葉を脳内で反芻する。

 話は全く分からないが、出て来た小難しい単語を察するに、ゼインがアレクシアを丸め込んだに違いない。

 つまりここで出て来たオニガワラはホリーダ……。


「……ええと、そうそう、そうなのよ!」

 ニール顔負けの笑顔をたたえ、クルッと後ろを振り返る。

「まああぁぁ!それでは万事上手くいったのですね!?ディアナ様、ショッピングに行きましょう!不労所得は散財しませんと!」

 ………え。

「世界中のハイブランドを買い漁るのもいいですわねぇ。人間の作る服も捨てたものではないのですよ?特に東方で織られるシルクなど……」

 ショッピング……アレクシアと服……ショッピング……嫌すぎる!!


 笑顔を引き攣らせながら指を鳴らして、一つの白い衣装を取り寄せる。

 それを見たアレクシアが目を皿のようにして駆け寄って来る。

「ディ、ディアナ様、これはもしや……」

「あんたが見たがってた例の衣装。何というか、ちょっとデザインが古いと思わない?そうねぇ、私は人間よりあんたの方が腕がいいと思うわけ。というわけで、こう、いい感じに作り変えてくれないかしら?……なんて」

 バサッとアレクシアの腕に白装束を放り投げれば、皿のような目はそのままにアレクシアがガタガタと震え出す。

「ぎ…銀月様の、せ、聖なる衣を、わた、わたくしが……」

 

 髪と目にかけていた茶色の魔法を解き、銀色の髪をバサッと掻き上げる。

「……アレクシア・クラーレット、私の愛し子よ。そなたに役目を与えます。この世界に二つと無い、至高の装束を作り上げるのです」

 ヒクヒクする口端を誤魔化しつつ、ガタガタブルブル震えるアレクシアの肩に手を置く。

「ぎ……銀月の君……!!」

 トドメにアレクシアの額に唇を寄せ、そのままクルッと背を向けた。

 背後でキャーキャー叫ぶアレクシアの悲鳴を聞きながら溜息をつく。

 ……やれやれ、これで100年ぐらいは稼げるだろう。

 は〜ぁ、とうとう禁じ手を使ってしまった。

 

 


「リオネル〜、いる?」

 引きこもりだからいるに決まっているのだが、一応声をかけてから部屋の扉をそっと開く。

 男子の部屋とはそういうものだ。


「ぬおぉぉぉ〜!ダメじゃダメじゃ!!こんな陳腐な内容じゃアーデンブルクの魔法使いの名折れじゃ!!」

 扉の隙間から覗いて見れば、大量のクシャクシャに丸められた紙のゴミ山の向こうでリオネルが頭を抱えている姿が目に入った。

「……あんた何してんの?」

 当然の質問をしながらゴミの間をかき分けてリオネルのいる机の方へと向かう。

「……ししょ………」

 今にもベソをかきそうな顔でリオネルが振り返る。

「何か行き詰まってんの?」

 リオネルの手元を覗き込めば、何かを書いては乱暴に横線を引いた文章が目に入る。


「……師匠、ワシな、とってもいい子じゃから語学学校の卒業試験で一位を取ってしもうたんじゃ……」

「えっ、一位!?すごいじゃない、リオネル!」

 ワシャワシャと頭を撫でれば、リオネルが私の腰あたりに引っ付いて、大きな目を潤ませる。

「聞いてくれい!あのな、卒業試験で一位取ったもんは卒業式で代表挨拶するんじゃと!魔法学校の卒業挨拶は、笑いあり涙ありの歴史に残る名スピーチをせにゃならんじゃろ?ワシ……語学学校に何の思い出も無いんじゃ!朝行って帰って来ただけの日々をどう歴史に残せっちゅーんじゃ!!」

「……………あんた今の話、ゼインには絶対に聞かせるんじゃないわよ?」

 お高い学費が全くの無駄だったなどとヤツの耳に入れてはならない。


 とりあえずリオネルの都合などお構い無しで、私は自分の用事を告げる。

「ねぇリオネル、あんたナナハラ辺りの言葉って分かる?」

 リオネルが体を離して眉をへの字にする。

「ナナハラ……いや、知らん」

「え」

「え、じゃのうて、聞く機会が無かったんじゃから当然じゃろう。アーデンブルクにあの辺出身のもんはおらんかったはずじゃ」

「え、そうだったの?」

 リオネルの目が細められる。

「……というか、ワシに聞くあたり、師匠も言葉が分からんのじゃろ?」

 視線を横にツツツ…と逸らす。

 そしてリオネルの溜息と同時に衝撃的な台詞を聞く。

「……はぁぁぁ。ちょっと考えれば気づくじゃろ。あの辺りには魔法使いが一人もおらんかったんじゃから」

「──────!!」



 リオネルの部屋を足早に去り、眉間に皺を寄せながら図書館に向かう。

 なぜ私は重要なことに気づかなかったのだろう。

 私は千年前にナナハラに行ったでは無いか。()()を纏っていた私が。

 占術の授業で使う水晶玉の材料を採りに、数人の教師をしていた魔法使いと観光気分で行った。

 つまりあの国はあの時も魔法使いの勢力が及ばない地域だったということ。

 古い歴史を持つ国に一人も魔法使いがいなかったという話はそれとは別に特別な意味を持つ。

 あの国にはナナとハラ…いや、竜が生きていたのだ。

 そう、魔力よりももっと強い力を持つ者がいたに決まっていたのに。

 

 久々に焦りを感じる。

 強い力を持つ者……今回の場合、それはほぼ確実に神族と呼ばれるものだろう。

 彼らが人間に関わる方法は二通りある。

 一つは人間の側から〝呼び出されて〟頼み事をされる場合。一般的に有名なのはこちらのパターンだ。

 もう一つは、彼らの方から人間に近寄る場合。

 こちらに関しては定型のパターンというものは無い。

 何かきっかけがあって、神族と人間の間で【契約】が成立する。

 

 ニールが暴いたホリーダの()()は、刻印では無かった。

 つまり、前者のパターンでは無いということだ。

 刻印があれば、ホリーダは人間が神族に捧げた依代……ぶっちゃけると〝(にえ)〟だと判断できた。

 贄の仕事は、ひたすら長くて退屈な神族の人生を楽しませること。

 娯楽を提供する役割を本人が知らない間に勝手に担わされているだけで、どう生きようが自由なのだ。


 だが交わされたのが【契約】ならばそうはいかない。

 契約を違えた人間に待っているのは………。

 

 


 バターンと図書館の扉を開けて、書棚の間をウロチョロする……などという無駄な行動を取るわけはなく、右手を掲げて呪文を唱える。

「……『我が手に来たれ!ナナハラに関係する本!!』」

 すると双子の前でやった時と同じようにヒュンヒュンと本が飛んで来る。

 図書館でやるのはこれだけだ。

 飛んで来た本たちを自室に転送し、そのまま自分も転移した。


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