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魔力制御

「成果は上々。よく頑張ったわね」

「「……………。」」


 牛の乳搾りに挑戦したゼインとショーンは、わかりやすくボロボロの姿だった。

 とにかくいつも全身がカッチリしたゼインは、髪はグチャグチャ、お高そうなシャツは土まみれ。

 サラサラのショーンの髪は重力に逆らい、私と似たような首の後ろに袋がついた服は飼葉まみれ。

 端的に言って……笑える。


「…フ、フフ…とにかく、ショーンのお望みのカフェラテの修行に入ろうかしらね。フ…ク…フフ……」

「「……………。」」

 すっかり言葉をなくした2人をゾロゾロ連れて、私はミルク缶を抱えていい気分で牧場から少し離れた草原に向かう。

 途中で何かを加工する工房のいい匂いがただよってくるが、まずは目的を果たしてからだ。


「どうだった、2人とも。疲れた?」

 サワサワと風の吹く草原に座り込み、無表情な彼らに話しかける。

「…疲れたなんてもんじゃないです」

「……一連の活動にどんな意味があるのか説明を求める」

 意味……ねぇ。

 指をパチンと鳴らし、アルミ容器を二つ取り出す。

「修行の意味は自分で考えるもんよ」

 言いながら2人の手にアルミ容器を乗せる。


「ここにはあんたたちが超苦労して牛から分けて貰ったミルクがある。知ってると思うけど、ショーン、ミルクは何からできている?」

「えっ?」

 ショーンがきょとんとした顔をする。

「ゼインは?」

「あー……血液だ」

 私は頷く。

「えっ!!そうなんですか!?」

「一つ賢くなったわね。そう、ミルクは血液からできる。人間も、動物も、それは変わらない」

「へ〜……知らなかった……」  

 ショーンが神妙な顔をする。


「意外と知らない子は多いのよね。では、今度はゼイン。私たち魔法使いの魔力は何から生まれる?」

「魔力が…生まれる?」

「そう。…湧き出る、でもいいわよ」

 ゼインが腕を組んで考え込む。

「私たちがこの時代の食べ物を嫌う理由は?どうしてこの魔力の枯れた大地では魔法使いが生きていきにくいんだと思う?」

 ゼインが溜息をつく。

「……血、か」

「…正解。大地から得られる生命力は、血液として全身を巡る。それを魔力に変換できるかできないか…人間と私たちの違いはそれだけよ」

 2人がじっと私を見る。


「ショーン、前回あんたは体中を巡る魔力を一か所に集められるようになった。今日は制御を教えるわ。私たちの魔力の源…そして生き物の命の源を使ってそれを学ぶの」

 私はショーンに両手でアルミ容器を持たせ、その中に搾りたての生乳を注ぐ。

「ディアナさん、すごく…緊張します」

「そうね、そうしてもらえると教えがいもあるってもんよ」

 これは魔法使いを育てる時の試金石でもある。

 今の話が理解できない者は、これ以上何を教えても無駄。むしろ強力な魔法を学ばせる事は危険を伴う。

「ショーン、前回の最後のように手の平全体でそれを温めて。そうねぇ、65度で30分」

 言いながら水温計を容器に放る。

「30分…!?が、頑張ります!」

 うむうむ。頑張りたまえ!


「さて、と。問題はコイツなのよねぇ」

 チラッとゼインを見ると、手の平から魔力を発するショーンを食い入るように見ている。

 そして私の方を振り向くと、静かにこう口にした。

「本当に…ちゃんと修行をつけていたのだな」

 はい、そこー。今の発言ほとんどが失礼!!

「何よ、私が若い坊やを騙してんじゃないかって?」

「ああ」

「……あんたのコレクションには載ってない、死んだ方がマシだと思えるような魔法見たい?」

「おお……!そんなものがあるのか?」

 …ダメだこりゃ。


「ムカつくあんたには特別な修行させてあげるわ」

 ニッコリ笑うと、私はアルミ容器をもう一つ取り出す。

「はい、両手でしっかり持って。いい?入れるわよ」

「ちょ、ちょっと待て。先に修行の内容を言え」

 ゼインの両手の容器にミルクを注ごうとすると、往生際の悪い男が何か言っている。

「師匠とは理不尽な生き物なのよ。はい、出来た!あんたは魔力の出力も制御も問題ないからね。やるならもう一歩先に行かないと」

「もう一歩先…」

「そうよ。んじゃ、私が『始め』って言ったら右手は75度で15秒、左手は150度で3秒ね。誤魔化したって無駄よ。目で温度見てるから。少しのズレも許さない」

「は?ま、待て!もう一度……」

「はい、行くわよ天才!よーい、始め!!」

「鬼か!!」

 何度も言ってるでしょうが。

 ……私は鬼ほど優しくないって。



 何だかんだ口では不満ばっかり言っているが、ゼインの魔力は素晴らしい。

 右手と左手…出力の違う魔力の制御は難しい…のだが。

「…あんたって嫌なヤツね」

「出来は?」

「合格よ!ムカつくからそこでコーヒー豆でも挽いてなさい!」

 私はゼインにコーヒー豆とミルを投げつけると、ショーンの側へと腰を下ろした。

「いい感じよ、よくやれてるわ」

 水温計は小刻みに上下を繰り返すが、まあ誤差の範囲と言える。


「ディアナさん、僕の魔力…足りますか?」

 眉を下げ、子犬のように見つめて来るショーンに内心悶えながら告げる。

「足りないものを足るようにする、その為の修行よ。前に話した通り、生まれた瞬間に個人の魔力量は決まってしまう。でも魔力制御が上手になれば、湯船一杯だって温められるようになる。ね?ゼイン」

 恐々と豆を挽いているゼインに顔だけ向けながら呼びかけると、向こうもこちらを見もせずに応えた。

「湯船?そんな訳ないだろう。ショーンならうちにあるプールでも熱湯に変えられるようになる」

「えっ、本当ですか!?がんばろう……!」

 

 親馬鹿のおかげでショーンのやる気に火がついたようでよかったよかった……ってちょい待て。

 なんだ?うちにあるプール…?

 ……生意気!生意気!生意気!!

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