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出て来たもの

 滞りなく進んでいる。

 過去一番捏造に捏造を重ねたが、保険会社への報告書も仕上げたし、そこそこの規模の海底熱水鉱床も作った。

 会社としても魔法使いとしても相当なリソースを割いたが、おそらく遠くない未来、全て回収できる。

 いや、それ以上の成果が手に入る。


 

「あ、ニールさん今日はサンドイッチすか?いいっすね」

「……まあね」

 60階のいつものフロア、ようやく訪れた少しばかり余裕がある日常の中、一人だけ非日常を過ごす男をチラッと見る。

「ギリアム食べる?」

「何言ってんすか。愛妻弁当他人に食わせるとか鬼畜の所業っすよ」

 愛妻弁当……。

「ばっかな事言ってんじゃないよ!!次言ったら本気でシメるからね!!」

「は?何キレてんすか?」

 ……ニールがおかしい。


 あえて本人に聞きはしなかったが、ギリアムとトラヴィスの話によると、一週間ほど前からニールがやたらと豪勢な昼食を持参するようになったらしい。

 何が琴線に触れるのか、いつも何口か食べた後に涙ぐみ、大きな溜息をついているとのこと。

 ……相当不味いのか、相当嬉しいのか…いや、本当は聞かずとも分かってはいるが。

 現代社会で本物の食材を惜し気もなく料理に使えるような人間がいるはずは無い。

 そしてあのゴテゴテした少女趣味の塊のような容器。

 つまり……だが……まあどうでもいい。

 面倒くさい顔しか浮かばない。



 ギリアムがフロアを出たのを見計らい、ニールに声をかける。

「ニール、被害者の身元特定の件はどうなっている」

「ん…。何でこんなに美味いんだよ!!気持ちが複雑すぎて情緒が安定しないよ!!あーーー!!」

 ……うるさい。

 この一週間で私にもたらされた情報のうち、真に価値のあるものは〝忽然と見つかった大量の人間の骨〟だけだ。

 出どころは当然分かっている。

 あの日、葬送魔法の最中にディアナがくすねた古代竜の亡骸からだ。

 

 魔法使いと正反対に作用する魔力を持つ竜の最後は、当然ながら肉体が残ると思っていた。

 いや、素材が取れるのだから誰が考えてもそうなのだが。

 だが何も無かった。

 儀式の最後、あの場には何も無かったのだ。

 トラヴィスは絶対に気づいていた。でも彼がディアナの所業に口を挟む訳が無い。

 リオネルも気づいていただろうが、アイツは解体作業はディアナにやらせ、素材だけをねだるに違いない。

 

 まあそんな事はどうでもいい。興味は無い。

 問題は、ディアナがそこから出て来たものをニールにだけ知らせたという事実だ。

 はっきり言って、非常に不愉快である。

 

 

「ニール、報告!」

 少しばかり声が荒くなる。

「あ、ごめん、ちょっと待って」

 何だかんだでクラーレットからの差し入れを全て胃に納めたニールが立ち上がり、何かを持って私のデスクへと近づいて来る。

「はい、コレ」

 そして差し出される分厚い書類。

「……問題でも発生したのか?」

 ニールの顔を見ながら書類を受け取る。

 紙で提出される書類は、ニールがその能力と権力を使って集めた情報である証拠だ。

「流出させるには、ちょーっとばかりね」

 そう言って対面に椅子を置く。


 二人で書類を覗き込みながら、なるほど確かに面倒な情報だと思う。

「……船会社から提出されている不明者リストより遥かに多いな」

「そうなんだよね。5、6人なら泳いでる途中で犠牲になった……とかいうこじつけも出来るけど、流石に120人はね」

 わずかに眉を顰めたニールの顔を見て、おそらくは人間社会では容認し難い事態なのだろうと察する。

「……どちらの可能性が高いと思う?」

 再び書類に目を落とし、ニールに尋ねる。

 届けが出されている被害に合った船の数と、見つかった残骸の数が一致する以上、被害者数が乖離する状況が示唆する可能性は二つだ。

 ……無届けの密航船が航行していた可能性と、被害船舶の中に奴隷労働させられている水夫がいた可能性。

 ニールがパラパラと書類を捲り、骨を人型に並べた写真の載ったページを開く。

「どちらの可能性もある。骨格から判断するに、届けが出されてない犠牲者の出身は東方の海洋諸島国家だ」


 頭に世界地図を浮かべる。

 ネオ・アーデンから東側の大陸の果てには、多くの島国が連なっている。

 世界の砂漠化とともに起こった海面上昇の影響を受け、国土をどんどん減らしていく島国が。

 同じ島国としてネオ・アーデンも他人事では無い。

 蜘蛛の巣のように張り巡らせた人工島を巨大な防潮堤として利用し本島を守ってはいるが。


「あの辺りの国、発展できる要素が少ないよね」

 ニールの言葉に頷く。

「……小さな島国の運営は非常に難しい。だからあの辺は諸島連合を作って助け合っているが……」

「……ナナハラだね」

「そうだ」

 諸島連合の盟主とも言えたナナハラは、千年もの間トップに戴いて来た皇家の断絶とともに、混沌の時代へと入った。

「……まぁどちらにしろ余り興味は無いが」

 ポツリと呟く。

 実際問題、人間が人間をどう扱おうが、どんな死に方をしようが全く興味は無い。

 密入国先がネオ・アーデンじゃないならば、何の食指も動かない。

 ニールだってそれはよく分かっているはずだ。


「ま、そうだね。身元が判明してる骨はもちろん有効活用するでしょ?」

「当然だ。今回の件で、我々はオスロニアから得られる利益を独占し過ぎだと一部の国から()()()()()()中傷を受けている」

「ねー?逆に分けてやる道理がどこにあるのか聞きたいよ」

 こくりと頷く。

「……どうせやりもしない犠牲者の捜索は各国の判断に任せるが、〝発見〟はガーディアンが行う。無償で家族の元に引き渡す」

「国際世論は味方につけとこうって事だね」

「ああ。票を買うより安くつく」




 しばらく書類をめくっていると、ニールが少しばかり言いにくそうに口を開いた。

「……ゼイン、身元不明の骨に関してなんだけど」

「何だ、いい使い道でもあるのか」

 顔を上げると、ニールが変な形に口をつぐんでいる。

「……言いたい事があるなら遠慮するな。私だって産廃にする気は無い」

 再び海に投棄するかもしれんが。

「あー……いや、骨の行方というよりは、ゼインの今後10か年計画の方に少しだけ見直し案があるというか……」

「……は?」

 初めての出来事に思わず目がまばたく。


「分かってるんだよ?あの辺りを気にしたって実入りは少ないし、強国に対して日和見だし、別に今のままでも大して益にも害にもならないってことは……」

 ……ニールがこういう物言いをするのは非常に珍しい。

 よほど話しにくい内容なのか、それとも私が聞く耳すらも失った老害だと思われているのか……。

「ニール、ちゃんと話そう。お前はガーディアンのナンバー2で、私の右腕だ。お前が上申して来る意見を無碍にする訳が無いだろう。来い」

「…分かった」


 こくりと頷いたニールを会議机に促し、何となく話の流れから必要そうだとスクリーンに大陸東部を映し出す。

「シェラザードの攻略と同時並行出来るのか」

 ニールに直球を投げる。

「……出来る出来ないじゃなくて、やらざるを得ないと思う」

「ほう……」

 これは本格的に何かがあったのだろう。

 対面に座ったニールを見つめると、彼がふぅっと一つ息を吐いて手の平を握り込んだ。

 そして次の瞬間、開かれたニールの手の平から溢れる魔力……と、現れた数枚の写真。


「……無詠唱?」

 目を見開き、ニールの手の平を凝視する。

「え、そこ?今までだって端末使ってたんだから、ほとんど無詠唱みたいなもんだったでしょ」

「い、いや、そうではなくて……」

 自分がどれだけ急激に成長しているのかピンと来ていない様子のニールに言葉を失う。

「それより写真、写真見て!」

「あ、ああ」

 渡された写真には、ディアナが最近執心しているくだんの人物がいた。

「ホリ・タイガ……」

 言いながら数枚の写真を上からめくっていく。

「………と先祖?」

 人間の顔の見分けは得意では無いが、上から順にめくるたび、時代が古くなっていくのは分かる。

 全員が全員、一つに束ねた黒髪と、切れ長の目に黒い瞳。 

 

「ニール、彼は人間では無いのか。私には何も感じられない。だがそうか、トラヴィスやギリアムのような例も……」

 ニールが首を横に振る。

「……だとしたら凄くめでたい……かどうかは置いといて、僕も最初それを疑った。あのね、彼はディアナちゃんにすごく近い()を纏ってる」

「─────!」

 脳天に衝撃が走る。

 ディ…アナ…とホリ・タイガ…は同族……?

「アハハ!いい顔するじゃん。まあ安心して?彼は間違いなく人間だ。まさかの可能性を潰すために上の世代も調べたんだから」

「そ、そうか」

 ……どんな顔をしていたのだろう。


 改めてホリ・タイガと彼の先祖の写真4枚を会議机の上に並べる。

「ニール、この中で一番()が強いのがホリ・タイガということか」

 問えばニールが口端を上げる。

「さすがはゼイン・エヴァンズ!」

 ようやくニールの意図したことが腹落ちする。

 彼らが血脈を繋いで来たのならば、世代を跨ぐたびに薄まっていくはずの()が、そうでは無かったという事だ。


「彼の家相当古くから続いてるみたい。ナナハラに伝わる古武術を継承してるらしいんだ」

「古武術の継承……」

 ニールが机の上の写真を指先でトントン叩く。

「ホリ・タイガは人間だ。そしてその父親も祖父も曽祖父も。だけどそれぞれが濃淡はあれどディアナちゃんと近しい色を纏ってる。……これってさ、それこそ〝継承〟が関係すると思わない?」

 ニールの言葉に大きく頷く。


「ディアナへの報告は」

「あー…まだ。伝えたら最後、ナナハラにすっ飛んで行くだろうと思って」

 ニールの苦笑いに、私も同じ表情を返す。

「だからその前に我々が関与する下地が必要だという事だな」

 肩を竦めるニールに、心の中で感謝を告げる。

 そして私が一番恐れている事が、ニールに筒抜けである事に変な安心感を覚える。


 出て来たものを繋いだ先に何があろうとも、ディアナの帰る場所はここだけでいい。

 さて、どう策を練るべきか……。

 私はしばし地図と睨み合うのだった。

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