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拝啓ニール様

 女の子からの手紙っていいよね。

 どんな顔しながら書いたのかなーって想像してみたり、コッソリ電話番号とか書かれてたり……。

 だけどそれは相手が普通の女の子の場合に限る。

 今の時代に紙の便箋に羽根ペンで文字を書いたりしない、そしてそれを寝ている枕元に飛行機の形で飛ばして来ない相手に限る。


『拝啓 ニール様

 ご相談したいことがあります。

 誰にも内緒で城まで来られたし。

 追伸 絶対に一人で来て。  ディアナ・アーデン』


「………脅迫状」

 本気で嫌な予感しかしない。

 内緒で、一人で、って言われてこれほど悪寒が走る手紙なんて初めてだ。

 ゼインに内緒で?死ねってこと?

 あー…もう何だってのさ。


 身支度しながら考える。

 ゼインが海外視察のタイミングに合わせて手紙を寄越すあたり、ディアナちゃんには本気で内緒の相談があるんだろう。

 心当たりと言えば一つだけ。

 ゼインから頼まれた〝ホリ・タイガ〟に関する話。

 仕事で疲れた目で筋肉男を凝視する作業は辛かった。

 辛かったんだけど、ディアナちゃんが引っ掛かる理由も何となく分かった。

 彼を包む空気…というか身に纏うオーラは不思議なくらいディアナちゃんとよく似てる。

 まるで別々に育った赤の他人が、一緒に暮らすうちに似た者同士になるみたいに。


 ……とここまで考えて血の気が引く。

 ゼインには言えない……えーうそ、それってマズくない?

 ディアナちゃん、まさか彼とそういう関係に……?

 いや、ゼインはどうするのさ!わかる、気持ちは痛いほどよく分かるよ?無愛想だし、甘い言葉の一つも言えないんだろうし、外見だけじゃなくてお腹の中まで真っ黒だし!

 でもね、アイツなりに頑張ってるんだよ?普段スカした青白い顔してるけどね、時々真っ赤になってね……とか言えるわけない。

 ホリ・タイガの件は調査が済むまで棚上げだ。

 暴れるゼインをたしなめる余裕は今の僕には無い。

 

 いつもの癖でその日のスケジュールを確認し、ああ今日は休みだったな、と思う年に数度の貴重な朝。

 液体なのにちっとも喉を通らない朝食を諦め、僕はこれっぽっちも気が向かない場所へと転移した。




「ニール!よく来てくれたわ、待ってたのよ!」

 わぉ、熱烈歓迎……などと全く思えないディアナちゃんの出迎えを受け、とりあえず培った営業スマイルで挨拶をする。

「おはようディアナちゃん。ちょっと来るの早かったかな?」

「全然!ちょうど今リオネルが双子と模試?とかいうところに行ったからナイスタイミングだったわ。ギリアムとショーンには特別訓練言いつけてあるから大丈夫!」

「模試……に特別訓練」

「そうそう!耳が良くても頭が良くても意味ないとこ行かせた!」

 ……これは本格的にヤバそう。


「あー……相談事があるって話だったよね。僕で役に立てるといいんだけど……」

「あんたじゃないと無理なのよ。お願い、私を助けると思って頼まれてちょうだい……!」

 瞳ウルウル……うん、美人。それは分かってる。普通にしてれば相当美人。でも中身が超残念。

 いやそれよりも。

「ディアナちゃん、ちょっと痩せた?」

「はあ?」

 ディアナちゃんの眉根が寄る。

 違う、口説き文句じゃない!

 何かこう、覇気が無いというか、やつれてるというか……。

「……ああ、ようやく終わったのよね、山作り」

 山……?

「あ!海底火山!そっかそっか、見事な出来映えだったよね!あーそっか、ありがとう」

 そういやディアナちゃんのおかげで手に入った休日だった。

 トンッと胸を叩く。

「オッケーオッケー!そういう事ならお悩み解決はニールさんに任せなさい!」

 ……ゼイン絡み以外でよろしく。


 

 ディアナちゃんに連れられて行ったのは、ついこの間までギリアムが滞在していた部屋。

 その扉には今、『ドラコの部屋』という表札が掲げられている。

 卵に何かあったのかな。まさか割れたとか……。いやいや、だったら僕じゃないでしょ。そこは管轄外。

 そんな事を考えながら開けた扉の向こうには、竜の巣穴が再現されていた。

 そしてほんのり温かい空気が卵を覆っている。


「すごいね、この部屋。どうやって作ったの?」

 尋ねればディアナちゃんが何かを考える仕草をする。

 思念読んだら面白そうだけど、面と向かってはさすがにマナー違反かな。

「ええと、作ったのはリオネルなんだけど、多分ギリアムがナナとハラに聞いたっぽい」

「え!?」

「いやさ、普通は親が卵温めるじゃない?こういう時どうすんのって話で…」

「いや、そこじゃなくて」

 ギリアム竜の言葉が分かるようになったってこと?それってけっこう凄い特殊能力な気がするんだけど。

「必要なのは適温と魔力みたい。これがさぁ、不思議なことに竜の魔力じゃなくて大地から生まれる魔力がいるんだって。なるほどなって感じよね。卵の時に大量の魔力を体内に溜め込んで、大人になったらそれを大地に還す。……竜が減った理由にも納得だわ」

 しげしげと卵を見ながら語るディアナちゃん。

 

「ナナとハラと言えば……」

 ディアナちゃんの呟きに心臓がビクッとする。

「そろそろあの二匹にも子ども出来ても良さそうじゃない?」

 あー……そっち。そっちね。

「そ、そうだね。でも今の話だと、魔力が豊富な環境で暮らさせなきゃ無理っぽくない?」

 言えばディアナちゃんの瞳が丸くなる。

「あんた……さすがは私の孫弟子じゃない!ほんとその通りだわ。なるほどー……」

 え、いや、そこは気づこうよ。頭いいんだか悪いんだか……。

「んじゃミニ竜に戻して双子の部屋で育てよっと。ほっとくと魔力溜まりできるぐらい充満してんのよね」

 頭いい。

 でもそれならむしろディアナちゃんの部屋で育てなよ、とは言えない。

 あと妖精どこ行った。

 


「ニール、来て。ここから先は秘密ね」

 ディアナちゃんが右人差し指を口にあて、壁際で僕に手招きをする。

 その手に招かれるまま、保温魔法で温められている竜の卵を通り過ぎ、扉とは真反対の壁まで歩みを進める。

「……誰にも内緒よ?」

 しつこいほど念押ししてくるディアナちゃんの視線を追えば、今の今まで壁だった場所に隠し扉が現れた。

「え……僕でも見えない扉?すごいね」

 素直に賞賛すると、フフンと自慢げな顔を見せる。

「さ、入って入って!」

 

 嫌な予感というのはよく当たる。

 言われるままに入った僕が馬鹿だったんだけどさ、一言あっても良かったんじゃないの?

 僕……幽霊以上にスプラッタ系はダメなんだけど!!


 口端を引くつかせながら口を開く。

「いや〜……見事にバッラバラだね」

 それ以外に言いようが無い。

 扉の向こうに現れた、薄暗くてひたすらだだっ広い空間。

 目の前にはバッラバラに解体された巨大な竜の亡骸。

 鱗、牙、爪、そして皮に骨。

 もう見事にバラバラで、バラバラながら何となく整理されて石床の上に置かれている。

「あー…つかぬ事を聞いちゃうんだけど、もしかして一人で……?」

「てへ!」

 可愛いくない。本気で可愛くない。

 あの日の涙は何だったわけ?それとこれとは別なわけ?

 もう騙されない。生き血を啜る大魔女認定!


「だってさー、ゼインとショーンは牛にも触れない役立たずだし、ギリアムに頼めるわけないじゃない。トラヴィスは飛び回っててそれどころじゃないし、リオネルとは取り合いになるからダメでしょ?」

 いや知らないけど、何?もしかして僕は牛も捌ける田舎者だと思われてる?

 あえて否定はしないけどさ、そんな牧歌的な育ちじゃないんだけど。


「それでね、頑張って解体したのはいいんだけど……」

「いいんだけど……?」

「………出たのよ」

「出た」

「そう、アレが………」

 悪霊も悪魔も巨大竜にも眉一つ動かさない大魔女が、青い顔して指差すもの。

 ああ僕、何見せられるんだろ……。せめてゼインの激怒した顔よりはマシでありますように。

 そんなささやかな願いを脳裏に浮かべた僕が次に見たものは、衝撃的な光景だった。

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