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食卓を囲んで

 あれから私はショーンにタブレットをもらった。

 四苦八苦しながら〝動画〟を見る方法を教えてもらったのだ。

 アレクシアにしばらく魔法禁止を言い渡してオスロニアに留めた私は、魔力がある状態で給食センターに通った。

 毎日毎日昼間は生身のホリーダに会い、夜は動画のホリーダを見て、一日の大半をホリーダのことを考えて過ごした結果、こうなった。


「ザハール!!今日も……今日もホリーダが……超カッコよかった!!重たいコップの塔をヒョヒョイとね、もうとにかく、超!カッコよかった!!」

「だろ!?新しい動画アップされてたからディアナに送る!それより頼んでたヤツ……」

 声を落としたザハールに、ニヤッとして返す。

「ばーっちり貰って来たわよ!」

「おおーー!『ザハールくんへ 検定試験頑張って ホリ・タイガ』うおぉぉぉぉ!!」

「あんた頑張んなさいよ?ホリーダも語学検定試験受けたらしいから!」

「うおぉぉぉぉぉ!」


 すっかりホリ友となった私とザハールは、巷で話題だという〝推し活〟なるものに精を出していた。

 ホリーダの性別?

 カッコいいからどうでもいい……では無く、解決するには知恵がいる。

 あとものすごくよく見える目がいる。

 今はそのどちらも忙しそうなのだ。


「ホリーダってよく見たら顔に無駄なものが何もないのよねぇ。シュッシュッシュッとしてて……」

「そうそう、ナナハラ辺りの人間はみんなあんな感じだよな。髭とかもあんま生えないんだって。俺父さんの血も入ってるから、いつ胸毛が生えて来るか戦々恐々だよ」

「む……なげ……」

 髭は大好物だが、胸毛は……と考えたところで、急に冷気を感じた。

「ザハール、この感じ……」

 と言った時にはすでにザハールの姿はなかった。

 逃げられた!!


 

 とりあえずクルッと後ろを振り向く。

 はいはいはいはい、予想通り!

「おひさー」

 冷気を振り撒く人物に手をヒラヒラ振る。

 カツカツカツが近づいて来る。

「……随分と楽しそうだな」

 ギロリと睨み付けて来るゼインからプイッと顔を背ける。

「別にいいでしょ。ほんとに楽しいんだから」

 推し活は、明日への活力である。

「………まあいい。何か変わったことは」

「……ある。ゼイン、ちょっと来て」

 相変わらずキッチリスーツの腕を取り、自室に転移した。


「新しい調べものする余裕ある?無いんだったら調べ方の知恵だけでもいいから貸してちょうだい」

 言いながらゼインにタブレットを渡す。

「……使い方覚えたのか」

 ソファに座りながらゼインが目を丸くしている。

「動画の見方だけ習ったの。これ見て」

 ゼインの隣に座って、ショーンに習った通りにトン……トン……トン……とタブレットを押す。

「おそ…」

「うるさい」


 画面に出て来たズラリと並ぶ人物を見て、ゼインが溜息をつく。

「……ホリ・タイガだな。こうなるだろうと思っていた」

「は?」

「いや、何でもない。それで?彼がどうした」

 やっぱりゼインはホリーダが〝彼〟だと分かっていた。つまり分からなかったのは私だけ。


「ゼイン、私にはホリーダが女の子に見える」

 言えばゼインがギョッとする。

「おま……本気で言ってたのか」

「本気。呪いとか魔障も疑って、あんたが出張してる間ずっと魔力のある状態でホリーダに会ってた。でも原因が分からない」

「………男だと知った後も、女に見えている…?」

 一つ頷いて、ホリーダが大きく映った場面で動画を止める。

「……うっすらと、ほんとにうっすらとだけど、ホリーダを覆う何かが見えるの。あんたには原始の魔力が分かるはずよ。何か……見えない?」

 ジッとゼインの瞳を見つめれば、彼がゆっくり目を閉じて、瞳を金色に変えた。


「何か……」

 小さく呟きながら画面に集中するゼインの金色の瞳を見て、そう言えば何かとんでもないことを忘れているような気がして来る。

 だけど思い出してはならない、そう、いつかゼインが用意してくれるだろう墓地まで持っていかなければならない記憶が……。

「ニールに相談する。画像だから何とも言えないが、私には何も見えない」

「え?あ、ああ…そう」

「そもそも原始の魔力が見えた事はない。これはニールの案件だ」

 ……そりゃそうか。

「おっけ、じゃあニールに頼むことにする」

「そうしろ」


 スッとゼインが立ち上がる。

「え?あ、もう帰るの?」

「は?ニールに頼むんだろうが。下にいる」

「………はい?」

 ゼインの目がスッと細くなる。

「…………どうやら他所(よそ)の男にかまけて、私からの伝達事項はまっっっったく頭に入っていなかったようだな。……この鳥頭、どうしてくれようか」

「あ、知ってる。イケメン無罪!」

「……罪人はお前だ!馬鹿女!」




「あ、ディアナさん、皆さん食堂に集合されてます……って口、どうかなさったんですか?」

 トボトボと口を押さえながら一階の廊下を歩いていると、腹黒の息子が私を迎えに来ていた。

「ああ、ショーン……鳥化の魔法が解けきれなくて……」

 チラッと手元を開いて見せる。

「ええ?……ププッ…ご、ごめんなさい!」

 信じられない事に、弟子から受けた魔法が即時解除できなかった。変身魔法に何か面倒くさい呪文を混ぜたのだろう。

 多分、罰を受けた。

 なぜならば、私は本気で大仕事を頼まれていたのに、全くもってその準備をしていなかったのだ。

 ゼインがわざわざ紙飛行機で手紙を飛ばして来ていたのに、指示された一週間後が今日だということすら忘れていたのである。


 水晶の城の大食堂。

 おそらくロマン・フラメシュと彼の弟子達が宴を開いたであろうこの場所で、今夜は竜の討伐の慰労会が開かれることになっていた。

 準備はヒマ人組が担う手筈だった。

 残業三昧のガーディアン社員とオスロニアのメンバーを抜き、試験を控えた学生を外して上からヒマ順に並べた結果、私、のみ。

 そしてその私が何も準備をしていなかった大食堂に、慰労会に招かれた魔法使い全員が苦笑いして座っていた。

 苦笑いどころでは無い。

 私の顔を見て地震の前触れかというほど震えている。


「……んん、ええと……こういうのを演出っていうのよ。大魔法を披露するための演出」

 とか何とか言いながら、先ほど怖い顔に頭に叩き込めと言われながら見たどこかの国の宮殿を思い浮かべる。

「さあ見なさい!これが大魔女の実力よ!!」

 叫びながら両手を高く上げて思いっきり魔法を使う。

 天井にぶら下がるクリスタルのシャンデリアはそのままに、壁を金箔で貼り替え、天井によく分からない芸術的な絵を描き、テーブルの上に豪華な刺繍が施されたクロスをかける。

「わあっ!」っとどこかしらから上がる歓声を受け、まだまだこんなもんじゃないと、椅子に彫物をし、テーブルの上にダンダンダンッと燭台を置く。

 最後に燭台の蝋燭に薔薇型の炎を灯せば、何とまあなかなかのパーティー仕様の空間ではないか。


 パチパチパチパチ……と鳴り止まない拍手の中、ふふん、こんなもんよ!とばかりに空いていた席に座った。

 いやぁ、魔女でよかった。

 気の迷いで魔女やめるとか言ったけど、魔女でよかった。

「……魔女云々の前に、お前は生物として反省しろ」

 ボソリと呟きながら右隣のゼインが私の魔法を解きながら立ち上がる。

「皆忙しい中よく集まってくれた。本来ならばもう少し早く慰労の場を設けたかったのだが、それには不可欠なものがあると思ってな」

 ゼインの言葉を受け、双子がピュッとどこかへ消えた…かと思えば、布を掛けられた台車を恭しく運んで来た。


「皆の努力の集大成だ」

 ゼインの言葉に、双子がニヤッとして布を引く。

「じゃーん!!すごいだろ!!」

「おまっザハール!ここは二人でジャジャーンってやる約束だろ!?」

 相変わらずな双子が自慢げに掲げたものに、皆の視線が釘付けになる。

 もちろん、私の瞳も。


「竜の卵だ。ギリアムが連れて帰って来た」

 わっと食卓が大喝采に包まれる。

「…ちゃんと還ったのですね……!私、失敗したのかと……あ!」

 カリーナが慌てて口を手で覆う。

「ふふ。むしろこんなに早く見つかる方が珍しい事なのですよ。……皆様の憂いを払うべく、ゼイン様が持てる知識を総動員されたのです」

 トラヴィスの解説に、ゼインが少し照れ臭そうにしている。

 私も少しだけ胸に刺さった棘が抜けた気がする。


「あー……今夜は皆に名付けを頼みたいと思ってな」

 ゼインの言葉にアレクシアが聞き返す。

「竜に名を付けるなど聞いた事がないが」

 アレクシアの言葉にお決まりのリオネルが噛み付く。

「変態魔女は年寄りの割になーーんも知らんのじゃな。当然刷り込みのために決まっておろうが!」

「だ、黙れリオネル……!私に話しかけるでない!!」

 仲が良いのか悪いのか。


「俺はドラコがいい!」

 ザハールは遠慮が無い。

「はー?そんな可愛い感じじゃないだろ。ドラゴネイルとかウミドラシルとかそれ系じゃね?」

「「ディアナはどう思う?」」

「は?」

 突然の双子の問いに間の抜けた声が出る。

「え、何で私?」

 食卓のみんなも興味深そうに私を見る。

「え、だってディアナが竜を説得したんだろ?見たよな、ザハール」

「見た見た!ディアナが暴れ竜をキラキラの本物の竜に変えてた」

「────!!」

 

 双子の言葉に思わず涙腺が緩みそうになる。

 アレをそういう風に捉えているとは思わなかった。

 ……卑怯で、後ろめたい、私の力………。

「ディアナ、彼らもこう言っている事だ。何か案はあるか?」

 ゼインが何となく優しげな顔で私を見る。

 なんか照れ臭い。

「……え、ええー?しょうがないわねぇ!……名付け名付け……」

 赤子の名前なら昔飽きるほど付けてきた。

 ツルツルの卵…海の竜の卵…強くてツルツル……

「うみぼう…」

「という訳でドラコに決定!!よかったよかった!呼びやすいのが一番!さ、乾杯しよ!」

 …ニールよ、ここ一番でなぜ遮った。

 そして皆よ、困った顔で微笑むな。

 

 微妙に納得が行かなかったが、ゼインの乾杯の音頭で賑やかな晩餐が始まった。


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