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有名人

「──トラヴィス!!」


 帰りの時間、迎えに来たトラヴィスに飛びかかった。

「ディアナ様、お仕事お疲れ様でございました。いい香りがしますね。梨はいかがでしたか?」

「梨……あ、ありがと。なんかみんな超喜んで……」

「それは良かった。さすがはゼイン様です」

「ぜ……いん」

 なんか嫌ぁな響きの名前だ。

「ええ。この国では生の果物を手に入れるのは至難の技だとお聞きしまして、僭越ながらホリ様のご出身国の名産を……」

「ホリーーー!!」

 ピシットスーツの襟首を前後左右に振り、トラヴィスの頭をガクガクさせる。

「いいいかがなさささ……」

 スッと腕を取られ、笑顔でいなされる。

「とりあえずお乗り下さい」

「……おけ」


 車に乗った瞬間、運転席の枕みたいなところから顔を出し、トラヴィスに言葉の矢を浴びせる。

「トラヴィス!ホリーダがホリーでね!?包丁が4人で移民だったんだけど、なんか突然男の子になっちゃって!!」

「……ええ」

「タイガって何!?ホリーダはどこに行ったのよ!トラヴィスのお嫁さん候補だったのに!」

「……はい?」

「だってホリーダより強いのってトラヴィスぐらいでしょ!?やっぱり女の子は強い男が好きじゃない!今日だって梨いっぱいの箱を6個も持ってね……って違うのよぉ、トラヴィス〜……」

 

 もう自分が何を言っているのか分からない。

 フラフラと座席に座り込み、サメザメする。

 朝から色々あってサメザメした気持ちになってくる。

「御事情は何となく理解しました」

「ほ、ほんと!?」

 トラヴィスの言葉にピョンッと跳ねる。

「ええ。ディアナ様のお悩みを解決する手段は、ダニールとザハールの双子が持っております」

「…………は?」


 

「あ、お帰りなさい、ディアナさん!」

 仕事が立て込んでいるらしいトラヴィスに60階ではなく城へと運ばれた私を、今度はショーンが待ち構えていた。

「ただいまー……私の天使。浄化される……。ああ汚い大人の魂が浄化される……」

 ここぞとばかりにほっぺたスリスリをしまくる。

「あんたは父親みたいになっちゃダメよぉ。美少女もどきで年齢不詳の変な女に引っかかっちゃ……うぅぅぅぅ」

「わ、わかりました……ので、連絡事項を伝えてもいいですか?」

「ぅぅぅぅぅ……おっけー………」


 なぜか応接に移動しながらショーンの報告とやらを聞く。

「ええと、まずはギリアムさんです。リオネルさんが守り石を完成させるまではお城で過ごされるという事で、ここから直接会社に通われるそうです。というか今日から出勤されました」

「ほほう……」

 なるほど、卵探しだな。どうにかして空から探すとか言っていた。

「次にクラーレットさんなんですけど、体調が悪いという事で急遽ニールさんがオスロニアに送って行かれました」

「ふうむ?」

 ちゃんと言うことを聞いてニールに闇を払ってもらうのだろう。よろしい。

「あとゼインさんなんですけど……」

 ゼ……

「しばらく海外出張に出られました」

「………………あっそ」

 


 応接間には、水晶の城に似つかわしくない大きなテレビが置かれていた。

「……どしたの?これ」

 ショーンがコテンと首を傾げる。

「え……と、トラヴィスさんからネット動画を流す準備を頼まれたんですけど」

「ねっとどうが……」

 ショーンがテレビの前にしゃがみ込む。

「僕思ったんですけど、現代の機械に関しては『具現化魔法』ってすごく難しいですよね。パッと見同じ物が出せても、複雑な内部構造が再現出来なかったら使い物にならないですし」

 何か面白そうな話が始まったので、ショーンの隣にしゃがみ込む。

「ショーンこのテレビどうやって出したの?」

「具現化に挑戦してみようかなって思ったんですけど、設計図が手元に無くて取り寄せ魔法を使いました。昔だと引き込み線の工事で城に穴開けなきゃならないところでしたけど、今はそんな必要も無いですし、ほんとに便利な時代ですよね」

「へぇ……」

 お風呂の水道管みたいなものだろうか。

 

「あ、そう言えばリオネルの宝物コレクションも大量の設計図だわ」

 だいたいロクでもないもの作ってたけど。

「あ、やっぱりそうなんですね。具現化魔法の第一人者って、きっと錬金術師の方だろうなと思ってたんです。〝経験と想像〟の極め方って色々あるんですね」

 キラキラした笑顔から星が飛ぶ。

「ショーン……あんたは運がいいわ。あんたの師匠はショーンがどんな道を選ぼうと、きっと一流に導いてくれる。弟子の証の時計だってリオネルが再現出来ない代物らしいし、詠唱も魔法陣も……」

 この世界を手に入れられる兵器が作れて、原始魔法すら操れる……。

「ゼインさんすごいですよね!カッコいいですよね!ディアナさんもそう思ってるんだ!」

「え」

「そっかぁ、よかった……」

 な、なにが?



「よくないのじゃ!!」

 

 バターンと開いた背後の観音扉を二人で見れば、そこにはプンスカ顔のリオネルがいた。

「ゼインはまだまだじゃ!アヤツには遊び心っちゅーもんが足りん!」

 ショーンとよく似た服を着たリオネルがタタタッと走り寄ってくる。

「師匠、聞いてくれぃ!こないだな、ワシがせっかく設計した飛行機をな、ゼインが作っちゃならんちゅうてな、ワシの試作機……ふいぃぃん」

 リオネルが膝の上で嘘泣きしだした。

「リオネルー、そりゃ無理だって。いくら俺でもダメだって言うよ」

 ダニールの登場である。

「あ、双子くんお帰り。語学学校どうだった?」

「居残りだよ!宿題やれなかったのは俺らのせいじゃないのに!世界平和を何だと思ってんだよ!」

「はは、ザハールくんすっかり目線がこっち側だね」

 

 語学学校組が顔を覗かせ途端に賑やかになった応接で、皆でソファに座ってテレビを囲む。

「ディアナ、ザハールが準備してる間にリオネルが飛行機取り上げられた瞬間見る?」

 ダニールが聞いて来る。

「え、テレビで見れんの?」

「うん、俺が撮った動画飛ばす」

 飛ばす……ふむ。


『な、なにするんじゃ!ワシの水陸両用離着陸型飛行機!!』

 ダニールが自分の電話をピコピコすると、テレビにリオネルが映った。

『そこを問題にしているのでは無い!着陸のたびに一瞬で船になったり車になったりする飛行機を世の中に出せるわけないだろう!技術の進歩には段階があるんだ!!』

『たわけ!そこを超えてこその一流錬金術師じゃ!』

 一体いつの映像なのか、リオネルが両腕を広げたぐらいの大きさの飛行機を抱えてゼインから逃げ回っている。

『あははははは!おいザハール見てみろよ。どっちが勝つと思う?』

『俺ゼインさんに全財産』

『俺もゼインさんに生涯賃金』

『双子!おぬしら覚えておれよ!』


 映像は、リオネルが飛行機を取り上げられ、ゼインがダニールを眼光で気絶させたところで終わった。

 これを竜討伐前にやっていたのだとすれば、楽しそうで何よりである。大した肝の据わりようである。

 そしてこの映像はどこから飛んで来たのだろう。

 

 

「あ、あったあった!ホリ・タイガの伝説の試合!」

 ずっと手元でピコピコしていたザハールが叫んだ。

「えー!トラヴィスさんが言ってた検証映像ってホリ・タイガさんのことだったんですか!?」

 ショーンがびっくりした顔で私を見る。

「……その反応、まさか有名人?」

「「「当然!!」」」

 リオネル以外の三人が叫ぶ。

「ナナハラ出身のホリ・タイガ知らないの!?超有名な格闘家じゃん!ザハールが聞いたら鼻血出して怒り狂うって!」

「へ、へぇ……えっ、ホリーダってナナハラ出身なの?ついでにカクトウカって何」

「ディアナ、マジでありえん。二度とニンジン食えとか言うなよ」

 ザハール、偉そうか。

「ディアナさん、格闘家っていうのは、ええと……あ、昔で言うところの剣闘士みたいなお仕事をされてる方ですよ。ホリ・タイガさんはすごく強い格闘家なんです。ご出身のナナハラはご存知の通り政情不安定で、活動の場を求めてネオ・アーデンに来られたはずです」


 聞けば聞くほど変な感じがして来る。

 誰もが知っているぐらい強い男の性別を間違うなんて事があるだろうか。

「……おっけい、ホリ・タイガについては何となく分かった。ザハール、映像流してちょうだい」

 言えばザハールがブツクサ言いながら電話から何かを飛ばした。


 現れたのは、確かにホリーダだった。

 毛先に少し癖のある黒髪を後ろで一つに束ね、物凄い筋肉に覆われた上半身に、変な丸い手袋を着けて仁王立ちしているのは、間違いなくホリーダ。

 身体的特徴は確かに男だ。

 ボインボインかと思っていたのは、凄まじい胸筋だった。

 


 男たちが激しく殴り合う映像を見て双子がワイワイ騒いでいる中、ポソッと呟いた。

「……ショーン、私のジャージを切ってちょうだい」

「え?」

「上だけでいい。目に魔力を宿したいの」

 いや、目に宿したところで違和感は消えないだろう。

 だって私は昨日魔力がある状態でホリーダに会った。彼女……いや、彼に魔力が無かった事は間違いない。

 トラヴィスみたいな例もあるにはある。

 だけどそのトラヴィスもホリーダを見て何も感じていなかった。

 何よりも、ゼインがホリーダを知っていた。誰もが知っている有名人の経歴に変なところがあれば、真っ先にゼインが目を付けていたはずだ。

 となるとホリーダは人間。

 男の体を持ち、自分の事をちゃんと男だと認識している人間……。


 オロオロしながら私の後ろを行ったり来たりするショーンの手から、リオネルがハサミを奪い取る。

「のほほほほ!変態魔女の頭が噴火する姿が目に浮かぶわい!」

 ジョキジョキ鳴らしながら背中側のジャージを切っている。


 フワッと戻って来た魔力を目に宿し、睨みつけるように見た闘うホリーダの体は、やはりとても薄くではあるが、女のオーラを纏っていた。

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