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葬送魔法

「なんと……それは全ての竜がそうなるのですか?」

 しばらくの沈黙のあと、マカールが声を出した。

 それにリオネルがゆっくりと首を振る。

「いや、さすがに全てというわけではない。竜が持つ魔力が関係するんじゃが、この辺りはひじょーに説明が難しいんじゃ。師匠あたりなら簡潔に話せると思うが……」

 リオネルがチラッと私を見る。

 

 こ、このタイミングで出番ってこと?

 一番めんどくさい魂の魔力の話を簡潔に……いやいやいやいや、それができたら叡智なんか誰にでも授けられるっつーの!

 しかし私はその道のプロ。簡潔……よし。


 ええと……要するに魔に堕ちるってことは元々持ってた魂の色を失ったってことなわけよ。

 色、分かる?ゼインの顔見て。青白いでしょー?でも腹黒いわけ。この場合の色はお腹の方を指す言葉に近いわね!

 んで、卵に還すってことは元の色に戻すってことだから、ええと色を取り戻せるぐらい強い魂の魔力……じゃなくて生命力がね?ほら……

『ディアナ、無声映画を上映するなら字幕も準備しろ。あと……ふざけるな!』

 は?

 飛んで来た思念の方を見れば、ゼインが冷たくて当たると痛そうな視線を飛ばして来る。

 そしてニールとリオネルの肩が小刻みに揺れている。

 ……は?


「…コホッ…あ〜……んん、えっと、それについては僕何となく分かるかも」

 ニールが口元を歪ませながら話し出す。

「ええとね、呪いを解くための聖魔法によく出てくる呪文があるんだよね。聞いたことあるかな?『汝の色を取り戻せ』って」

 おお〜……なんかいい感じに話してくれそうだから任せよう。

「討伐するのは魔に堕ちた竜なんでしょ?つまりは本当の自分の色を見失っちゃったってことだと思うんだよね。卵に還すってことは、本当の色に戻してあげるってことなのかな?」

 ニールがリオネルの方を見る。

「おぬしなかなか頭がええのう。ほとんど正解じゃ。死後に本来の姿を取り戻すには、その竜自身に取り戻せるだけの強い残存魔力がいるっちゅーことじゃな」

「「へぇ〜……」」

 うむ、さすがはニール。素晴らしい通訳だ。私の言いたかったことは皆に伝わった。

 非常に簡潔!まさに大魔女!

 うむうむ頷いていると、ゼインからトドメの思念が届いた。

『あほが……。さっさと沈黙魔法を解け!』

 ……あっっ!!


 

 唇をツンとさせながら何かを考え込んでいたショーンが、ゆっくりと手を挙げる。

「あのう……」

「どうした、ショーン。聞きたい事は何でも聞いておけ。ここには各時代の魔法使いが揃っている」

 ゼインがショーンを促す。

「は、はい。ええと、竜を卵に還すために葬送魔法陣を用いることは理解できました。ですが、その葬送魔法陣の使い方について不思議に思っていた事があって……」

 ショーンの言葉に、マカールと双子以外が首を傾げる。

 つまり、あの三人以外全員は誰かを送る現場に立ち会った経験があるということだ。


「マメ虫、何に引っ掛かっておる。言うてみよ」

 ショーンとすっかり仲良しなアレクシアが顎先でショーンを促す。

「では質問させてもらいます。葬送魔法陣を描くのは一人でも大丈夫ですよね?そして発動する術者も一人で大丈夫……。なのに立ち会ったみんなで陣に触れるのどうしてなんですか?…あ、ええと儀式と言われればそれまでなんですけど……」

 ほ〜う、さすがは天才君である。末恐ろしい観察眼なのである。

 

 どうしてかって?

 まぁさ、色々あんのよ。大人の事情的な……と考えたところで、ゼインからビシビシと刃のような視線が飛んで来た。

『え、マジで?この話しろっての?はあっ!?アーデンブルクどころじゃなくて世界の三大禁忌なんだけど!?』

『やれ』

『!!』


 ちょ、おま……ええい仕方が無い!

 バッと手を挙げる。

 するとなぜか室内中から拍手が起きた。

「待ってましたディアナちゃん!よ、真打ち!!」「大いなる智慧を賜る機会に立ち会えるとは……!」「師匠、カッコよくやれい!」

 ……超やりづらいのだが。


 とりあえずスクッと立ち上がる。

「…ええと、ショーンの疑問はもっともよね。よく気づきましたのA評価!そうね、魔力を大地に還すだけなら一人でも全然問題ないの。でも……」

 言いながらゼインをジッと見る。

 なるほど分かった。本当に私にこの話をさせたいってわけよ。ったく、子どもの前だっつーのに……。


 覚悟を決めてカリーナとマカールの間に座る双子を見る。

「……ふー……。ここにいる皆に古の大魔女ディアナ様からの教えを授けます。今から私が話すことを魔法使いとして肝に命じなさい。特に双子っっ!!」

「「はいっっ!!」」

「……よろしい。魔法には表と裏がある。全ての魔法に表と裏がある。葬送魔法陣はみんなも知っての通り、死者を送る儀式として今日まで発展して来た。……でもね、属性陣をいくつか入れ換えれば、死者を復活させる魔法陣になる」

「「!!」」

 トリオとグラーニン一家が目を見開く。

「ダニール、ザハール……それからみんなに念を押しておく。絶対に使っちゃダメ。これからの人生悲しいことも苦しいこともたくさんある。愛する人との別れも必ずある。…でもね、死者復活は最難度の魔法なの。中途半端にやると……愛する人をドロドロに溶けた化け物にするわよ」

 誰かがヒュッと息を飲んだ。

 …なーんてね、とりあえず双子はこれで大丈夫でしょ。


「というわけで、そういうことよ!」

 バーンと胸を張ると、全員がズルッとずっこけた。

「分かったでしょ?何でみんなで陣を囲むか……」

「……ええと…ディアナ様の尊い御言葉を賜り光栄でしたわ。しかし…いささか下々の者には理解が難しかったかと……」

 アレクシアが困ったように言う。

「えー?じゃああんたやってよ。私全部言ったと思うんだけど」

 アレクシアが一瞬複雑そうな顔をしたが、いつものように居丈高な調子で話し始めた。


「……皆聞くが良い。葬送魔法陣は()()()全知全能の尊き御方が死者復活の祈りの(ことば)を元に作られたのだ。死者復活には対象者がその身に宿していた全ての属性を魂に込めることが必要。…よって、多人数で陣を囲み、なるべく多くの属性を陣に流すのだ」

「あ、なるほど!その流れを汲むから葬送魔法陣もみんなで陣に触れるんですね!」

「その通りだ、マメ虫」

 …言ったでしょ?私言ったわよね?

「ええと、じゃあさっきトラヴィスが言った竜を卵に還す方法も、もしかして死者復活の魔法陣使ったり……?」

「いいえ、ニール様。やはり使用するのは葬送魔法陣なのです。ですが、普通とは異なり多人数の魔力を陣に流す。……私は専門外でしたので、言われた通りにやっていたとしか……」

 なんとなく皆の顔に納得と疑問が入り混じっているのがわかる。



「……あの、ちょっといっすか?」

 ずっと黙ってみんなの話を聞いていたギリアムの声が、静かに空間に響いた。

「ギリアム…どうした?…あまり聞きたく無い話だっただろうか」

 ゼインの顔に少しの焦りが見て取れる。

「いえ、そんな事ないっすよ。勉強になるっす。ついでに俺、今のみんなの話を聞いて、竜の力のことが少し分かったかもしれないっす」

 え。

「ほ、ほんとに!?ギリアムほんと!?」

 皆の驚きを代弁するようにニールがギリアムの体をゆする。

「お、お、え、え、ちょっとニールさん離すっすよ!」

「あ、ご、ごめん!」

「ええと、つまり逆なんすよ。魔力の生み出し方が。みんな知っての通り、魔法使いの魔力は、食べたものとか吸い込んだ空気とか、ええと…外から取り込んだ生命力?を魔力にするっすよね」

 間違いない。ギリアムの言う通りだ。

「……多分、竜は自分の生命力を魔力に変えて、外の世界に放出してるっす。取り込む側じゃなくて、与える側……的な」

 ………マジで?

『ゼイン、聞いた?今の聞いた?これって……』

 思わずゼインに思念を飛ばす。

『聞いた。驚くべき話だ。もしかすると……』

 

「…だから、葬送魔法陣が逆向きに働くんすよ。本当なら死者の魔力の塊を外に外に広げるはずなのに、内に内に魔力が集まる。…姉さんに教わった反転魔法陣みたいすね」

「ギリアム……あんた……」

 なんて優秀なの…!さすが私の孫弟子……!!

「…ゼインさん、あの竜のことで悩んでくれてありがとうございます。でも俺は、トラヴィス達の昔からの伝統に従うべきだと思うっす。これは後世に残すべき大切な事だと思う」

「ギリアム……」

 ゼインがギリアムを見つめる。

「…ここにいるみんなに頼みがあるっす。討伐が成功したあかつきには……魔力を貸してください。あれだけの力を持った竜を卵に還すには、相当な魔力と属性の種類が必要だと思うんす。それこそここにいる全員合わせたぐらいの……」

 言い終わると、ギリアムは静かに頭を下げた。

 

 ゼインはこれをやりたかったのか。

 まさかギリアムが言い出すとは思わなかったんでしょうけど。

 そのゼインをチラッと見れば、感動したのか何なのか、目頭を押さえる仕草をしている。

「よくぞ申した赤ムシ!」

 そして響く、しんみりモードを破る声。

「否やは無い。私の魔力役立てるがよい」

 うっそー…アレクシアが優しい。ギリアム、あんたやるわね。

 皆の様子を見ていたカリーナが、目尻を落として柔らかく微笑む。

「ふふ、ギリアムさん、微力ながらお手伝いさせて頂きますわ。…ね?あなた」

「もちろんです。とは言え、私では微力にもならんでしょうが……」

 


 アレコレ頭の中で思ってはみたが、実は私もこういう空間は初めてだった。

 生まれた時代も、国も、そして身につけた魔法の系統も何もかもバラバラの魔法使いが集まっている。

 集まって、知恵を出し合っている。

 力を寄せ合おうとしている。

 師匠を絶対としたかつての魔法使いとは異なる関係性。

 ……新世代の魔法使いは、尊い。

 

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