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銀色の瞳

「ほれ、仏頂面してないで社長が行くようなバカ高くて小洒落た店にでも連れて行きなさいよ」


 優秀な私の全面サポートのおかげで、予定より一時間も早く仕事を終えたゼイン。

 その御礼にごちそうを振る舞うのはひよっこ魔法使いとして先輩大魔女に対する当然の礼儀である。

 なのにコイツは分かりやすいほど嫌そうに、デスクに座ったまま苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「お前を外で連れ歩いたら犯罪者扱いされる」

「なんでよ」

「どう見てもお前がギリギリ未成年で、私がれっきとした大人の姿だからだ」

 確かにゼインは社長という肩書きのせいなのか、〝いい年したオヤジ〟に見えるぐらいの姿に擬態している。

 

「んじゃあんたが本来の姿に戻りなさいよ。ベイビーみたいな若者姿に!」

「アホか。そしたらどこの店にも入れんだろうが。お前がその気持ち悪い擬態を解け」

 ほう……。

「あんた気づいてたんだ?最初に頬つねられた時バレなかったからシメシメと……」

「魔力が漏れている時点で気づくだろう。それに最初に解除しようとしたのは人型への擬態だ」

 ああ言えばこう言う……生意気!!


「だいたいその体じゃ魔力を抑え切れないのに、なぜその姿にこだわる」

 うるさ。

 グチグチと説教くさいゼインをほったらかして、私は魔力を体に仕舞い込む。

 あーヤダヤダ。私この姿嫌いなのよね。

 せっかくストロベリーブロンドに緑色の瞳の超絶美少女なのにさ。


「そもそもお前は何年生きているの……だ……?」

「なによ」

「……は?」

「…あんた、人の顔見て固まるなんていい度胸してるわねぇ?」

「………………。」

 わーかってるわよ。怖いんでしょ?

 だって自分で見ても超怖いし。

 この姿で何度魔女裁判にかけられたことか……。

 

 空中から鏡を取り出し覗き込む。

 やや黒みがかった銀髪に、ギラっと銀色に光る瞳。子どもを食い殺しそうな大きめの口に赤い唇。

 極め付けは血の気が全く感じられない死体のような顔色!!

 はぁ………。

 どう控え目に言ってもあからさまに魔女が名札つけて歩いてるようなもんじゃない。


「あー!ダメよダメ!こんなの私のイメージじゃない!同じ魔女でもこれじゃあ火炙り系なのよ!根暗魔法使いのゼインならわかるでしょ!?さっきの姿なら魔法少女として絶大に崇められ……ぶほぉっっ!!」

 なぜか突然生意気な魔法使いに変身魔法をかけられる。

「お前が最高レベルのアホだという事はよくわかった。行くぞ」

 こっちを見ようともせずにエスカレーターを下りる男。

 チラッと鏡を覗くと、髪と瞳が焦げ茶色になっている。ご丁寧に服の形まで変えてある。

 ……はは〜ん?こういうシュッとしたのが趣味なわけよ。

 いつかシメる時のネタにしよう。




 小煩いゼインに連れられて来たのは、意外にも小ぢんまりした田舎料理の店だった。

「……社長っていう生き物は、ちまちまと順番に料理が出て来るような店に行くもんだと思ってたわ」

 通された個室のテーブルの対面で、ゼインが大きな溜息をつく。

「……はぁ。ひっきりなしに人が入って来るような場所じゃ落ち着いて話が出来んだろうが」

 なるほど、それもそうか。

「それにここは国でも有数の高級店だ」

「えっ、そうなの?見た感じ普通の料理だけど」

 テーブルの上に載っている料理は、皿の方が綺麗なぐらい地味だ。

「本物の食材だ。お前の事だからこの国でほとんど食事をしていないだろう」

 あらま、そこまでバレてるってわけ。

「私も普段はほとんど何も口にしない。食べたら魔力が減るような、不快感を感じる」

「あー………ね。そうなのよねぇ。大地で育って無い食べ物って私たちの魔力を欲しがるわよねぇ。栄養素的には一緒なんだろうけど」

 とかく、魔法使いには生きにくい世の中である。


「それで?弟子がどうのこうのというのは一体どういう事だ」

 切り出すの早すぎなんだけど。私まだレタス一枚しか食べてないっつの。

 はは〜ん、さてはモテない系根暗魔法使いだな?そのくせ学校一の美少女に恋するタイプね。

 ま、そんな事はどうでもいい。

 ここからは大魔女モードの時間だ。


「あんた、自分で最初に魔法を使えた日のこと覚えてる?」

「最初………」

 眉間に皺を寄せて遠い記憶を辿る素振りを見せるゼイン。

「………指で魔法陣を描いた」

 ポソリと呟かれた言葉に首を傾げる。

「魔法陣……?初学としては悪くないけど、一人で思いついたの?」

 独学の入り口が魔法陣なんて話ほとんど聞かない。

「ああ…いや、他にも数人魔法使いがいた。彼らの見様見真似で手をかざして……」

 

 ……子ども時代は魔法使いが残っている環境で過ごしたってことか。

 ゼインの肉体と魔力の調和具合から言って、おそらくコイツは500年ぐらい生きているそこそこ年季の入った魔法使いだ。

 500年前…アーデンブルクの魔法使い…手をかざした……?


「なんだ?どうした、眉間の皺ヤバくないか?」

「ゼイン!!」

 バンッとテーブルに手をつき立ち上がる。

「あんたと一緒にいた魔法使い、指輪してなかった!?銀色の…少し太めの!」

「は?指輪……?いや、記憶が定かでは無い。何かあるのか?」

 

 何かある…なんてもんじゃない。

 私がずっと探していた、私の弟子たち。探して探して諦めた、銀の指輪をつけた、私の……弟子たち。


 トスっと再び椅子に腰を落とし、両肘をテーブルに乗せ頭を抱える。

「……師匠になる魔法使いは、弟子になる子に自分の魔力を込めた贈り物をするの。有名なのは杖。昔から魔法の発動と相性が良かったから。私は……弟子に指輪を贈った。その子の特性に合わせて(しゅ)を刻んだ指輪を贈ったの」

 そこまで言って、ハッと我に返る。

 しまった。自分語りに陥ってしまった。

「……つまり、自分の魔力を込めた贈り物をすると師弟関係ができる……と」

 よ、よかった。ゼインが頭のいいおバカでよかった。

 

 

 私はまだ全てを受け入れる準備ができてない。

 数百年経った今でも、悪い夢の続きの中にいるのだと、心のどこかで現実から逃げている。

 世界中を旅して、頭のどこかではきちんと理解しているのに。

 私の愚かさが、油断が、そして驕りが、アーデンブルクを滅ぼしたんだって。


 感情の昂りで漏れ出した魔力が、再び私の瞳を銀色に変えていた。

 気づいてはいたが、放っておいた。

 ……熱くて熱くてたまらなかった。

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