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禁書庫

 まぁゼインの台詞はさておき、目下の問題は消えてしまった双子である。

 いや、消えてしまったように見える……だ。


「ダニール、ザハール、ゼインはいなくなったわよ。出てらっしゃい」

 ……返事は無い。ヤレヤレだ。

 グッと声に魔力を乗せ、先ほど空気の震えを感じた場所へと叫ぶ。


「みー〜つけた!!」


 その瞬間パッと現れる驚き顔の双子。

「やっぱり!!あんたたちイタズラ魔法の本読んだでしょ!!」

「「バレたか」」

「バレたか……じゃないわよ!天才大魔女のディアナ様がいなかったらどうなってたか分かってんの!?」

 ビシッと二人に指を突き付ければ、ダニールはシュンとうなだれ、ザハールはキョトンとしている。


「たかだか隠れんぼだろ?子どもの遊びじゃん。それよりさっきの修羅場……」

「や、やめろザハール!!」

 さっきの修羅場はあんたらを見つけるための小芝居に決まってるでしょうが!!

「……名付けて『大人のお色気大作戦』……ってそうじゃなくて、こんの馬鹿双子!!イタズラ魔法の中でも隠れんぼは第一級危険魔法なのよ!?隠れてる途中で眠っちゃって、ミイラになって見つかった子どもがいるんだから!!」

「「!!」」

「ったく……。まさかこの城にもあったとは。油断も隙もありゃしない」

 だいたいあれは世界的に禁書扱いのはずだ。それこそゲイリーに何十年と世界を回らせて……。


「ミイラやばくね?粉薬にされるんだろ?」

「ゾンビ経験あるけどイヤだよ」

 アホな会話を繰り返す双子を静かに見つめる。

「ダニール・グラーニン、ザハール・グラーニン、古の大魔女ディアナ様より質問があります」

 静かに言えば、双子が慌ててピッと気をつけをする。

「あなたがた二人は、この城の禁足地に入りましたね?」

 めちゃめちゃ笑顔で問いかける。

「き……きんそくち?何のこと…?」

「……ダニールよ、いつもより入るのが大変だった場所です」

 笑顔が引き攣って来る。

「あー!あそこじゃね?何かピリピリするとこあったじゃん!」

「………ザハールよ……ピリピリする所に突っ込んで行ったのですか?」

「お、俺は止めました!」

「あ、ダニール裏切り者!!」

 笑顔は消えた。


「…こ…んの……バカタレどもがーーー!!!」

「「ヒイイイイッッッ!!!」」

「よくやった!よくやったわ!!案内しなさいっ!!」

「「………は?」」

 

 よもやの事態に双子を抱き締めて狂喜乱舞する。

 この城はシェラザードの叡智を集めた場所。

 シェラザードは極寒の大地。黒衣の魔女シエラ・ザードが治めた地。

 純粋に魔力だけを比べるならば、弟子のフラメシュの方が遥かに強かったと思う。

 でもシエラは圧倒的な崇拝を集めていた。

 そう、彼女が『春を連れて来る』魔女だったから。

 シエラ・ザードには、ずっと一つの噂があったのだ。

 ……天候を操つるのではないか……と。




「あー……ほんとに怒んないでよ?」

 トボトボと肩を落として歩くダニールと、口笛吹きながら歩くザハールに連れられて来たのは、今度こそまさかまさかの場所だった。

「……図書館」

 ポツリと呟く。

「「うん。図書館」」

 いや、分かってるつーの。そこじゃない。

 誰もが入れる図書館の中に禁足地があるなどと誰が想像するだろうか。

 普通は山とか森とかさぁ……。ああ…あれか、木を隠すなら森…的な。


「ディアナあんまり図書館来ないよね。本嫌い?」

 ザハールがアホ丸出しなことを言う。

「…あんた……私が読んでない本がこの中に何冊あると思ってんのよ」

「え?1000冊以上はあるんじゃないの?まさかここの本ほとんど読んだなんてそんな恐ろしいこと……」

 恐ろしくないわ、ボケナス。

「はぁ……。あんたらには私がどういう風に見えてるか知らないけどね、こういうことよ!」

 両手を広げて大袈裟に呪文を唱える。

「『我が手に来たれ!私がまだ読んでない本!!』」

 その瞬間、ガタガタと図書館中の本棚が音を立てたかと思えば、ヒュンヒュンと本が飛んでくる。

「う、うわ!あぶなっっ!!」

 ダニールが頭を抱えて本を避ける。


「……たったこれだけ?」

 積み上がった本を見て、ザハールが言葉を失う。

「ふーん?想像よりあったわね。どれどれ。『お転婆魔女は王子様と恋をする』『砂漠の王子とボロボロのプリンセス』……多分今後も読まないわ」

「え、ディアナに一番必要じゃない?」

「ダニールあんたねぇ」

 腐るほど読んで来たっつーの。年頃の女の子はそういう物語が大好物だし。

「ほらほら、さっさと案内しなさい。その本はあんたらが読むことね。乙女心の勉強でもしたら?」

「王子だぜ…?」

「女子ってアホなの?」

「じゃあ恋人は諦めるのね」

「「えっっ!!」」

 あー面白い。



 城を移転した時に目ぼしい本は確認した。

 主にここ500年で書かれた書物と、シェラザードでのみ流通した書物。

 だから何となく気づいてた。恐らく禁書庫があるだろうなと。

 この図書館の中には、魔法使いの不文律から逸れた本が無いのだ。

 

「あ、ここここ。この間本棚ひっくり返しちゃってさ。そしたら本が変な形に残ったから妙だと思って」

「なー。すきっ歯だったな」

 どうやったらこの天井まで聳える本棚をひっくり返せる。

 何をしたら…いやもう双子を普通の尺度で測るのはやめよう。ブラックリストを書き換えよう。


 双子に案内されたのは、図書館の最上階から一段下がった階層にある中三階と言える場所。

 部屋の真ん中を最上階までの階段が伸びた、左右に分断された空間の右側だ。

「本当に怒らないでよ?俺ちゃんと言ったからね?」

 ザハールが私に念押しする。

「……誓う」

 ワケが無い。


 突然ザハールが飛び上がり、回し蹴りの構えを取る。

「ば、馬鹿野郎!ひと声かけろ!」

 ダニールが叫んで両手を交差させ防御の姿勢を取る。

 馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、馬鹿なんじゃない。二人揃ってとことん成長が遅いんだ。

 人間の18歳がどんなもんかは知らないが、結婚できる歳って聞いたから、彼らは大分ごゆっくりさんだろう。

 ……カリーナの苦労がしのばれる。


 空中で暴れたかと思えば、床でクルクル回ったり、二人仲良く〝戦いごっこ〟に興じている。…図書館で。

 もう一度言う。図書館で!!

 そろそろ怒鳴りつけようかと思った時、ザハールが空中で回転する。巻き起こる風で本棚がガタガタ鳴る。

 そして今度はダニールが床に手をついて逆回転する。

 二人の起こした風がぶつかった瞬間、バラバラバラと本が天井から降ってきた。


「……ふぅ。やっぱほんとの喧嘩じゃないから時間かかったなー……」

「ザハールお前なぁ、相変わらず馬鹿力いい加減にしろよ。……って〜……腕剥けてんじゃん」

 申し訳ないが双子の会話に構ってはいられない。

「……あんたたち、これが何だかわかる?」

 双子が私の視線の先を見る。

「あ、やっぱり歯抜けだ」

 ザハールの言葉にガクッとする。

「ディアナ、この本の残り方前回と一緒だ。何か意味があるんだな?」

「ダニールはちょーーっとだけお兄ちゃんよね。そうよ、この紋様はあんたたちの体に刻まれてたものと一緒。……フラメシュの封印ね」

 双子が再び本の抜けた後を見る。

「「うん、全くわからん」」

「………残った本を線で繋ぐ」

「フムフム。…あっ!鍵の時の……!」

「…分かって頂けてよかったわ」

「えー!?俺分かんない!!」

 ……ザハールを本格的にどうにかしなきゃならない。


「いいこと?封印は正しく解かなきゃ危険なの。だから不用意に近づいちゃ駄目。今後も封印の紋を見つけたら報告なさい。ぜーーーったいに近づいちゃダメよっっ!!……じゃ、行ってくるわ」

 本棚を潜って壁の向こうへ歩みを進める。

「ちょ、ちょっと待った!!言ってることとやってることが違う!!」

「ふぅ……。ダニール、見て見ぬふりよ、見て見ぬふり」

 ダニールの眼前でチッチッチと指を振る。

「……ディアナがリオネルの育ての親っていうのがよくわかる」

「おだまり。あの子は勝手にああ育ったの」

 


「おっさきー!」

「あっっ!!ザハール待ちなさい!!コラッ!!」

 少し目を離した隙にザハールが本棚へと飛び込む。

「ダニールここにいなさい!緊急時対応!!」

 ビシッと床を指差して命令する。

「わ、分かった!」

「ったく……!」

 ザハールを追いかけて本棚に飛び込む。

 途端に目の前が真っ暗になり、体中を切り裂くような痛みと熱さがほとばしる。

 …ピリピリ?ピリピリ!?なんて双子なの!!

 身体を内側から食い破るような激痛。

 体内の魔力を総動員し、呪いを跳ね返す。

「ふんっだ!この程度でディアナ様を呪おうなんざ、1000年早いんだっつーの!!」


 ようやく見えた光の眩さに目をしかめれば、そこにはザハールの間抜け面があった。

「げ、服ボロボロじゃん。セクシーディアナに路線変更?」

「馬鹿言ってんじゃないわよ。私は普段からセクシーだっつーの」

「ふーん。じゃあセクシーだけど色気がないってことか」

「……………………。」

 

 とりあえずザハールにはスペル書取り100枚の課題を出すことに決め、ぐるりと周囲を見渡す。

「……フラメシュもなかなか性格に難アリね」

 目の前に広がるのは宙に浮かんだ本。

 夥しいほどの結界が張られ、そのどれもが強い呪力を帯びている。入って来る時とは比べ物にならないほどの禍々しい力だ。

 ……おそらく、大魔女でもただじゃ済まない。


「……ディアナ、俺たちが読んだ本は勝手に手元にやって来たんだ。他のはちょっと嫌な感じがして……」

 ザハールが言うことはおそらく正しいだろう。

 フラメシュは、禁書庫に入れた後継者をそれなりの魔法使いだと想定していたはずだ。

 だから禁書とは言えかつて流通本であったあの本は〝許した〟。

 つまり、今浮いている本は〝許さない〟ということ。


 でも残念ね、フラメシュ。

 魔女は貪欲なの。

 手に入れるのが難しければ難しいほど……

「絶対欲しい!絶対手に入れる!ザハール、退路を確保してそこで見学!!」

 シェラザードの本物の叡智……頂こうじゃないの!!

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