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空間魔法

「……なぜ私のギリアムが呪われた(はらわた)の中で眠っているのだ」

「……世の中には謎に満ちた事がたくさんあるのよ。そしてそれこそが魔法の醍醐味」

「不吉すぎる」

 やかましい。

 私だってアレ?って思ってるんだから。


 

 ショーンと一緒にギリアムの看病をしながら美しい色彩について教わっていると、ブブブとショーンの時計が鳴った。

 外部からは一切魔力が感じられないから迎えに来いと、相変わらず偉そうなゼインからだった。

 というか何故連絡が取れる。

 その時計、本気で調べさせて欲しい。


「それで?ここはどんな空間なんだ」

 ゼインがキョロキョロしながら内臓部屋を見回す。

「ゼインさん、凄いんですよ!ちょっとここに立って扉開けてみて下さい!」

 ショーンが内蔵部屋に取り付けた二つ目の扉の前でゼインを呼ぶ。

「……吐瀉物みたいな色の扉だな」

 ゼインが余計なことを言いながらドアノブを回転させて扉を開ける。

 

 その瞬間。

『シャーーーッッッ!!』

『ギャオッ!ギャーーッッ!!』

 目の前をニ匹の竜の翼がゼインの頬を掠めていく。

「!!」

 ゼインが目を見開き、眼前の光景に言葉を失っている。

「ゼインさん、ナナとハラですよ!元の大きさに戻したんです。それと見て下さいよ、あの模型。本物のアラタカ山の大きさです!」

 ゼインの隣に立って興奮気味にショーンが叫ぶ。

「なんと……ナナとハラはあんなに大きかったのか」

「いえ、前より大きくなってます!凄いですよねー!どうなってるんですかね、この空間!」

「そうだな……」

 

 ふふふふふ……フフフフフ……。

 やる時はやるのよ、私だって。

 さぁ崇めたてまつるが良い。

 献上の品を持って一列に並ぶが……


「餌の確保が大変だな。飼うには適さん」

「あ、そう言えばそうですよね。虫を拡大するのは勘弁願いたいところですし」

「マカールに頼んでみるか」

「家畜用の餌の新規開発ですか?」

「愛玩動物用の方が利益率がいいだろう」

 

 ……この情緒欠落親子め。



 何となく両頬を膨らませて腕を組んでいると、ゼインがクルッと振り返る。

「ディアナ、ここが例のクラーレットの秘密……とやらで出て来た空間だな。正確にはどんな空間なのだ」

「知らない」

「……は?」

 ゼインが眉根を寄せる。

「説明できないの。多分あんたやショーンの方がちゃんと理論立てて説明できるんじゃない?」

「どういうことですか?」

 ショーンも振り向いてコテンと首を傾げる。

「うーーん、多分だけど、空間魔法と時間魔法が関係するんだとは思うのよね。でも手を出すにはちょっとばかり危険でね、研究が手付かずだったの」


 パチンと指を鳴らし自分の魔法鞄を取り寄せる。

「むかーしね、隠れんぼしてた子どもが鞄の中で迷子になっちゃったのよ」

「鞄で……?」

 ゼインが呟く。

「そう。基本的な魔法鞄は基礎クラスの生徒の長期休暇中の宿題だったんだけど」

 ショーンが頷く。

「…だーけーど、それはあくまでも学校生活を快適に過ごすためのおもちゃみたいな道具に過ぎなかったの。あの頃魔法学校の子どもたちが何冊の本と何枚の紙を持ち運んでたか想像してみてよ」

 二人が顎に手を当てて考えている。

「……宿題が最低1000枚だとして……」

「……今の時代だと虐待どころの話じゃないですね」

「そーゆー想像じゃないっつーの!!…まあとにかく、分別がつくようになるまでは本物の『魔法鞄』は持たせられない代物だったってことよ」


 二人の目の前に魔法鞄を浮かせてみせる。

 そして指先を鳴らし、パカッと鞄を開く。

「このトランク型の魔法鞄は元々はアレクシアが作ったんだけどね、中は私が作り変えたの」

「「え?」」

 二人が同時に声を出し、そして同時に空っぽの鞄を覗き込んだ。

「基礎クラス……つまりは魔法使いとしての一年生だった時に作ったみんなの鞄をね、空間魔法を施した()()()魔法鞄に作り変えて渡してたの。……卒業の記念に」

 言いながらチラッとゼインの顔を見る。

「……子ども時代に作った鞄など、持ち歩きたくないだろう」

 ……ああ、そうだ。コイツはこういうヤツだった。

 気にして損した。


「素敵な伝統ですね……」

 ショーンが感嘆の声を上げる。

「でしょでしょ!?あんたはそう思う!?」

「ええ。初心を忘れるなという戒めにもなって、卒業に相応しい贈り物だと思います」

 素敵な微笑みを見せるショーンに、心の中で情緒欠落などと言ったことを謝る。

「……ありがとね。なんだけど、私も考えが浅かったというか、親の鞄で遊んでた子が中で行方不明になっちゃって………」

 ゼインが眉を顰める。

「信じられん事をしでかす子どもがいるな」

「いやいや、ショーンみたいな子どもが特別なんだって。あの時は本当に肝が冷えたわよ。学校の教師総出で探したの。全員の体を紐で繋げて手探りで……」

 あの時はあわや魔法学校閉鎖の危機だった。


 ゼインが胸ポケットから名刺を取り出す。

 そしてそれを鈍く光る金属製に変化させると、鞄の中にそっと落とした。

「……反響音無し、まあ当然か。しかし面白いな。ディアナ、空間魔法自体は古くから存在するな。結界魔法や建築魔法などには頻出するはずだ。だとすればこの空間についてもある程度の発生条件は判明していたと思う。研究が手付かずだったと言っていたが、現にお前はこうして使っているだろう。いかにして制御下に置くのかという問題のような気もするのだが」

 ……めっちゃ喋る。

 目を爛々とさせ、めっちゃ喋る。


「……あんたこういう話好きよね。とりあえず魔法学校では便宜的に『狭間の空間』って呼んでたわね」

「狭間……」

「そう。〝成功〟と〝失敗〟の狭間ってこと。実は使い方のヒントが見つかったのは封印魔法を失敗した時だったのよね」

「封印魔法?」

「そう。身近な例だとフラメシュの城がどこから出て来たのかって話」

「……なるほど」


 呟いたゼインが再び二匹の竜が飛び交う様子をジッと見たあと、私の方を振り返る。

「……前々から疑問に思っていたのだが、もしかしてお前の私物はどこかの『狭間の空間』に……?」

「あ、分かっちゃう?そうねぇ……見たい?」

「見たい」

「見たいです」

 ゼインの返事にショーンも即座に続ける。

「あ、そう?んじゃまぁ……」


「……俺も行きたいっす」

 ベッドからギリアムの声がする。

「ギリアム!体は大丈夫か!?」

 ゼインがベッドに飛んで行く。

 私とショーンもその後を追う。

「心配かけてすんません。でもかなり楽になったっす。俺……魔力との相性が良くないみたいで……」

 ギリアムが体を起こし、手の平を閉じたり開いたりして自分の魔力を確かめる。

「気にするな。お前の力は必ず解明する。…魔力を用いなくても、お前は立派な魔法使いだ」

 ゼインの言葉にギリアムが微笑む。

「そうよ、ギリアム。あんたは貴重な存在だわ。魔力が無くても魔法が使える。それって魔法界を揺るがす新発見なんだから!」

「はは…。姉さんって時々学者みたいっすよね。あ、学者なのか」

「……だー〜れもそう思ってくれないんだけどね」

「……普段がああですからね」

 ショーン、さっき謝ったの取り消すからな。


 ギリアムの顔色をジッと見る。

 確かに魔封じ結界の中では楽なのだろう。血色がいい。

「……気は進まないんだけど、シェラザード方式で行くしかないわね。ゼイン、ギリアムに魔封じ描いてあげて」

「……そうだな。ギリアム、体調に変化があったらすぐに言え。肉体と魔力の関係は謎が多い」

「了解っす」

 ゼインがギリアムの心臓あたりに陣を描く。

 二度目の光景だが、今回はかなり切ない気持ちになる。

 もしかすると、これを最後にギリアムの中から魔力が消えてしまうかもしれないからだ。



「それじゃあ私の秘密の空間にご案内しましょうかね。……あんたたちになら見せてもいいわ」

 それでも変わらない。

 例え魔力が無くなったとしても、ギリアムは私の可愛い孫弟子なんだから。

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