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大人になるまで

「とまぁ冗談はさておき、あんたには魔法使いの一生ってもんを教えとく」

「一生……」


 本当ならば育ての親であるゼインがやるべき話ではあるが、アイツにとって初めて出会った魔法使いの子どもがショーンであったのならば、相当に判断が難しかっただろう。

 ……この子は、特殊例だ。

 いくら魔法使いの時の流れが人間とは違っていても、こんなに長く子ども時代を過ごす子は滅多にいない。


「魔法使いはオギャーと生まれた瞬間に、一生のうちに獲得できる魔力量が決まる。遺伝的なものもあるだろうけど、ほとんどは運」

「運…ですか?」

「そう、運。人間の両親から途方もない魔力を持った子が生まれる事もあるし、エリート魔法使いの両親からほとんど魔力の無い子が生まれたりする」

「えっ!?」

「そうなのよ。けれど共通してるのは、生まれ持った魔力が最大化される時が……成人なのよね。大人になるの、その瞬間に」

「大人に………え、ちょっと待ってください。その話だと、僕って……」

「あんたの魔力はまだまだ増える。だから少年だって言ってんの」


 ショーンの驚愕する顔はなかなか面白かった。

 だがどんな顔してても可愛いという天然美少年っぷりを見せつけられると、自称永遠の美少女の立つ瀬は無い。

 

「大人になるまで…つまり魔法使いの子どもはねぇ、とにかく怪物みたいなもんよ。不安定な魔力に足りない頭。暴発、大事故当たり前。揺らぐ魔力の制御方法を学ぶため、師匠の元に弟子入りする」

「弟子入り…ですか?」

「そう。修行内容は師匠次第。という訳でやるわよ!」

 パチリと片目をつぶってショーンの肩をポンッと叩く。

「はっ?えっ?」

「あんたはゼインの弟子なんだから、さわり部分だけね」

「ええっ!?僕ってゼインさんの弟子なんですか!?」

「そりゃそうよ。ゼイン印のお揃いの時計つけてんじゃないの。あ、それ外してね」

「お揃い……?いやこれ、仕事道具……」


 ごちゃごちゃ何かを呟くショーンを無視して、私は空中からマッチ箱を取り出す。

「ほれ、火つけてみ」

 そう言ってショーンに箱をポンッと投げると、彼は手の平の上に小箱を乗せたまま固まっている。

「ディアナさん、これ…何ですか?」

「……なんですか?はぁっ!?あんたマッチ知らないの!?」

「マッチ……?変な形ですね。何か変わった匂いします」

 な、な、なんてことだ……!マッチを知らない?

 ゴソゴソと箱をひっくり返したり中身を確認するショーンに度肝を抜かれる。

 火打ち石など出さなくてよかった。

 …いや良くないわ!!


「ショーン!私の修行はこれが出来ないと始まらないのよ!こうやってこう擦って、お願いだから火をつけて!!」

「ええ?何でそんな必死に……あ、折れた。え!難しい!」

 これは………居残りじゃなくて合宿が必要かも………と白目状態でショーンを見守る事15分、彼は優秀だった。助かった。


「ディアナさん!は、早く次お願いします!持ち手がどんどん短くなります!怖いんですけど!!」

 あー…もう現代っ子怖いわ。

「…ショーン、そのマッチで生まれた火で、集めた中で一番太い枝に火をつけて」

「ええ!?…あっつ!!」

 マッチを取り落とすショーン。

「ご、ごめんなさい!」

「謝らなくていいわよ。さ、頑張ってね。じゃないとご飯食べられないわよ?」

「え?」

 ニコッと笑って言い放つと、私は地面にクッションを出して寝転がる。

「さあやってみよう!」

「………はい」

 うむ、素直でよろしい。


 寝転がりながら、四苦八苦して枝に火をつけようとするショーンを見守る。

 そうなのよねぇ、いきなり枝には火はつかないもんなのよ。あ、気づいた?そうそう枯葉からね。さ、次はどうする?

 時折チラッとショーンが私を見る。

 そのたびに私は一つ頷いて、『好きにおやり』と無言で返す。

 それから2、3時間は経っただろうか。

 諦めるかなーと思っていたショーンは、以外にも根性があった。

 枝と枝を重ねたり、枝から枝へと火を渡したり、なかなか工夫を凝らす姿には正直に感心した。


「ディアナさん、どうしてもこの最後の枝に火がつきません。何かが足りない気がします……」

 とっくに辺りは日が暮れて、ネオ・アーデンではお目にかかれない暗闇が世界を支配しだした頃、ショーンが悔しそうにこぼした。

「ほー!」

「端末に入ってる魔法を思い出していたんですけど、そう言えば火属性魔法はたくさんあるのに、火そのものを出す魔法って無いなって思って…。1番小さな火球だって、純粋な火魔法じゃないですよね?僕が火だと思ってるものは、もしかしたら火じゃないのかも……」

 あらま、この子も秀才だったか。


「…オッケー、ショーン。枝の前に座ってごらんなさい」

 こくりと頷き、集めた中で一番太い…彼の二の腕ほどもある枝の前で胡座をかくショーン。

 私はショーンの背中に回ると、後ろから彼の両手を取った。

「ディ、ディアナさん!?」

「ほれ黙って集中する!少し魔力貸すから、手の平温めてごらんなさい」

「あたため……あっつ!熱いんですけど!!」

「はいはい。その熱さをどんどん指先に送るのよ。…そうそう、ゆっくりでいい」

 実際のところ、私が送った魔力なんてたかが知れている。ショーンに流れる魔力は、かつての魔法使い達と何ら遜色ないのだ。

 むしろ回復力は相当高い。


「指先に集まった熱を、ゆっくり枝に移して」

「枝に……」

 ショーンが左人差し指で太い枝の真ん中に触れる。

 ジジッという音とともに僅かに煙が上がる。

「体中の熱を少しずつ集めて…そうそう、ゆっくり、ゆっくり……」


 額に汗を滲ませながらショーンがゆっくり枝へと熱を送り続けてしばらく、枝に赤い光が走る。

「ショーン、見えた?赤い光が。わかる?この熱が」

 ジクジクと傷口を侵食するような赤い光。

「〝火〟が生まれたのよ」


 ショーンが私の方をバッと振り返る。

「さあ、あんたの魔力で火を炎に変えるわよ!」

 ショーンの背中から隣に移動し、彼の背中に手を当てる。

 ショーンはもう何をすればいいのかわかっていた。

 手の平を大きく広げ、枝全体を温めにかかる。

 彼の手の平から降り注ぐ熱。

 …ショーンの魔力。


 それが枝全体を十分に熱した時、小さな小さな赤い光が稲妻のように走り、刹那、メラメラと燃える炎が生まれた。

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