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ディアナの過去②

「……へ?喧嘩無敗、国士無双的なアレじゃないの…?」

「ニールさん、懲りないっすね」

「そうですよ!ディアナさんの細腕でどうやって喧嘩するんですか!口喧嘩ならまだしも!」

「…おぬしら、出会ったのがすっかり丸くなった師匠でよかったの」


 優れた指導者だったのだろうとは思っていた。

 ディアナが著した魔法書と解説集は、水晶の城の図書館に残されたどんな書物より明快で、まさに後進の育成の為に書かれたと言うのに相応しいものだからだ。

 だが、魔法学の祖……?


「リオネル、ディアナは魔法陣の生みの親…という事か?」

 私の質問に、その場にいた全員がバッとリオネルを見る。

「それはちと違うのう。魔法陣に似たものは遥か古代から存在したんじゃ。でもな、おぬしらが今簡単に口にする呪文を〝属性〟ごとに分類していくつかの体系を作ったのが師匠なんじゃ。明確に分類されたものを新たに組み合わせて、新しい魔法がどんどん生まれるようになった。目で見ながら試行錯誤できる魔法陣は、ワシらみたいな魔力の少ない者でも扱える。魔法陣の発展は師匠のおかげとも言えるかのう……」


 一同沈黙していたが、私たち4人の思念はすごい勢いで飛び交っていた。

『ディアナちゃんなんであんなにアホの子みたいになっちゃったの?』『寝過ぎたんじゃないすかね』『……生まれ変わったんですよ』『同一人物の話とは思えんな…』


「おぬしらが何考えとるか手に取るように分かるの。ともかく!ここからはベネディクトの話に繋がるんじゃ!よく聞けいっ!」

 全員でハッとし、何となく姿勢を正す。

「師匠はな、それまでの魔法使いの秩序をすっかり書き換えてしもうたんじゃ。秩序じゃ。分かるか?…んじゃニール」

「えっっ!?秩序?秩序……」

「簡単な話じゃろ。おぬしはゼインに喧嘩を売るか?」

「……売らないね」

「じゃあギリアムにはどうじゃ」

「ギリアム……微妙かも」

「ショーンは?」 

「あー……長期戦は避ける…かな」

「そういう事じゃ。魔法使いが相手の魔力を見極めるのは本能じゃ。魔力が強い者が強い世界、これが魔法使いの秩序じゃった」

 皆がリオネルの言葉にただ静かに頷いた。

「最後の質問じゃ。ニール、ワシと喧嘩したら勝てそうか?」

「……………。」

 ニールは答えなかった。

 恐らくは誰も答えられないだろう。

 魔法陣の発展は、魔法使いから明確な序列を消した。それこそディアナがよく言う、『経験と想像』こそがものを言う世界へと変化したのだ。


「…とまあ、これが師匠の名を世界に広めたきっかけなんじゃがな、本当は次じゃ!!華々しい世界デビューは次なんじゃ!!」

「…なんか、ここからろくでもない話になりそうっすね」

 ギリアムの呟きを拾い、ショーンが黙って皆にコーヒーを振る舞う。

 …どうやら長丁場を覚悟したようだ。

「師匠はその界隈ではそりゃ有名になっての、次から次に弟子入り希望が来るようになったんじゃ。での、あまりの人数じゃから選別せにゃならんじゃろ?ワシなんてラッキー弟子入りじゃから知らんかったがそりゃ厳しい入門試験をくぐり抜けてうんぬんかんぬん……」


 なるほど、この辺りからは何となく想像の範囲内だな。

 ここからアーデンブルクの栄華が始まるわけ……

「で、それが気に入らんかったのか、ある日マサカンドの魔法兵団が師匠を攻め滅ぼしに来たんじゃ」

 ……は?

「多分1000人ぐらい」

「ブッ!!ゴホッゴホ!1000人!?ディアナちゃん1000人に狙われちゃったの!?」

「狙われたなんてもんじゃない。奇襲じゃ。あの頃は確か木の家に住んどった。玄関開けたら火の海での。どっひゃーって初めて言うたわい」

 どっひゃー……


「なになに、ディアナとリオネルも昔戦争してたの?」

「シェラザードみたいな国があったってこと?」

 まだ何かしらを食べている双子が話に入って来る。

「違うわい!ワシらは狭い島で大人しく暮らしとったわ。マサカンドっちゅー国があって……」

「リオネルさん、姉さんはどうなったんすか?まさか捕虜になったり……」

「捕虜…!ディアナさん大丈夫だったんですか!?」

 ……落ち着けショーン。大丈夫だったから今ダラダラ生きてるんだろう。

「おお、瞬殺じゃ」

「「「瞬殺………」」」

 私とショーンの声が重なる。

「…姉さん、1000人斬り………」

「はいはいギリアム自重してね。本物のお子さまがいるから。あとゼインが怖いから」

「「はー?俺ら成人してるし」」

「何の話だ」

「な、何でもない!とりあえずマサカンドの魔法兵団は一瞬で壊滅って事でオッケー?」

「そうじゃ。師匠はのう、戦っても強かったんじゃ。ふっつーに、超、強かったんじゃ」


 まぁ……その後のアーデンブルクの発展を思えばそうなんだろう。

 ディアナの全盛期がいつかは知らないが、あの魔女の魔法は今だって信じられないないぐらいに強い。呪文の使い方も巧みだし、何より…卑怯。

「リオネル、ディアナが有名になった理由はよく分かった。1000人の屈強な兵士を壊滅させたことも嘘では無いと思う。だが今の話のどこにベネディクトが出て来たのだ」

 リオネルが首を傾げる。

「あれ、ワシ言わんかったかの?マサカンドの魔法兵団を率いて来た兵団長が、ベネディクト・サーマンじゃ」


 ……………マサカンドの兵団長。

「はあっ!?」「どゆこと!?」「敵だったってことすか?」「一番弟子ですよね!?」「「ベネディクトだっせー」」

 意味が分からん。

 島を焼き払った人物がなぜ弟子入りを……。


「……芽生えたんじゃよ」


 芽生えた……?


「……ラブが」


 ……………ああ?

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