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捕獲

「ほらほらあんた達、もたもたしてたら日が暮れるわよ!もっとガーッと近づいて、バーッとやんなさい!」


 私は3人と2匹を空から見下ろしている。

 風吹き荒ぶ乾いた砂地の右方向には、グルルルル…と苦しそうだが威嚇をやめない2匹の竜。

 左方向にはジリジリ……ジリジリと、蟻が進むより遅々とした歩みで一向に竜との距離を縮めようとしないニールとショーン。

「だって…だってディアナさん!彼らメチャメチャこっち睨んでますよ!正直言って怖いんですけど!」

「ショーン、動けない相手を怖がってどうすんのよ。この子らにはアレよ、アレ、ええと4…Gかかってんでしょ?流行ってんでしょ?4G」

「…種類違うGだし、4Gとか古いから」

「そうなの?ニールは物知りね……って、さっさとやらんかいっ!!」


 3人が空中で展開した重力魔法陣は、ゆっくりと下降しながら羽ばたいた竜を地面に押し戻し、彼らの動きをその場に縫い留めた。


『空飛ぶ生き物にとっては自分の体重こそが最大の敵!』


 という話をあの日60階フロアでしたところ、3人が作戦に選んだのがこの魔法陣だった。

 私はこの魔法陣はよく逆さにして使った。しかもほとんどは悪戯に、だ。

 古代魔法使いが眠る墓石を動かしてミイラを起こしたり、ズラリと並ぶでかい顔の岩を一つだけ違う方向に動かしたりした。

 こんなに実用的な魔法だったとは、選択した彼らに正直に感心である。

 ついでにトリオは魔法を使う技術に関しては子どもに毛が生えたレベルだが、理論はかなりみっちりと学んでいる事が分かった。

 ……どこかの誰かさんの影響だろう。

 

「ディアナさん、教わった通りに作ったんすけど、やっぱもう一回確認してもらっていっすか?」

 地上からギリアムが呼びかけてくる。

「ああ……あんたも顔に似合わず細かいわよね」

「…相手竜なんで」

「どっかの誰かさんのねちこそうな性格が透けて見えるわね!」


 私たちの目的は竜の捕獲、保護。だが彼らの棲み家なんて簡単には用意出来ない。

 だからガーディアン・ビルの模型を作ったギリアムに、このアラタカ山の模型を作らせた。

 この模型の台座部分に箱庭の魔法陣を仕込ませて、それはそれは見事なミニチュアができたのだ。

「……完璧。ギリアム完璧よ、あんた凄いわ。私にこの模型製作の才能があったなら、街一つ消さずに済んだのに……」

「は?」

「んーん……こっちの話よ。はぁ…素敵………」

 素晴らしい完成度の模型にうっとりしているが、肝心の竜がいつまで経っても配置されない。


「…あんた達いつまでグズグズしてんのよ!竜を無闇に苦しめるんじゃないの!!ショーン!雄、10秒以内!ニール!雌、2秒以内!!」

「は、はいっっ!!」

「ディアナちゃん…僕に厳しくない?」

 ようやく覚悟を決めた2人が、おずおずと2匹の竜を足止めしている重力魔法陣のギリギリまで近寄った。

 ここから私は手は出さない。

 修行の仕上げは自分達でやらなきゃね。


 相変わらずキエエエとかグルルルルとか威嚇の声は止まないが、ショーンとニールの魔法が効き出したあとは、その声もピェェやキュルルルに変わった。

「ディ、ディアナさん!!できました!できましたー!!」

 縮小魔法が成功して魔法陣の前でピョンピョン跳ねるショーン。

「おめでとう、ショーン。見事じゃない。ニールもさすがね」

「まぁね。初めてにしてはよく出来たかな?」

 私が褒めれば、2人とも嬉しそうにする。

 可愛らしいことだ。


「さ、ここからが仕上げよ。ギリアムもいい?用が済んだ魔法陣は必ず滅失すること。これは上手に魔法が使えるよりも大事なことよ。この重力魔法陣を消し忘れてしまったら将来どんな事が起こる?」

 少し考えてからギリアムが口を開く。

「…まぁ、普通に考えて生き物が足を踏み入れたら、干からびるまでそのままっすね」

「………そのとーーーり!!これが詠唱魔法と陣魔法の大きな違い。魔法陣は消さない限り消えないの。だから防壁に施せば町を守れるし、武器に施せば属性付与できる。わかった?それじゃあ全員自分の出した陣を消して来る!」

「オッケー!」「ういっす!」「はいっっ!」

 相変わらずバラバラだが、心なしか弾んだ声で3人が陣を消しにかかる。

 手描きでは無いため、実は消すのに相当魔力を消費することは彼らには秘密だ。

 ついでに魔法陣もほっとけば風や雨で消えるのだがそれも秘密だ。

 なんってったって修行に来ているのだから。


 3人がゴソゴソと魔法陣を消している間に、私は取り寄せ魔法で2匹の竜を手の平におさめ、ギリアムの作ったミニチュアアラタカ山へと置いた。

 


 ミニ竜2匹と、くたびれて爆睡する3人を乗せて、ピンクのオープンカーは空を行く。

 このままネオ・アーデンに転移してもよかったが、帰ればまた彼らは休む間もなく仕事に追われるのだろう。

 私は車に隠蔽魔法をかけ、最後にもう一度竜の巣穴を眺めたあとで、眼下に荒れた大地の広がるナナハラ国上空を、ゆっくり、ゆっくり静かに飛んだ。

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