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若返り

「師匠!何をグズグズしとったんじゃ!ワシがゲンコツされるためにどれだけ待ったと思うとる!」


 大広間から移動した皆の魔力が集まっていた食堂へと行って早々、リオネルがピョンと飛んで来た。

 ……元祖生意気な弟子が無事に戻って来たようである。

「まあフラメシュの城が広過ぎて、探してまで謝るのも面倒じゃったんじゃが……」

 そして後ろのゼインにじっとりとした視線を送る。

「……まさか一番手のワシを差し置いて二番手のゼインと内緒話を……」

 一番手……?魔法勝負かなんかしたのだろうか。

「内緒話なんかするわけないでしょ。なんていうか、心のアルバム……的なものをめくりながら教育的指導をねぇ…」

「アルバムぅ?師匠にそんなセピア色の感情があるわけなかろう」

「…………………。」

 ようやくゼインに競い合うライバルが見つかったことだけは確かだ。


「それよりあんた、髪切ったの?」

 食堂に入ってすぐに目についたのだが、クシャクシャの長髪だったリオネルが、やたらと小ざっぱりしている。

 大きな目が非常に目立つ。

「そうなんじゃ。そこのニールがショリショリ〜とな、それはもう器用に切ってくれたんじゃ」

 リオネルの指の先に目をやれば、ゼインが合流したテーブルからニールがヒラヒラとこちらに手を振る。

「へぇ……?よく似合ってるじゃない。可愛い可愛い」

 ヨシヨシとリオネルの頭を撫でると、パッと嬉しそうな顔をする。

「可愛い?ワシ可愛い?ショーンとどっちが可愛い?」

「うっ……」

 まさかリオネルに美醜という概念が存在したとは……。

「リオ……ショーン………」

「!!」

 これについてだけは嘘はつけない。



「ディアナ、こっちに来い。報告がある」

 いじけて水晶の床を掘り出した面倒くさいリオネルの首根っこを掴んでいると、後ろから偉そうなゼインが私を呼ぶ。

「はー!?報告なら書面でお願い!私今忙しいの!」

 ゼインの方を振り返ることもせず、リオネルが超速で描く魔法陣を、こちらも超速で消しながら応えれば、今度はしずーかでひくーい声がする。

「……そこのモグラに関することだ。ネオ・アーデンでの身分証がいるだろう」

 ………なるほど。

「リオネル、行くわよ!」

 リオネルを巾着に閉じ込めて、オスロニアで羽だけロボットにやられた要領で彼を運ぶ。 

「ひ…ひきょうもの…!何じゃこの、かったいのに柔らかい布は……!」

 それはもちろん、ゼインからパクった謎布に決まっている。

 



「ったくあんた封印されてた割には元気良すぎなのよ。だいたい性格変わってない?」

 やれやれと首をコキコキ鳴らしながらゼインとトリオの待つテーブルへと着く。

「そう、そこだ。ニールからお前に報告がある」

 ゼインの言葉に頷く。

「おっけ、ちょっと待って…ね、と」

 リオネルの顔だけを謎布製巾着袋から出し、天井から吊るす。

「師匠の鬼婆!」

 ほほう……?どうやら性格の変化だけではなく、無駄な度胸もついたらしい。

「……リオネル・ブラーエ、もう一度」

 リオネルに向けてニッコリと微笑む。

「……偉大な大魔女様」

「……よろしい」

 

 私たちのやり取りをポカンとしながら見ていたトリオの前に着席する。

「悪かったわね、みんな。見苦しいもの見せちゃって」

「あー…いや、何か想像通りで妙に安心したっす」

「で、ですね!僕たちもこれまで通りで良さそうだなー…って」

「何が?」

「あ、いえいえ、何でも無いです!」

「平常運転っす」

 変な二人である。


「あー…じゃあ僕からの報告始めるね」

 ニールが口を開く。

「あのね、リオネルさんの髪の毛を調べさせてもらったんだけど、彼……人間でいうところの17、8歳ぐらいまで若返ってるんだよ」

 …………じゅうなな………?

「はあぁぁぁっっ!?てぃーんえいじゃー!?この自他共に認める老人が!?」

「そ、そうなんだよね。ショーンの魔法がことの他よく効いてたみたいで……」

 ショーンが申し訳なさそうに肩をすくめる。

「じゅうなな……じゅうはち……」

「そこでなんだけど……」

 

 バタンッとテーブルに手をつき立ち上がる。

「……ずるいっっ!!リオネルだけずるいじゃない!!この子今いくつ…私がまだ本当にピチピチの時…ええとええと……とにかくずーるーいー!!」

 ダンダン地団駄踏めば、ゼインから小石が飛んで来る。

「お前はアホか!大事なのはそこでは無いだろう!」

「だって双子と同世代って!」

 ……双子と同世代……?

「気づいたようだな。3人がリオネルと会話した結果、彼は記憶を保持したまま肉体だけが若返っている。つまり、ここにいる誰よりも長く生きる可能性があるという事だ」

 ……本当に、その通りだ。


「姉さん、単純に計算すると、リオネルさんは500年の封印期間を除いても、1000年以上生きられるポテンシャルがあるっつーことっす」

 ぽて……

「ディアナさん、魔法使いの寿命に個人差があることは何となく分かっています。僕もなるべくなら長生きして双子くんたちのお世話をしたいと思ってるんですけど……」

 ショーンが途中で口をつぐむ。

「ディアナ、双子とリオネルは全く違う。ショーンに面倒見切れるような代物では無い」

 ゼインが言い切る。


「なんじゃあ?ゼインは失礼なヤツじゃのう。なぜワシがお子さまに世話されにゃならんのじゃ」

 天井からリオネルがブツクサ文句を言う。

「お前が正真正銘のお子様だからだろうが!」

「なぁにを〜!?」

 いつの間に仲良くなったのか、ゼインとリオネルがギャイギャイ言い合っている。

「はいはい、二人とも落ち着いて」

 こういう時に頼りになる男が口を開く。

「リオネルさんと双子が根本的に違うのは、その生育歴だ。双子には18年間人間として暮らした素地がある。例え僕たちがいなくなってしまっても、人間の世界を上手に渡っていけるだけの基礎があるんだ」

 ───!!


 そうだ、その通りだ。

 リオネルと双子は全く違う。

 この人間優位の世界にリオネルだけ取り残されたら……。


「そこで、だ。魔法使いとしての修行が必要無いリオネルには、新しい修行に入ってもらうべきだと考える」

 隣の席でゼインが言う。

「……修行じゃと?」

「そうだ。……人間社会を学ぶ……修行だ」

「なんじゃとおっ!?ちょ、待て!ワシは外に出とうな…」

「ディアナ、師匠としてではなく母親の身になって考えろ。世の中を生き抜いていけるだけの知恵を与えてやるのが、親としての最低限の務めだ」

 ゼインが私をジッと見ながら、親としての道理を説く。


 ……母親として………。

 そこには言いたい事が色々あるが、確かにリオネルに必要なのは魔法使いとしての修行なんかじゃない。

 この世界に送り出すために必要なのは……


「……リオネル、やりなさい」

 パチンと指を鳴らし、リオネルをゼインの隣へと座らせる。

「は、はあっ!?し、しょ、ワシに外に出えっちゅうんか!?ワシが死んでもいいっちゅうんか!」

「死なない!あんたは老人になってから1000年生きたのよ?……人間の修行がいる。絶対にいる」

 リオネルが衝撃を受けたような顔をする。

「あー…話はまとまったみたいだね。リオネルさんの身分証の件は僕に任せて!」

「ニール、頼む」

 ヒラヒラと手を振って、ニールが転移した。

「じゃあ僕たちも今後の段取りしますね」

「だな。んじゃ失礼するっす」

 ギリアムとショーンも姿を消す。



 後に残されたのは、いつも通りの顔を崩さないゼインと、分かりやすく絶望を浮かべるリオネル。

「……リオネル、安心しろ。お前に一人で修行に出ろなどと言うわけがないだろう?……兄弟子にはそれなりに敬意を持っている」

 ……なんとなく、嫌な予感がする。

 ゼインがこういう物言いをする時は、だいたい人を丸め込む時だ。

「……さっき出てきた双子とかいうもんと修行するんか?」

 リオネルが小さな声で尋ねる。

「いや、双子はライバルだ。アレらは人間として暮らしただけの出来損ないだ。競争相手として申し分ない」

 出来損ない……ひど。

「じゃあ……」

「ああ、ディアナも修行に出る」

 …………はい?

「可愛い息子のサポートが出来ないなど親失格だからな」

 ゼインがニッコリ微笑む。

「し、師匠……!」


 はあーーー〜〜!!?

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