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目醒め

「あんた!!もっとこう他に言うべき事があるでしょう!?封印から醒めて開口一番…ブサイクって何なのよ!!この馬鹿!!」

 

 文句を言いながらも、否応無しに足が駆け出す。

 …リオネルが目醒めた!リオネルが……!

 と思ったのも一瞬、ベッドの手前で足が止まる。

「なーんての。間違った。師匠がこんなに若いはずが無いの。ありゃ今頃ヨボヨボの婆のはずじゃ。夢じゃ、夢……」

「……おはよう、リオネル。目覚めのシャワーは『針の雨』でいいかしらね…?」

「イタッ!イタタタタタタッッッ!!!」

「起きろ!この馬鹿!!」



「とまぁ、そういう訳で、この子がリオネル。リオネル、自己紹介なさい」

 師弟の感動的な再会を言祝ぐ雰囲気は微塵も無く、ひたすらポカンとしているゼインをリオネルのベッドまで押しやる。

「…あー……リオネル……ブラーエ……じゃ」

「…ああ、ええと…ゼイン・エヴァンズだ」

「……………。」

「……………。」

 続かない。会話が続かない。

 リオネルは布団から目以外出さない。

「……ニール達を呼ぶ」

 そう言って時計をポンポンして誰かと話し出すゼイン。

 これにリオネルが食い付いた。

「なんじゃその機械!!何をどうやって喋り出したのじゃ!?」

「あ、ああこれは電話と時計とその他諸々を……」

「見せてくれいっっ!!」

 ここに来てようやくリオネルは、その体を布団から出したのだった。



「ふおー!これまたすごいのう。ゼインこれは何じゃ?ここを触ったら魔法陣が出たぞい」

「ちょっとあんた動くんじゃ無いわよ!手の平出しなさい!!」

「私の端末には描くのに時間がかかる陣をあらかじめ入力しているのだ。…ここをこうして選ぶと……」

「おお…!何とすごい技術じゃ。ゼインが作ったのか?」

「そうだな」

「なんと!」

「ゼイン後にして!!」


 二人が楽しそうなのは喜ばしい。まことに非常に喜ばしいのだが、封印から醒めたばかりのリオネルの体の状態を調べるのに非常に邪魔くさい。

「ついでにゼイン、呼ばれた3人がけっこう長いこと待ってんだけど?」

 ワチャワチャと時計で遊んでいた二人の視線が、部屋の入り口へと向かう。

「…ああ、悪い。お前たち、リオネルに挨拶を」

 ゼインの言葉に、入り口あたりで固まっていた3人が目を見合わせてベッドの方へと進み寄る。


「…初めまして、リオネルさん。ニール・アードラーです」

「ギリアム・ウォードっす」

「ショーン・エヴァンズです。高名な錬金術師の方にお会いできて光栄です」

 3人がリオネルに丁寧に自己紹介をする。

「…リオネル……ブラーエ……じゃ。よ、よろしく頼むのじゃ…」

 が、頑張ったわね、リオネル……!ってちょっと待て。

 私未だかつてトリオに本名名乗られてないんだけど!?はあっ!?




 リオネルの体の状態を見た限り、魔力の滞りや極端な変化が無いと判断した私は、部屋の中央にテーブルを出して彼に体力回復のための食事を取らせることにした。

 場所をテーブルへと移し、5人は和やかに談笑している。

 私はその様子を少し離れたところからぼんやり眺めている。

 嬉しいんだけど、今ひとつ現実感の無い、ふわふわした気持ちでもって。

 ついでに言えば、テーブルに並べた飲み物と食べ物にゼインもトリオも一切手を付けないことに苦虫を噛み潰しながら。


「リオネルさん、もう周波数を理解したんですか?」

「そうじゃな。この分野は魔法使いの方がだいぶ進んでおったからの。音に波があることも雷に波があることも当然じゃ。皆も思念を使うじゃろ?あれを術式に直すと雷属性が出てくるのはそのためじゃ」

「へぇ!じゃあ魔法使いの世界にも通信機みたいなものがあったってこと?」

「そこが魔法使いの駄目なとこよの。なぜか伝言は〝飛ばす〟のが主流じゃった」

「そういやディアナもクラーレットも手紙を飛ばして来たな」

「じゃあ動画はどうだったんすか?」


 …そしておかしい。どう考えてもおかしい。

 私の方が400年も早く目醒めたってのに、5人の話が理解出来ない。

 ふわふわどころでは無い。


「錬金術師って凄いんですね!僕たくさん大学行きましたけど、リオネルさんが先生ならもう一回学生したいなあ」

「なんでじゃ?師匠に色々と習っておるのじゃろ?師匠はアーデンブルク魔法学校の名誉学長じゃ。師匠に習うために世界中から魔法使いが集まってのう……」

 リオネルの言葉に、突然トリオが呪いの仮面のような顔をして私を見る。

「な…何よその顔。いつも言ってるでしょ!私は大魔女なんだって!ゼイン、あんた弟子にどんな教育してんのよ!!」

「ありのままを伝えているのだが……」

「………あっそ」


 腕を組んで少し頬を膨らませていると、リオネルが大きく息を吐いた。

「…師匠、これは夢じゃ無いんじゃな……」

「え?」

「師匠……何で年を取っておらぬのじゃ?」

「…え?」

 リオネルの瞳が私を射すくめる。

「……おぬしは…本物の…ディアナ・アーデン…か?」

「──!?」


 今度は全員が凍りついたような顔で私を見る。


「…ほ、本物の……って、どういう意味よ」

「だってそうじゃろう?本物の師匠は今頃しわくちゃでヨボヨボの歯抜けの婆じゃないとおかしいんじゃ」

 歯抜け……

「はあっ!?」

「だいたい他のみんなはどこに行ったんじゃ?師匠が目醒めとるっちゅー事は、誰かが起こしたに決まっとる。こーんな若い魔法使い達が何とか出来るような封印を、ワシが施すと思うとるんか?」

 他の……みんな………。

「ベネディクトあたりじゃろ?あの男がエルヴィラの後始末を師匠だけに任せたはずが無いからのう。ワシを後回しにするあたり、何ともアヤツらしいわい」

 リオネルの言葉に指先が急速に冷えて行く。

 エルヴィラ……ベネディクト………。

 

 私の顔を覗き込んだゼインが少し焦ったような声を出す。

「リオネル、ディアナが…本物のディアナじゃない…とは、どういう意味だ」

 リオネルが言う。

「そのままの意味じゃ。師匠の封印を解いたのが誰であれ、師匠がこうして動き回っとるっちゅーことは、誰かが魔力を分けたっちゅー事じゃ。……年を取っておらんということは、誰かがその命を捧げたか……」

「───!!」

 全員が目を見開く。

「……と思うたが、師匠からは誰の魔力も感じられん。まるでうっすいヤギの乳のような魔力じゃ」



 リオネルの話を聞きながら、私は頭の中で言葉を探していた。

 そう、アレクシアが言っていた〝想定外〟について説明してあげられる言葉を。

 そして、いなくなってしまった魔法使いの仲間たちと、無くなってしまったアーデンブルクについて語ってあげられる言葉を。


「……リオネル、とりあえず今は『おかえり』とだけ言っておくわね」


 そして気づいてしまった。

 私はリオネルにかける言葉を何も準備していなかったことに。

 ……目醒めたリオネルが突き付けるのは、私が忘れてはいけない現実だった。

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