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ナナハラ国

「……何なんすか、何で一瞬でナナハラに着いたんすか」


 その日の朝、私はいつも通りに出勤してゼインに2、3個嫌味を言ったあと、トリオを連れてナナハラ国へと入った。


「転移したに決まってんでしょ」

 ぼんやりと辺りを見回すギリアムに素っ気なく返す。

「いやそうなんすけど、集団で移動する場合の転移魔法陣って、受け入れ側にも必要じゃないすか」

「あー…ね。オリジナルよ、オリジナル。自作魔法ね」

 私は魔女だ。行きたい時に行きたい場所へ行く。

 ……もとい、行けた。昔は。

 よもや魔法使いが世界から消えてしまっているとも思わずに、目覚めてからの200年はこうやって旅をしていた。

 そして旅をしている間に世界はどんどん面倒になった。

 まず、国境が明確になった。

 いちいち手続きしないと入国できないし出国できない。

 あと身分証がいる。旅券とか…査証?とかいうの。

 それをようやく手に入れたのは、ぶっちゃけアーデンブルク…ネオ・アーデンに帰る二つ前の国でのことである。


「ディアナちゃん、さっきのって世界地図でしょ?あれにピン突き立ててなかった?」

 ニールが興味津々に聞いてくる。

「んー……そんな感じ」

 魔法を練り込んだ世界地図。

 転移・転送、位置調節……まあ簡単に言えば、行きたい場所に魔力ピンを刺せばそれでいい。

「オリジナル……魔法って作れるんですか?」

 今度はショーンが目をパチクリしている。

「そりゃそうよ。そうじゃなかったらゼインのコレクションは今頃完成してるわよ。魔法は魔法使いの数だけ増えんのよ」

「「「へぇ〜〜」」」

「へーじゃないの。あんたらもカフェラテが0.5秒で出せるようになったらできるわよ!」

「「「……………。」」」



 とまあそんな事は今は後回しだ。

「ショーン、アラタカ山って、あのてっぺんが雲に覆われてるヤツ?」

「あ、そうです!岩肌剥き出しの……」

「ふむ……」

 ナナハラ国に来るのはおそらく2度目だ。前回は800年、いや、1000年は昔だろう。

 元々は良質な水晶が取れる国だったと思うが、現状見渡す限りは……荒涼としている。

「ゆっくり見て回りたいけど、そんな時間無いわよね?」

 とりあえずトリオに聞く。

「無いね」

 ニールが即答する。

「飛翔魔法と乗り物どっちがいい?」

「の、乗り物で!」

 ショーンが即答する。

「派手なのと地味なのどっちがいい?」

「派手っすね」

 ギリアムも即答する。

「ふむふむ…」


 というわけで、即席でド派手なオープンカーを作ってみた。どこかの国の結婚式で見たやつ。

「…ディアナさん、派手は派手でも俺の趣味じゃないっす。何すかこのどピンクな車!あと後ろの空き缶に何の意味があるんすか!!」

「は?意味なんか知らないわよ。どっかの人間に聞いて」

 どうにも微妙そうな表情の3人を車に無理やり乗せる。

 …何なのよ、文句あるなら最初から地味なのって言いなさいよ。そしたら地味なお姫様の馬車にしたのに。

「さ、快適な空の旅にしゅっぱ〜つ!」

「「「………おー……」」」

「元気がない!もう一回!!」

「「「おーッッッ!!!」」」

「うむ、よろしい」

 さあ、ここからが修行の始まりよ! 

 目一杯楽しむのよ!あんた達!



 

 アラタカ山は見たまま岩肌剥き出しのゴツゴツした岩山だった。

 ここで暮らす竜にとって、餌の確保は相当に困難であることが容易に想像できる。

 彼らが昔からここを根城にしていたならば、この状況は少なくともここ数十年から数百年で起こったことになる。


「ショーン、あの巣穴で間違いない?」

「は、はい!岩肌に空いた洞穴が棲み家です!」

 下見を行ったショーンの案内で、竜の巣穴はすぐに見つかった。

「オッケー!んじゃ練習通りやるわよ!トリオ!空中展開!」

「おけ!」「うす!」「はい!」

 三人三様の返事を残し、彼らが車を飛び出して行く。

 うむうむ。使い慣れていると言うだけあって、浮遊魔法は見事なものである。


 巣穴上空を囲むように三方向に展開したトリオが腕時計を構えて待機姿勢を取る。

「んじゃやるわよー。さてと。……あー恥ずかしい。ちゃんと出来るかしらねぇ…」

 次は私の出番である。空中からどデカいラッパを取り出すと、上空で思いっ切り吹き上げる。


プ…プパ〜……プヒョ〜

 …あれ、腕が落ちたかしら。練習したんだけど。

プリョ〜…パフ〜…

「ディ、ディアナさんやめるっす!!緊張感がもたないっす!!」

 うっさいわね!あんたの耳が良すぎんのよ!

「ギリアム待て!……動いた!不快な音でお目覚めだ!」

 ……不快……?

 ニールもぶちのめすリスト入りね。

「オスです!オスが顔出しました!」

 ショーンが叫ぶ。

「まだよー!待機!」

 悠長にはしてられない。美しい音色を聞かせるのはまた今度だ。

 私は車を宙に浮かべたまま車外に出て、車体後部にジャラジャラとぶら下がっている大量の空き缶に拡大魔法をかける。

「出血大サービスよ!」

 そして巣穴前方5メートル辺りに切り落とした。



【クアァァッッッ!!】

 ドガシャガシャーンッッ!という空き缶が落ちる衝撃音に、竜がつむじ風のような咆哮をあげる。

 まずは一匹目が警戒のため巣穴から飛び立とうと崖っぷちに後ろ足を掛ける。

 そしてもう一匹が巣穴から顔を出す。

「ディアナちゃん!そろそろいい!?ヤバくない!?」

 ニールがビビってる。

「ヤバくない。この竜の能力は飛ぶだけ!予習したでしょう!」

 火も吹かなけりゃ体長も5メートルほど。可愛いもんである。

 空中で仁王立ちしながら指をパチンと鳴らせば、落とした空き缶がポンポンッ!パパン!っと次々と爆発し出す。

 …いやさ、ここまでを華麗なるラッパの音色で披露したかったわけよね。


【キエエエッッッ!!】

【グアァァッッ!!】

 爆発音にパニック状態の二匹の竜がようやくバサッバサッと空中に羽ばたいた。

「お待たせー!トリオ、陣発動!!」

「承知!」「合点!」「了解!」

 やっぱりみんなバラバラな返事だったが、彼らは長い時を共に過ごしている。

 ピタリと息の合った、美しい魔法陣を展開した。

 ……三連の重力魔法陣を。

 

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