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 大広間。リオネルの周囲に4つ描いた超精緻な魔法陣。

 ネオ・アーデンに集った、今私が確認出来ている魔法使い全員で何度も検証した魔法陣。

 その4つの魔法陣の中心では、私のピアスとリオネルの耳飾りが、静かにその歴史を浮かび上がらせていた。

 時間魔法と文字化魔法の合成魔法陣の成果は素晴らしかった。4つ同時に発動させても、石に変化が加わったタイミングで必ず一旦停止する。

 そして浮かび上がる〝魔法の書き換え〟。

 現れる術式を書き取り、読み取りながらでも難なく作業が可能だった。

 足りないものは……体力だけである。



「……えさん、姉さん、座ったまま寝たら体バキバキになるっすよ」

「…寝て…ない…」

「完全に寝てたっす。でも目ェ開いててキモかった…イテ!」

 床に座り込む私の肩口から失礼な言葉を発するギリアムを後ろ手で殴る。

「何よ、今度はあんたが来たの?」

 あの酒盛りの日からこちら、ゼインとトリオが仕事の傍ら変わるがわる様子を見に城へとやってくる。

「うちの社長は超のつく心配症なんで。…どのくらい進んだんすか?」

 手に持つ巻き紙4本をギリアムに押し付ける。

「…丁寧にやってるからね。もうすぐ500年…てとこ」

「500年前に差し掛かったらゼインさんに緊急通信入れるっす」

「ふふ、分かってるわよ」


 リオネルの正面にあぐらをかき、床に広げた巻き紙をギリアムと覗き込む。

「…かなり細かく石が動いてるっすね」

「そうなのよ。私も900年で初めて知ったんだけど、この4つの石は何ていうか、勝手に連絡取り合ってたというか…ゼインの言ってた魔力感知システム?的なことをしてたみたいね。お互いがどこにいるのか把握し合ってる」

 …これを知っていたら、もっと早くリオネルを見つけてあげられた。

 その前にアレクシア以上のストーカーっぷりにゲンコツだが。


「じゃあ姉さんを幽霊屋敷に呼んだのはリオネルさんの耳飾りなんすね。偶然にしては出来過ぎだと思ってたんすよ。……ロマンあるじゃないっすか」

 ギリアムの言葉に一瞬キョトンとする。

「ギリアム、あんたって……本当にいい男よね」

 そう言えば、赤茶色の瞳が悪戯げに細められる。

「惚れたら大火傷するっすよ。一方的に、俺が」

「は?」


 とにかく謎は解けつつある。

「私とリオネルが持ってた石のうち、一つずつは守り石だって確定した」

「守り石?」

 頷きながらギリアムの首にかけられた魔封じのネックレスを指差す。

「守り石は、それを持ってる人物に命の危険があると、身を守るための反対魔法を即座に発動するっていう代物なの。ついでに私はそのネックレスに魔封じの効果を付与した」

 ギリアムが五芒星の描かれた黒い石を手にする。

「姉さんの身に危険があったら石が発動する……。ニールさんの話だと、目玉の幽霊が現れる前に強盗が武器を取ったって…」

「……なんだけど、幽霊屋敷で発動したのは土の中にいたはずのリオネルの石なの。…ここ見て」


 幽霊屋敷の地下室で、男が持ったナイフに現れた目玉たち。

 ナイフを振り上げられたのは間違いなく私。

「あの時私は瞬間的に魔力量を上げた。ニールの瞳に映った人間を見て、咄嗟のことだった。だけど私の石じゃなくて、地中にいたリオネルの石が反応した……」

 リオネルの守り石が浮かび上がらせた最後の術式は〝反射(リフレクト)〟。

「…俺はあんまり術式解読は得意じゃないっすけど、姉さんの魔力をリオネルさんの石が反射させて返して来たってことっすよね。姉さんの魔力って即死レベル……」

「お黙り。いい男からけっこうどうでもいい男に格下げするわよ。でも待って。私の魔力がリオネルの命に関わる……そういうことか………」


 私の呟きを拾って、ギリアムがポンッと膝を叩いて立ち上がった。

「ゼインさん呼んだ方がいいっすね。あと必要なものあるっすか?」

 …必要な人ならいる。まさにこのために私と幽霊屋敷に行ったのでは…いや、石に呼ばれたのではないかと思われる人物が。

「ニールをお願い。…あと、メモが得意な可愛い子」

 ギリアムが白い歯を見せて、ニッと笑う。

「全員集合!!っすね」




「ディアナ!鍵の謎が解けたのか!?」

 ギリアムが時計をポンポンすると、即座に心配症がやって来た。

「解けた。ほぼ間違い無いと思う」

「…ほぼ……で大丈夫なのか?」

「大魔女が言う〝ほぼ〟は〝パーフェクト〟ってことよ!……封印解くとこ、見たいんでしょ?」

「当然だ」

 ゼインが頷くと同時にニールとショーンが転移してくる。

「ディアナちゃん、お待たせ!」

「ディアナさん、大丈夫ですか!?」

「ふふ、大丈夫よ。二人とも来てくれてありがとう。みんなに手伝ってもらいたいの。そしてリオネルを仲間に加えてやって欲しい。…何だかんだ可愛い息子なのよ」


 口端を上げながらそう言えば、4人の目が大きく見開かれる。

「待って、いや違う。私は永遠の美少女だから決して子持ちでは無い。ええと……」

「…ディアナ、そこはちゃんと汲みとった」

 ゼインが何とも言えない変な顔をしている。

「あ、そう?とにかく、ゼインはそこの耳飾りの魔法陣に魔力を流して。私はこっちのピアス」

 リオネルから見て左側にゼイン、右側に私がしゃがみ込む。

「ニールは私の側で浮かび上がる術式を読んで。ギリアムはゼイン側よ。ショーンは全力でメモしてちょうだい!」

「おっけ!」「うす!」「はい!」

「ゼイン、休みなしで、でも呼吸を合わせて行くわよ!」

「ああ!」


 私とゼインがほぼ同時に魔法陣に魔力を流す。

 青白く光る陣の中で、石が小刻みに揺れ動く。

「術式出た!ええと…契約…対象…文字数多っ!リオネル・ブラーエ……変更…」

「こっちも出たっす!えぐっ!魔力…内包……自然回帰…780……」

「ニール、名前だけでいい!ギリアムは数字!ゼイン続けて!」

 途切れることなく魔力を注ぐ。

 ニールとギリアムの声が響く。

「エルヴィラ・スウィニー!」「180!」「ゲイリー・トバイアス!」「220!」「ジャクリン・ミラー!」「200!」

「フランクリン……」

 懐かしい名前が浮かんでは消えていく。

 知らず知らずのうちに目に涙の膜が張る。

 …私の……人生。私の全てだった…可愛い弟子たち。


「…ベネディクト・サーマン!」「85!」

 二人が読み上げた名前を最後に、カタカタと揺れていた石がその形を少しだけ歪に変える。

 そして私は魔力を流すのを止めた。

「……ありがとう。もう…大丈夫……」

「ディアナ……」

 座り込む私の側にゼインが駆け寄って来て背を撫でる。

「ディアナさん…」

 ショーンが私の隣に膝をつく。

「ショーン、解読よ。さあ頑張ってごらん」

 こくりと一つ頷いたあと、ショーンが声を出す。


「…ピアスに込められた魔法は、ディアナさんの魔力の受け皿になる人物を指定するものです。そして耳飾りの方は、魔力を受けた人物が魔力を体内で消化するまでに必要な年数、それから……」

 ショーンの言葉を聞きながら、リオネルと手を繋いで一緒に孤児院を出た日を想う。

「…魔力を受けた人物は、受けたと同時に時間を遡り始めるから体内時間が止まる。時間魔法を使った……封印…ですね」

 自分の瞳から一筋の涙が流れるのを感じる。

「…ニール、リオネルに魔法をかけて。この子に溜まったままの、闇を払って。呪文は……」

「待て!口にするな。…私が伝える」

 ゼインが真顔で私を制し、ニールの元へと向かう。

 私は見上げる。リオネルを。


「…汝清らなる魂よ、その身の闇を払い…魔を滅せ。宿りし色を取り戻せ……」


 リオネルの止まった時を動かすために祓う〝魔〟。

 私があの時抱えていた膨大な魔力。

 ニールの唱える呪文を聞きながら、淡く、儚く宙を舞う、リオネルに負わせた業の行方を目に焼き付けた。

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